私は旅人(改訂版)

読了目安時間:4分

何もない世界の考古学者

 私は旅人。  世界を歩くただの旅人。  旅をした先で、であった人、見たもの、色んな事をメモしていく、ただの旅人。  今いる世界は船の世界。皆さん一年中船に乗って生活していて、とてもカレーが美味しいです。  私は福神漬けを添えるのが好きなのですが、この世界ではナスの漬物を添えるんだそうで。案外合うものですね。  しかし、カレーか。あの世界で出会った、彼は元気でしょうかね。 ◇  私は旅人、今日訪れたのは終わった世界……のようですね。白い、どこまでも白い世界で、空も、地面も真っ白です。  この白い世界には、生命はありません。生命どころか、大地の凸凹や、海のようなものすらもない。ただ、病的なまでに白い世界が、ずーっと広がっているばかり。  この世界に、一体何があったのでしょうか。  首を傾げ、少し歩いてみます。風もない。香りも、音も、自分から発せられるもの以外何もない世界。  とても不気味ですね、生理的嫌悪感がひどい。  白ばかりで目も痛くなってきましたし、見る場所もないようですから、とっととおさらばしようかな。なんて思っていたところ。  鼻が、何か自分とは違う香りを感じました。これは……スパイシーな香り。まるでカレーのような。  その香りのする方向へ、足を進めます。すると、黒い点が見えてきました。  その黒い点は、だんだんと大きくなっていきます。まあ、近づいているのですから当たり前ですかね。  よく見れば、その点は人でした。  誰かが、この何もない世界でテントを張ってカレーを作っています。なんだか、楽し気な音楽まで聞こえてきますね。  私が目を丸くしながらも近づいていくと。そのテントの人が私を見つけ、相手もびっくりした表情で。 「おや、こんな終わった世界に、旅人さんが来るなんてね」 「えっと、こんにちは……でしょうかね」 「好きな挨拶でいいよ。この世界には、朝も昼も夜もないからね」  そう言いながら近づいてきたのは男性の人間のようです。なんといいますか、探検家っぽい服装ですね。ヘルメットに、一杯ポケットのある服に。 「私は、見ての通り世界の旅人ですが、貴方は? 」 「俺かい? 俺は世界の考古学者……といえばいいのかな」  そう言いながら、飯ごうからご飯をお皿によそうと、私に向かって。 「まあ、立ち話も何だし。食べるかい? 」 「いただきます」 ◇  カレーは中辛程度の辛さで、夏野菜がたっぷり入っていました。彼曰く。 「こんな何もない世界じゃ、季節感のある食べ物がないと気がおかしくなるからね」  らしい。とりあえず一皿頂いた後。私は彼に聞いた。  一体、この世界は? 「良い質問だね。答えは、『さっぱりわからない』かな」  はあ、さっぱりわからないですか。 「うん。そうだ、おかわりを食べている間に、この世界の調査記録でも聴いてくれるかい? 」  良いですよ。興味津々ですから。  彼は。私のお皿にお代わりを用意しながら、語ってくれた。 ◇  俺は世界の考古学者。色んな世界へ飛び、その世界で昔、何があったのか。そういったことを調査しているんだ。  俺がこの世界に来たのは本当に偶然でね。この何もない世界に来た時、ピンと来たんだ。  この世界に何があったのか。それを知ることが俺の命題かもしれないってね。  だけど、この世界の昔を調べるのは、本当に大変でね。まあ、何もないから当然なんだけど。何もないにしても限度があるだろうと思うくらいに何もない。  呼吸できるのが唯一の救いかな。  とにかく、何があったのかをこの世界に残留しているであろう、『魂』に聞くために、特殊な機械を持ち込んだ。ところがこの世界、魂すら残ってない。  しかも、大地を調査しようにも、この大地、案外固くってね。俺が手に入れられる範囲での爆薬やら、装置では傷もつかない。  はてさて、困った困った。とにかく、歩いてみようと1年くらい歩いたけど、見つけられたのは…… ◇ 「見つけられたのは、この岩だけだったよ」  そう言って、世界の考古学者らしい彼はテントで隠れていた少し大きめの岩を見せてくれました。本当に、ただの岩ですね。岩山とかにありそうです。 「この岩は何なんだろうか。この何もない世界で、唯一色を持ち、地上にある白以外の物体。何かあるに違いない。もしかしたら、この世界に何があったのか、見ているかも。とはいえ、岩と対話する能力は、俺には無いんだよね」  そう言いながら、彼もカレーを食べます。 「まあ、色々やってみるよ。この岩の種類とか、成分とか調べないとだしね」  その後、彼はいろんな別の世界の古代の遺物を見せてくれました。特に興味深かったのは、古代の旅人が使っていたとされる靴でしたね。この靴の持ち主は、どんな旅で、何を見たのでしょうか。  一通りカレーを食べ終えたら、彼にお礼を言って、この世界を去りました。 ◇  彼は今、何をしているんでしょうかね。あの岩と向き合い、あの世界の謎を解き明かせたのでしょうか。  それとも、まだ解けていないのでしょうか。少し興味はありますね。  あの夏野菜のカレーはおいしかったです。また、食べに行ってもいいかもしれない。  そんなことを考えながら、私は目の前のシーフードカレーを食べ終えるのでした。

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