八大地獄の除霊鬼

読了目安時間:3分

絶望の配達人

 相対する彼女が言い切るのを待たず、私は竹刀を振り上げて向かっていった。 「あああああぁぁぁぁぁああああ!!」 「威勢(いせい)は買いますよ」  竹刀が当たる間合いに入る一歩手前から、腕を振り下ろし始める。  今度は確実に、燐火さんを捉えた。 「剣道における剣技と、斬り合いの剣技は全く異なる」  燐火さんは向かってくるように足を一歩大きく前に出して半身になり、振り下ろされた竹刀を体のスレスレで避ける。  この人に恐怖心はないのだろうか。  竹刀は空を斬り、燐火さんは無防備に(さら)された私の右手親指に向かって、拳を振り下ろす。 「いっ——、た」  思ってもみない打撃に竹刀を掴む手が少し緩んだところで、燐火さんはさらに一歩前に出て、私の体を通り過ぎる。通り過ぎざまに道着の奥襟(おくえり)を掴まれ、そのまま腕を真下に振り抜かれる。  格闘技の技術なんて微塵も感じない、ただの力技。 「あっ——」  首根っこを後ろに向かって引っ張られ、それと同時に足も掛けられる。  私の体は一瞬で、ふわりと宙に浮き上がる。  そしてそのまま背中から、畳に叩きつけられた。 「カッ——。ゲホッ」  もろに背中から地面に落ち、息がうまくできない。 「剣道は基本的に、振り抜くことをしない。簡単に言えば『竹刀を当てれば勝ち』となる」 「ゴホッ……、うぅ」 「しかし斬り合い、殺し合いになるとどうでしょう。刀とは振り抜くもの。振り抜いて、相手を斬り殺すものです」 「ヒューヒュー。……うぇ」  燐火さんは私を見下げ、話を続ける。 「剣道を習っているからといって、斬り合いがすぐにできるわけじゃあありません。……それでも美姫さんは、剣を振り下ろすことができている。それは立派な才能です」  誇ってくださいね。  彼女の黒い唇が、いやらしく笑う。 「しかし振り抜けたからといって、当たらなければ意味がない。今の貴女の攻撃は、全て無意味です」 「うぇ……、うぅ。……そん、んなことは、わかっています」 「あら、そうですか。それは失礼しました」 「はぁはぁ、ぅふー。……燐火さんは、何が言いたいんですか?」 「貴女の竹刀には、目の前の敵を殺す覚悟がない」 「え——」  燐火さんの顔からは、表情が消えた。ただひたすらに、無表情。  なんでもないはずのその顔が、自分に向けられているだけで鳥肌が立つ。  人ならざるものと戦っている時のような、恐怖心。  その中でも、とびきりの絶望を運んでくる彼女は一体——。 「美姫さん。貴女は矢茉吹さんに言いました。『私がもっと強ければ、蓮夏さんを助けることができたかもしれないのに』と。そして私に対して『殺す気でいってもいいですか?』とも、言いました」 「……はい」 「本当にそう思っていますか?」 「!?」 「私に対して、殺意を向けられていますか? ()()でも、殺してやろうと思っていますか?」  本当に、蓮夏を助けられると思っていましたか。  燐火さんは変わらずの無表情。  メガネを外し道着を身に(まと)った彼女は、キリッとしていてかっこいい。  そんな燐火さんの真っ直ぐな視線に、ついたじろんでしまう。 「そんな——」 「『そんな』ではない!!」  燐火さんの大きな声が、部屋の中いっぱいに広がる。 「架純も貴女も、言い訳がましいんですよ。……もう一度言う。殺す気でこい」 「……」  彼女から向けられた殺意のこもった言葉に、目が覚める。  私は今まで、何をごちゃごちゃと考えていたのだろうか。 「しょうもない剣を振るうようなら、次は腕を折る」  多分、脅しじゃないのだろう。 「……今度こそ、私も殺す気でいきます」  私の言葉を聞いて、燐火さんは少しだけ笑った。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • くのいち

