孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる

読了目安時間:5分

アルマイレ王

「これから帰って何します?」 「特に何も」 「あ、じゃあ本屋さん行っていいですか? ちょっと読みたいものがあって」  アリナとロイドとの会食を終え、再び街を二人で歩き出すヴィルハルトとエレイン。  先程は何故かアリナが突然怒り出したものの、エレインが宥めたことで事なきを得た。眉間に一撃貰いながら、どういう訳か楽し気なロイドに関しては考えないようにしたが。 「それにしても楽しかったですね、ヴィルハルトさん」 「無駄に周囲の注目を集めるような行動は勘弁して貰いたいがな。俺たちだと気づかれれば、またぞろ面倒なことになる」  ヴィルハルトは魔将の身体故に身体的疲労とは無縁だが、精神的な疲労は例外だ。最近エレインのおかげで実感したばかりだが、あれが遥かにマシに見える程度には今の状況は面倒過ぎる。 「お前も無駄に声を大きくしたりはするなよ」 「分かりました!」 「言ったそばから……」  最早突っ込む気力すら失くしたヴィルハルトは、何も言わず書店の方へと歩いていく。  夏が近いとはいえ、まだ日は高い。早いところほとぼりが冷めてくれればいいが、魔将や魔物を討伐すればまた名が広まる。しかし手を抜くのは論外だ。 「アンタの気持ちが少し分かった気がするよ、ジュリウス」  誰にも聞こえない声で呟いたヴィルハルト。  すると、そこに鎧の音が聞こえてきた。 「失礼。貴公らが、ヴィルハルト・アイゼンベルクとエレイン・アーネットで間違いないな?」  突如、白い鎧を纏った三人の男がヴィルハルト達を取り囲む。彼らの胸には戦士のものとはまた別の銀色の紋章が飾られていた。 「えっ、なっ何ですか!? 私たち何も悪いことしてないですよ!?」 「いや、待て」  見るからに『正義』の二文字を背負っていそうな鎧の男が押し掛けてきたとなれば、慌てるのも必然。だが、ヴィルハルトが見たところ別段張り詰めた様子では無さそうだ。 「貴様ら……『王宮』の警護か。何の用だ?」 「国王陛下より言伝を預かっている。ヴィルハルト・アイゼンベルク及びエレイン・アーネット。翌日正午、王宮へ来るように。これは陛下直々の命であり、貴公らに拒否権は無い。では、確かに伝えたぞ」  単刀直入に要件だけを告げ、男たちは帰っていった。 「陛下……え? 王様?」 「ああ、あの紋章は間違いないな。……無能な奴だが、無視する訳にもいかない。面倒な……」  ポカンと口を開けているエレインに、ヴィルハルトは苛立たしそうな面持ちで答えた。  * 「それで、ヴィルハルトさん。王様が無能って、どういうことです? というか、どうしてお家に帰る必要があったんです?」 「外じゃ誰が聞いているか分からんからな。批判しただけで逮捕されるようなことは無いが……信奉者が何処かにいるとも知れん。リスクは回避するに越したことはない」  書店で入手した本を抱えながら、エレインがソファーに横たえながら話を聞いている。椅子に座り、憮然とした表情で腕を組むヴィルハルトからは、愉快な話をする雰囲気は感じ取れない。 「集会所で話したな。アルマイレの戦士報酬は他国に比べて安いと」 「あ、はい。そういえば、どうして安いんでしょうか?」 「簡単な話だ。今の王がその座に就いた時、その辺りをバッサリカットしたからだ」  ため息交じりに語るヴィルハルト。それによると、そもそもアルマイレは十年前の『崩れの日』で甚大な被害を被っていたという。当時アルマイレ最強だった戦士も斃れ、王家は当時の国王を含めてほとんど全滅。王には男女合わせて八人の子がいたものの、生き残ったのは文官を務めていた第三王子、つまり現国王だけだった。 「他になれる人がいなかったからなったって事ですか?」 「そうだな。だが自分が王になること自体は納得済みで、使命感も持ち合わせていたらしい。尤も奴が王になって一番優先させたのは、自分の趣味である芸術分野の復興だったが」 「もしかして、戦士の給料が安いのって……」 「その分を削って芸術や学問に費やしたからだ。『これほど大規模な侵攻があった後では、魔物側も疲弊している。なら、今防衛に過剰に税を費やすのは愚策』だとか尤もらしいことを吐かしてな」  その結果アルマイレの防衛力が下がり、ヴィルハルトがいなければどうなっていたか分からなかったとなれば、成程ヴィルハルトが無能と吐き捨てるのも無理はないかもしれない。そう思ったエレインだったが、ここで一つ疑問が浮かんだ。 「でもさっき信奉者がいるって言いましたよね?」 「奴が優先した芸術家や学者は懐が潤って満足しているよ。まぁ実際、そういった職業の連中が集まってきて、その辺りの発展は他国の追随を許していない。あの図書館のお陰で、国民の教養も悪くない。だから功績が無い訳では無い。だがそれも……」  皮肉な笑みを小さく浮かべながら、何処か遠くを見ながらヴィルハルトは吐き捨てるように言った。 「魔王(エカテリーナ)の気まぐれ一つで崩されれば終わりだ」  エレインはゴクリと息を呑んだ。  そうだ。彼女は最強の勇者と魔導士が組んでも勝てなかった相手。自分とヴィルハルトで少しでも早く討たなければならない相手だ。そうでもないと、自分が手にしたこの本もいつ焼かれてしまうか分からない。 「あの人を討たないと……やっぱり平和には暮らせないんですね」 「当然だ。まぁ、それより今は王の召集だな。どんな話をされるかは分からんが、どうせくだらん話だ。お前は話半分に聞いていればいいだろう」 「あの、服は何を着ていけばいいでしょうか?」 「魔導士の認可を受けた時、ローブを貰っただろう? それで良いはずだ」 「ああ、あのブカッとした服! 確かにあれ、着てる人結構いますね!」  左手を皿にしてポンと右手を打ち付け、感嘆するエレイン。  アリナも最初に会った時や自分に魔術を教える時に着ていた服だ。 「アレの着用は義務じゃないから、監視役の時以外で着る奴は少ないがな。一応魔導士の正装という扱いだ、フォーマルな場には着ていけよ」 「分かりました」  明日、この国で最も偉い人に会う。今から緊張感を覚えてエレインは唇を引き結んだ。

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