転生憲兵は悪食属性~140センチは燃費が悪い~

第六節 逆転の奇策をご覧あれ

 珪素騎士に追いつかれるまで、猶予はわずかしかなかった。  狭い配管だらけの通路に逃げ込んだことで、ほとんど分岐も、隠れる場所さえなかったことが災いしたのかも知れない。  大きな穴、講堂のような場所まで逃げ延びたところで、私は立ち止まるしかなかった。  単純に行き止まりだったからだ。 「叛逆者ァ……!」  滴るような憎悪の声で呼ばれ、振り返る。  赤い血と、自らがこぼす青い血にまみれた珪素騎士が、私を睨み付けていた。  彼奴に油断はない。  十分すぎるほどこちらとは距離を置いており、この狭い通路でも、功子弾頭を回避できるだけの余裕を持っている。  ……もっとも、射出機構はすでに壊されてしまっているのだが。 「私に首ったけだな、珪素騎士。どうした、幼女に興奮する特殊な嗜好でも持っているのか?」 「うるせぇ、うるせぇよ! ()()()()()()()()()()()()! おまえは、ここで収穫してやる! 知ってるかぁ? 青い果実が一番うめぇんだぜ……」 「そうやって」 「んん?」 「そうやって、〝彼〟らも食らったのか。〝彼〟の肉体を使って〝彼〟の家族を」 「……ああ、俺の素体になったやつのことか。関係ねぇよ、この世界の生命体なんざ、収穫されるためにあるんだからな。そうだ──おまえもそうしただろうが、叛逆者ぁ!」  ……確かに。  私もヴィーチェに言われて、生きるために獲物を狩った。収穫した。  振る舞いは同じだ。  それでも──と、私は奥歯を噛み締める。  それでも、自分は生き延びねばならないのだと。  為すべきことが、あるのだから。 「ゆえに珪素騎士──まずはおまえを、誅戮(ちゅうりく)する。廻坐乱主の前座にふさわしいか、私が試してやろう!」 「やってみせろよぉ、このッ、ノロマがぁああああああ!!!!」  そうして、戦端は再び開かれる。  おそらく最後となる、この騎士との戦いだ。  彼奴は加速した。これまでのどのときよりも速く、鋭く、最速に。  バンと空気が弾ける。  床が車輪に踏み砕かれ、目視できない超高速で。  槍を構えた珪素騎士が、まっすぐに私へと突進し──  キュルルルル──ピィィン! 「なぁ!?」  なにかが張り詰める音ともに、珪素騎士の驚愕の声が響いた。  彼奴の超機動力が、一瞬だけ静止する。  なにが起きたのか。  簡単だ、彼奴の全身に、細い光が絡みついていたのである。  光──()()()()が!  〝大鴉〟の制御補助を最大限活用し、極限まで細く紡いだ功子の糸!  まっすぐ進むしかない通路に張り巡らされていた蜘蛛の糸が!  いま、珪素騎士の全身を束縛する……! 「おおおおおおおおおおおおおお!」  速度とは力だ。  力とは荒れ狂うものだ。  普段完璧に制御しているものが、わずかでもおのれの度量から外れたとき、それは行き場を失って暴走する。  わずかに狂った足捌きは、彼奴の身体を慣性に明け渡す。  見えない力に引っ張られるようにして転倒した珪素騎士は、弾かれたようにこちらへと飛来。  私はそれを、巴投げの要領でさらに背後へと投げ飛ばした。 「き──貴様ぁぁあああ!?」  穴の底へと落下していく珪素騎士が、なにかを悟って吠える。  だが、もはや遅い。  そう、遅かったのは私ではない。  おまえなのだ、珪素騎士。 「地の底で、遅すぎる後悔をしろ」 「叛逆者ああああああああ!」  吠える珪素騎士が、講堂の床面に激突した瞬間。 「「「「「「ギリャアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」」  彼奴の周囲に存在した配管が。大小短長、無数の配管すべてが、一斉に屹立(きつりつ)した。  配管は波打ちながら襲いかかり、ノコギリ状の歯で食らいつき、大量の体液を浴びせかける。 「あが、ががががが!? 溶ける!? 俺の身体が、溶けて啜って食らわれる!? こいつらは──パイプズマイ!?」  そう、この場所は〝巣〟。  パイプズマイの、巣だったのだ。 「ふざ、ふざけるなあああああああああああ! たかが、たかが下等生物の群れに、いつまでも俺を封じておけるなどと! この、この糸だって引き千切って──」 『ええ、キリクは勿論、そんな楽天家ではありません』 「!?」  絶叫し身もだえする珪素騎士へ、私はすでに、右手を向けていた。  もとより功子の糸も、パイプズマイも決定代になるなどと楽観していない。  ただ、一瞬の拘束として機能してくれれば、それでよかったのだ。  彼奴が人知を越える化け物で、大出力の功子をぶつけなくては殺せないというのなら──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 「は──叛逆者ああああああああああああああああああああああ」 「……喰われる痛みを知りながら、〝彼〟に冥府で詫び続けろ」  脚部アウトリガーが床を貫き、私の身体を固定する。  胸部の勾玉状リアクターから、右手に向けて全功子が流入。  紫電をまき散らしながら、竜の頭部(ペンドラゴン)を模した装甲が開かれ── 『照準をこちらに。トリガーをキリクに! 限定装置全解除(リミッター・オール・リリース)──功子、最大投射します』 「散華せよ──!」  放たれた光輝が、極大の黄金槍となって、珪素騎士を講堂ごと刺し貫いた。

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