シロハネ −七人の霊媒−

常連

 雰囲気の良い店だった。  煩過ぎず、静か過ぎず、照明の明るさも丁度良い。  天井に設置されたスピーカーからジャズが流れている。曲名はわからないが店の雰囲気によく合っている。  カウンターの一番奥の席にその男は座っていた。  体格の良い男だった。  巨漢とは言わないまでも一般的な成人男性よりも一回りか二回り大きい。  背丈もだが肉が厚かった。  肥満ではない。鍛え抜かれた肉体である。  男の名は、東雲龍成といった。 「隣、いいですか?」  私が声をかけるとちらりとこちらを見てすぐに自分のグラスへと視線を戻す。 「お前か」  良いとも悪いとも言われなかったから良いということだろうと勝手に判断し、私は隣に座った。とりあえず同じものを注文する。  間も無く私の前にもグラスが置かれた。ウイスキーだった。 「なぜ俺がここにいるとわかった?」 「タケに聞いたんですよ。龍さんはよくここで飲んでるって」  先日、北郷武士に会った折に東雲龍成に会いたいと伝えるとここを教えてくれたのだ。 「あいつか」  武士は龍成さんに懐いていて、二人ともほとんど住所不定みたいなものなのだが会えば連んで飲みに行ったりしているらしい。龍さんの方も態度には出さないが嫌ってはいないようであった。  龍成さんは自分のしている仕事のことはほとんど話さない。ガードマンのようなことをしていると以前聞いたことがあるくらいだ。  私たちの後ろを客が一人通り過ぎて出口へと向かった。  その客が店を出る寸前に私は振り返って後ろ姿を見た。  私たちが座っているのは店の一番奥だ。今の客はどこから出てきたのだ。 「お前は、死んだ人間が視えるんだったな」  不意に龍成さんが言った。 「まあ、視えるっちゃ視えますね」  私は曖昧に答えた。  私は視えると言っても四六時中そういうものが見えているわけではない。もしそんなことになったら日常生活もままならないだろう。  それに私は私に視えているものが死者そのものだとは考えていない。 「今、後ろを誰か通ったか?」 「ええ」 「どんなやつだ?」  私は今視た人の特徴を大まかに伝えた。元より後ろ姿を一瞬視ただけなのでそれ以上のことはわからない。  龍成さんは短い沈黙の後「そうか」とだけ言った。 「知ってる人ですか?」 「この店の常連だった男だ。少し前に死んだ」  私は驚きはしなかった。こういうことは偶にある。 「なんだか、まだいる気はしてたんだよ」  そのとき龍成さんは少し笑っているように見えた。

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