声で全てを覆したい

「ふう」  私は事務所のレッスン室で数時間練習してた。まあレッスン室って言っても何か特別な場所ってわけじゃない。狭い個室にマイクスタンドだけおいてそれっぽい雰囲気を出してるだけの部屋だ。これがクアンテッドならマイクだってちゃんとあって聞き返すように録音設備さえ整ってる。それにちゃんとしたボイストレーナーの方も複数人居て、随時アドバイスをもらえたりいたれりつくせりだ。私も実は使った事あった。  なにせ今は自由にクアンテッドに出入りできる。資金力の差……それを十分に痛感した。あそこはなんでもスケールが違う。でも私的にはここの方が安心する。この何もない感、そしてアナログ感がいいよね。 「とりあえずこれとこれがいいかな。うん……やりがいありそう」  一通り私はまず台本を読み込む。そして全部の役をやる。別に男の声も出せないわけじゃないからね。でもやっぱり男性の声を女性がやるってのは少ない。いや、男の子――程度なら、逆に多いくらいではある。だって男性声優って大体声変わりが終わってる人ばかりだ。女性の声優なら、それこそ女子高生とかいるけど、男性になると……ね。中学生には既に声変わりしてるはずだ。そうなると、若いってされる男性声優でも幼い男の子の声を出すのはきつい。だからそこらへんは女性声優がやることがおおい。  まああくまでそこの部分だけだけど。大人な男性を女性がやるなんてまずない。使う意味もないしね。あるとしたら実は女の子が男装してます……って設定が必要だ。でもそれって結局女性だしね。なのでやっらり男性役は早々に候補から外れる。この作品には主要な女性が三人いる。一人は幼女だ。金髪ふわふわな見た目の可愛らしい幼女。そしてもう一人は引きこもりしてる中学生の子で、最後に主人公の同僚のバリバリのキャリアウーマンの上司的な位置の人。  まあ細々とした女性なら他にも出る。商店街のオバちゃんとかね。でもそれはレギュラーではない。狙うものじゃないだろう。この作品、きっと先生の作品って事で、かなりの大規模になるんじゃないだろうか? そうなると……倍率がヤバいことになる。女性声優はいっぱいいるし……その人達がこの役を取り合うんだ。しかも今回はマスコット的なキャラがいない。いや、いるにはいる。多分この金髪幼女がそうだと思う。  でもこの作品ではとても女性が少ない。いや、もっとメインからサブドメイン的なのを考えれば……それなりにはいるけど。でも台本的にはこの三人を絶対にやる前提だ。実はこの子を狙ってます……なんてのは口に出していうようなものじゃない。多分オーディションで制作側が他の配役は判断するんだろう。だから今回やって取り合うのはこのメイン達だけ。私的にはすごく不利になりやすい。  なにせ、メインとも成れば絶対に顔出しイベントとか前提だし……私は顔出しNGだ。そうなると……聞く前からバツをつけられたり……いや、先生の作品だし……それはないと思いたい。 「とりあえず、私は全力を尽くすしかないよね……」  今度のオーディションは本当に声だけでやる。どんな逆境だって、声で振り払う。その気概を私は持たなきゃいけない。 「よし、原作を読み直そう!」  とりあえずレッスン室を後にして、原作からキャラの理解を更に深める方向に私は舵を切る。

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