私は旅人(改訂版)

読了目安時間:5分

灰かぶりの欲しい王様

 私は旅人。  世界を歩くただの旅人。  旅をした先で、であった人、見たもの、色んな事をメモしていく、ただの旅人。 そしてたまにメモを開いて思い出すのだ。ああ、こんなことがあったなと。  さて、今日開いたメモに栞代わりに挟まっていたのは、王国の晩餐会への招待状。そういえば、記念にもらったんでした。  ◇  今日立ち寄った王国では、もうすぐ、王子様の婚約者を決めるパーティがあるらしいです。実は私、パーティは大好きなのです。ご馳走が沢山食べられますからね。  パーティが楽しみで、フンフンと鼻歌を歌いながら街を歩いていれば、トスンとぶつかったのは、灰や煤で髪の汚れた女性。どうやら買い物帰りのようで、手には籠を持っています。 「あ、その、すいません」  彼女は弱弱しい声で私に謝ってきます。おっと、悪いのは私のほうです。  慌てて私も謝罪します。幸いなことに、買い物かごの中身はこぼれたりしていないようで。 「すいません、少し浮かれてて、不注意でした」 「いえ、それは私も同じです。すいませんでした」  そう言って、そそくさと逃げるようにどこかへ行ってしまった。  彼女、身なり汚なかったけど、綺麗にしたらけっこう美しい人に化けるかもしれないなぁ。なんて考えながら、リンゴ串を買って齧っていると、目の前に現れたのは、マントとフードで顔や姿を隠した大柄な男性でした。 「すまない、そなた、旅人とお見受けするが、少しいいだろうか?」  この時私は、面倒事に巻き込まれないと良いけどなぁと考えましたが、今考えれば、こういう厄介ごとに巻き込まれるのも旅の華ですよね。 「何でしょうか」 「先ほど、灰をかぶったような、汚れた女とぶつかったな。それについての話だ。だがここでは話しづらいから、酒場へ」 「私にメリットが見当たりませんが」 「その酒場は、蒸留酒を隠し味に使ったパスタが美味しい。私が奢ろう」 「いいでしょう」  私は了承し、路地裏の酒場へと向かいます。この王国は治安がいいのか、こんな場所の酒場でも綺麗で、内装は整っていていい雰囲気だ。そこの椅子に座る私と男性。 「さて、何の御用でしょうか。先ほど、汚れた女がどうのと言っていましたが」  パスタをフォークに絡めながら聞きます。 「ああ、すまぬな。先に自己紹介しておこう。俺は、この国の国王をしている者だ」 「はぁ、国王様……ですか」 「ふむ、意外と驚かないのだな」  どうやら、王様を名乗るこの男性は、もっと驚いてほしかったようだが、生憎とそんな軟な心臓はしていないのです。  それに、現実味がないですし。 「まあ良いだろう。ただ、ここからの話は、俺がこの国の国王だということを前提にして話を聞いてほしい」 「はい。わかりましたが、なぜ私に?」 「そなたは旅人。国王がここにいるなどと、言いふらすようなことはしないだろう? それに、旅人なら色んな事を見聞きしていると思ってな」  何やら、旅人に絶大な信頼を抱いていますね、この人。まあ、言いふらしたりなんてしませんが。 「まあ、国王様に聞かせられるようなことは少ないと思いますが。では話を聞かせてください」 ◇  うむ。私はこの国の国王だ。妻もいれば息子もいる。国は安定し、何一つ心配事などない。そう、そのはずだった。  だが、私の息子はもういい年なのだが、まだ妃を選んでいない。これは由々しき事態だ。  跡取りのいない王国が崩壊するのは世の常だからな。  奴に妃をとらせるために、今度のパーティを開くのだが。まあ、それは置いておこう。  そんな心配を心に持ちながら、ある日、俺は町を練り歩いていた。そんな時だった。一人の、煤と灰で汚れた女性を見たのは。  最初見た時は、ただ汚らしい娘だなと思ったのだが、不思議とその顔が印象に残った。  また別の日、街を練り歩いていたら、またその娘を見つけた。相変わらず汚れていたが、二度目に見て、その娘の美しさがわかった。汚れてなおあせぬ美しさにな。  もし、汚れを落とし、着飾ればどれだけ美しいだろう!  無性にその娘が欲しくなった。言っておくが、俺は妻を愛しているし、後宮をとろうという気はない。ただ、純粋に彼女が欲しくなったのだ。  まあ、宝石を愛でたいという心理と同じかもしれないな。だが、宝石とは違い、彼女には心もあるし、会話もする。感情を表現したりもする。  人さらいなどもってのほかだし、どうやって彼女を愛でればいいのか悩んでいてな。そんな時だ。そなたを見つけたのは。  旅人よ、何かいい知恵は無いだろうか?  彼女の人としての価値を無視せずに、愛でる方法を、一緒に考えてほしい。 ◇ 「はぁ。いい知恵ですか」  なんとも、王様らしい身勝手なお願いだなぁ。なんて内心呆れましたが、何かが欲しい。それは万人に共通する欲です。それを否定するのはできません。  さて、どうしましょうかね。  少し頭を悩ませ、一つ、案を考えてみます。 「私のようなものが考えられるので、良い意見など少ないと思いますが、一つ提案が」 「なにか、思いついたか?」 「そうですね、何とかして、その灰をかぶった女性を、あなたの息子さんの王子様。その妃にさせればいいのです」 「奴の、妃に……? 」 「そうです。まあ、どう妃様にするかという方法は分かりませんがね」  だが、王様は満足してくれたようだ。 「いや、思いもつかなかったが、良い案かもしれぬ。たしか、彼女の継母の性格は最悪だったはず。なら、彼女をパーティに普通に誘っても来ない可能性が高い。なら魔法使いを雇って、彼女に美しい服を与え、パーティに参加させれば、奴がよほど女嫌いでなければ! 礼を言うぞ、旅人よ! 良い案をくれたな」  少し興奮気味の王様に若干引きつつも、喜んでくれたら何よりです。 「いえいえ。そこまですごいことはしていませんが」  そうだ、せっかくですし、こんなお願いをしてみましょうか。 「あ、そうだ国王様」 「なにかね?」 「私も、パーティに参加させていただけませんか? ご馳走、いっぱい食べたいので」 ◇  この後、私はパーティに参加できました。非常に美味しいカボチャ料理が沢山出されましたね。聞けば、この国の名産らしいです。  そう言えば、会場を沸かせた、美しいガラスの靴のお姫様が来たらしいがのですが、ご馳走に夢中になっていた私は気にしませんでしたね。 ◇  そんなメモ帳を読んでいると、私はお腹が空いてきました。久々に、カボチャ料理が食べたいですね。  そうだ。またあの国に行ってみましょうか。確か、王子様の婚約パーティがあるとかないとか。  私は旅人。次は、どんな人に出会えるのでしょうかね。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る