私は旅人(改訂版)

読了目安時間:5分

勇者を裏切ろうと思った戦士

 私は旅人。  世界を超えて歩くただの旅人。  旅をした先で、であった人、見たもの、色んな事をメモしていく、ただの旅人。  そしてたまにメモを開いて思い出すのだ。ああ、こんなことがあったなと。  さて、今から語るのは、ドラゴン住まう山脈地帯へと行ってしまった時の話です。 ◇  この日、私が立ち寄ったのは、魔の龍の住まう山脈地帯。枯れた木々もまばらで、遠くでは雷が鳴っています。  なぜそんな危ないところに来たのかといわれても、特に理由はないのです。ただ、私が歩いていた先にその場所があっただけ。  しかし、目的もなくこの場所に来たことをちょっぴり後悔しているかもしれない。  目の前に、今にも火を吹かんとしている赤茶色の鱗をしたドラゴンがいますからね。このドラゴンが、魔の龍でしょうか?  流石の私も死にたくはありません。さっさと逃げさせてもらおう。そう思った時でした。 「ウオオオオオオオオ!」  そんな雄たけびと共に、大きな斧を持った、がっしりとした男の人が、私の後ろからドラゴンに切りかかりました。  そしてズバン!という擬音が聞こえてきそうな勢いで、ドラゴンの首が真っ二つになったのです。血が噴き出し、その男性を赤黒く染めます。 「大丈夫かい? あんた」  そう声をかけてきたので、こちらは大丈夫だと伝えると、彼は呆れたような表情をします。 「しかし、そんな軽装備で、この魔の龍の山脈に来るとは。あんた、死にたいのか?」  失礼な。私は死にたがりではないです。ただ、私の向かう先にこの山脈があったのが悪いのです。  そう伝えると、相手はさらに呆れたように。 「まあいい。ここら辺で俺も一息入れるか……あんたも、水飲むか?」  そう聞かれたので、あり難く一杯の水をもらう。そして彼に聞きます。なぜ、あなたはこの山脈に来ているのかと。  自分でも、危ない山だとは知っている様子です。ですが、わざわざ来るなんて。  すると、一瞬悲しそうな表情を浮かべた気がします。そして、彼の答えはこうでした。 「あん? そりゃあ……あの山に、ガキどもが連れて行かれたんだ。それを、救いに」  その言葉を聞き、私は驚きました。  それはすごい。そんな勇気ある行動はなかなかとれないですよ。そう私が感心していると、彼は苦笑して。 「まあ、少し前までの俺だったら、こんなことしようだなんて思わなかったよ」  そう言う彼は、少し寂しそうで。 「そうだなぁ。あんたは、俺の事を勇気があるって言ってくれた、三人目の人間だ。だから、休憩の暇つぶしに、昔話に付き合ってくれるか?」  そういって、彼は、自身の昔話を語り始めました。 ◇  あるところに、勇者様と、その友人の戦士がいました。  その戦士は、魔法の腕も、剣の腕も、一流のさらに上を行く実力者でした。  しかし、彼の友人である勇者様は、さらに剣の腕が立ち、魔法も、戦士よりも上手でした。  人々は、口々に勇者様をたたえました。  そして、戦士は勇者と比較され、馬鹿にされました。  戦士は思いました。なぜ、自分が馬鹿にされなければならないのかと。  なぜ、自分が比較されなければならないのかと。  そして、次第に勇者に対して、恨みを抱くようになりました。  こんな奴、裏切ってやる。  そう思いながら、勇者と別れ、別行動を始めました。  どうやってあいつを裏切ってやろうか。  そう思っているときに訪れたのは、ドラゴンに襲われている、小さな村でした。  最初は、軽くドラゴンを追い払って、去るつもりでした。  でも、この村の少年剣士は、彼の事を師匠と呼び、慕ってきました。  この村の魔法使いの少女は、彼の事を先生と呼び、教えを乞うてきました。  この村のパン屋の少女は、毎日、焼き立てのパンを彼に届けました。  最初はうっとおしかった。でも、段々と、自分を慕うこの少年少女たちが、大切になってきました。  だけど、その暖かな時間も終わりを告げました。  村に、ドラゴンたちの長である、魔の龍がやってきたのです。  魔の龍は、子供たちをさらって行きました。  そして、子供たちがいなくなって、初めて気が付いたのです。  彼らが、自分を肯定してくれた彼らが、自分にとって、勇者よりもよっぽど大切な、仲間になっていたことを。 ◇ 「で、村人が勇者を呼んでくる、その間に俺は魔の龍に挑むってわけだ……勇者に対抗するためじゃない。大切な、仲間を救うために」  そのために、死ぬことになっても?  あまりその世界の人には深入りしない私ですが、つい、聞いてしまいました。  最後の言葉を言った後の、彼の眼は死を覚悟した人のものです。  そんな覚悟をするまでに、その少年たちが、大切なんだと伝わりました。 「俺だって、死ぬのは嫌だ。嫌だが、仲間が捕まっているんだ。あいつらを救うためなら、十分、命のかけ時だ」  そうですか。がんばって、ください。  私は、そう彼に伝え、水のお礼を言います。  彼は気にするなと言いながら、大きな斧を背負い、魔の竜の山脈へと向かいます。  ただの旅人である私には、その後ろ姿にかける言葉が、見つかりませんでした。  そして、私は魔の龍の山脈を後にしました。 ◇  そんなことが書かれているメモ帳の一ページをめくりながら、私は今日訪れた世界の、小さな村で一息ついています。  これは、この村の人から聞いた話なのですが、魔の龍は、村の人たちが呼んだ勇者によって倒されたらしいです。  魔の龍は、不思議と弱っていた。まるで、何かと戦った後の様に……そう、魔の龍を倒した後の勇者は語ったようです。  彼は、戦士の彼は、死んでしまったのでしょうか?  その答えを知るすべは、私にはありません。  でも、彼は生きているのでしょう。  彼の、仲間の胸の中に……なんて、私らしくないですかね。  この村では、今日も少年剣士の剣戟練習の音が響く。  魔法使いの少女の練習の、呪文が流れるように聞こえる。  パン屋の少女の声が、元気よく聞こえる。  私は旅人。ただの旅人。  さて、次に行く場所には、何があるのでしょうか。  そろそろ、出発しましょうか。

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  • ひよこ剣士

    セツナ

    2021年4月24日 20時20分

    世界の旅人さんの語り口で紡がれるファンタジーの物語がとても素敵でした。 しかも戦士の物語が本当に悲しく、でも優しく。素敵なお話しでした。 物語の主人公達とそれに出会っていく旅人さんのお話なんでしょうね。とても好きな感じなので、続きを読むのが楽しみです。

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    セツナ

    2021年4月24日 20時20分

    ひよこ剣士

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