八大地獄の除霊鬼

読了目安時間:4分

地獄の花々に隠された真実

これから

蓮寿(れんじゅ)を渡せ」 「まずは自己紹介からでしょ? 桃河(とうがわ)美姫(みき)です。こんにちは」 「……等活(とうかつ)架純(かすみ)。コンニチハ」 「昨日、どうやって私を家まで運んだの? 記憶がないんだけど」 「ちょっと幻術を見せて寝かせただけだ。その間に運んだ」  蓮夏(れんげ)さんがいなくなった翌日。自宅近くにある、カフェでのこと。  私と目の前の男は、テーブル席に向かいあって座っていた。 「いいから、蓮寿を渡せ」 「いやです」 「お前なぁ。自分の立場がわかっているのか?」 「わかっているからこそ、蓮寿は渡せない」  絶対に。 「なぜ?」 「あんたが味方である保証がない」  蓮夏さんの弟だが知らないけど、見ず知らずの相手に渡していいものではない。  目の前の男・等活架純は大きくため息をつき私を睨んでくるが、渋々(しぶしぶ)納得してくれた。 「美姫。お前は蓮夏様からどこまで聞いて、どこまで知っている」  私は蓮夏さんからきいたことを、架純に話した。  話を聞き終えた架純は、動きが止まる。 「え? それで全部?」 「うん。そうだけど……」  言い漏らしたことはない。  架純はそれを聞くと、見るからに不機嫌な顔になってしまった。握った拳からは血が出るんじゃないかというほど、力が込められている。 「ちょっと、あんた。怪我するよ」 「あのクソバカ兄は……、優しすぎるだろ」 「……どういうこと?」  今の状況で蓮夏さんのことを「優しすぎる」と表現した彼の心情が、さっぱり理解できない。 「蓮夏様は、お前に正確な情報を与えていない」 「え?」 「おそらくお前が混乱しないように、わざとぼかした情報しか与えなかったのだろう」 「そうなの?」 「お前の話を聞く限りな」  架純は頬杖をついて、ぶつぶつ言っている。  私が怪異に襲われる理由。それを蓮夏さんは、わざと余計な情報を入れず簡潔に説明してくれた。  蓮夏さん。やっぱりあなたは優しい。  でも、今はそんな優しさは必要ない。  私は一刻も早く自分のことを知り、敵を倒して、蓮夏さんを助けないといけないのだから。 「で、蓮夏さんは助けられるの? すぐに助けてあげよう」  身を乗り出して近づく私に、架純は手のひらを前に出して待ったをかける。 「まあ待て。蓮夏様は死にかけてはいるかもしれないが、絶対に死ぬことはない」 「でも、死にかけてるんでしょ?」  その状況で生き続けていることが、どれだけ辛いことなのかはよくわからないが、早く助けてあげないと——。 「あーもー……、説明するのも面倒なんだが、大丈夫だ。蓮夏様は強い。それに自分の術にかかっているとは言っても、敵と同じように苦痛を受けているわけじゃない」 「そうなの?」 「ああ。あの人の術は、自分にかけると最長で二千年間は生き続けられる。その間、痛みは感じない」 「……そっか」  なんだかよくわからないけど、痛くないと聞いただけでも、少しだけ気持ちが楽になる。 「とにかく、蓮夏様を助ける準備は別で進めているから、心配するな。それよりお前、自分が狙われていることを忘れてないか?」 「忘れてない」 「忘れてなくてそれだったら、余計にやばいぞ。……今のお前は、自分の身を守ることだけを考えろ」 「そんな……、わかった」  今は、歯痒(はがゆ)くても頷くしかない。 「よし。わかったら蓮寿を、俺に渡せ」 「それは断る」  睨み合う私たちに、店員さんがコーヒーを届けてくれた。 「とりあえず美姫を守る任務は、俺が引き継ぐことになった。それから今週の休みの日にでも、阿鼻(あび)家にいくぞ。協力を仰ぐことにする」 「……誰に?」 「他の家に」 「なんで?」 「蓮夏様は、現役除霊師の中で最強だった。その蓮夏様が隙をつかれたとはいえ、負傷退場したんだ。お前を一人で守ることは、俺というまた新しい負傷者、もしくは死者を出す原因になる。その前にこちらも手を打つ」 「なるほど」  そう言われてしまうと、納得せざるを得ない。蓮夏さんより弱いと、自分の立ち位置を冷静に分析して新しい案を出してくるところから、この人の踏んできた場数の多さが(うかが)える。 「……あれ? 蓮夏さんはからは君の方が強いって聞いていたけど」  あれは蓮夏さんの謙遜だったのかな? 「基本的な体術では、俺の方が強いよ。あの人は、体に恵まれていないしな」 「あー」  確かに蓮夏さんは華奢(きゃしゃ)だった。鬼の血が混ざっているので、人間よりは力もあるのだろうが、鬼同士や怪異との戦いでは不利だったのかもしれない。  その点、目の前に座る彼は有利だろう。私より背が高いので、身長は百八十を超えているだろうし、手足も長い。  服の上からなので判断はできないが、それなりに引き締まった体をしていそうだ。 「蓮夏様が強いのは妖術の方だ。受ければ確定死……、死にはしないのか。ともかく、確定で勝ちが決定する妖術。チートにも程がある」  架純はそう言って、コーヒーにミルクと砂糖をこれでもかというほど入れていた。そんな姿を見ると懐かしく思うと同時に、つい顔が(ほころ)んでしまう。 「……なにニヤニヤしてんだよ」 「いやー。血は繋がってなくても、兄弟なんだなと思って」    ※ 「で、蓮夏さんが私に隠していたことって、何があるの?」 「教えない」 「なんで!?」  私の身に起こることだし、教えてくれてもいいじゃないか! 「蓮夏様の判断を尊重する」 「ずっと教えてくれないわけ?」 「追い追い教えていくさ。お前の力は、必要になる」  含みのある言い方で、この場を(にご)す。 「納得はしていないけど、理解はしたよ」 「助かる」 「あんたが信用できたら、蓮寿も渡す」 「そうか」  それからは何も話すことなく、カフェを出た。

・阿鼻地獄  八大地獄の最下層にあたるこの地獄には、頭から真っ逆さまに地獄の中を落ち続けて、二千年かけてようやくたどり着くと言われています。  死者で阿鼻地獄にたどり着いている人は、まだ少ないんじゃ無いんでしょうか?  怖いですね。

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