    爪毛

    ♡300pt 2021年2月14日 13時45分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    良き哉 良き哉

    爪毛

    2021年2月14日 13時45分

    くのいち
  • ひよこ剣士

    藍明

    2021年2月14日 15時59分

    芭翔「スタンプありがとうございます。矢茉吹姉ちゃんの、お酒の瓶の中身を水に入れ替えたことがあるんだぜだぜ。でも姉ちゃん、味音痴だから『今日はいくら飲んでも酔わねぇ。もしかして……、最強の肝臓を手に入れた?』って、機嫌がよくなったことがあるんだぜだぜ。姉ちゃんもバカだよなぁ」

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    藍明

    2021年2月14日 15時59分

    ひよこ剣士

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • AIがついた嘘

    人間の嘘を覚えたAIがつく嘘とは。

    1,100

    0


    2021年7月26日更新

    近未来のお話。筋肉に近い繊維素材の開発により、完璧なロボットが完成した。内部に搭載する人工知能をより高度にするため、世界ロボット協会は人工知能をアプリ化したものを配布した。「最も自発的で高度な嘘」を教えた者に賞金1億円を与える旨通達したが・・・果たしてAIのつく最も自発的で高度な嘘とは?

    読了目安時間:9分

    この作品を読む

  • 深黄泉ドライヴ

    名前の「読み」が君の異能力、響術だ——

    100

    0


    2021年7月26日更新

    春眠暁を覚えぬ3月下旬、半年前に妹の舛(まい)を亡くして以来引きこもっていた少年・山井 矜(やまのい けい)は、春に咲くはずのない彼岸花を見つけ、その根を呑み自らも妹の元へ逝こうとする。 しかしそこは想像より現代的で退廃的な「死後の世界」であった。 これまで死人は術式の「音韻」を縁に力を具現化する魔術"響術"を体系化し、「死なないように」闘う日々を送っていた。 そしてやがて「他人に術式を付与する」段階まで開発した。その術者は他人に術を付与できる点から〈名付け親〉と呼ばれ、響術者の増強に成功。黄泉の国は響術者の安定した生活が形成されていた。 〈名付け親〉から「シン」の術を賜った矜は、妹がこの世界にいることを信じ、黄泉軍と戦いながら妹を探すことを決心する。 死後の世界、その他宗教的要素を多く含みますが、この作品はフィクションです。実在の人物・思想・団体等とは一切関係ありませんのでご了承ください。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:22分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 空に偽りのダークネス

    復讐から始まる冒険ファンタジー

    1,023,972

    38,873


    2021年7月25日更新

    小さな村で暮らしていた少年・シオンは、ある日突如として襲ってきた【白の悪魔】により、家族や仲間を失った。 生き残ったのは自分と幼馴染みのサンドラだけ。 生きる理由を復讐に委ねたシオンは、王国最強と謳われる戦姫アリスの元で四年の修行を経て、冒険の旅に出る。 目指すは【白の悪魔】がいる魔界。 シオン達の行手を阻むのは、1〜10の数字をもつ凶悪な魔物達。 冒険の先で出会った新たな仲間達と共に、魔物達との決戦に挑む。 憎悪によって磨かれた力を扱い、世界の安寧を取り戻すべく戦う彼らは、表裏一体と化した思想と創造の狭間でもがき、やがてそれぞれの答えを提示する。 誰が敵で誰が味方なのか、それは最後まで分からない。 * * * 【最高成績】 週間 異世界1位 総合1位 月間 異世界1位 総合4位 年間 異世界3位 総合7位 応援してくれる読者様のお陰です、誠に有難う御座います!

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:7時間50分

    この作品を読む

  • 掃除機魔法が全てを吸い尽くす!!

    異世界でも掃除機って役に立つんだよ!

    3,400

    6,500


    2021年7月25日更新

    嘘です。全ては吸えません。誇大広告ってよくないよね。 幼い頃に母親を亡くした少年は、ある事情から領主様のお屋敷にある秘密部屋で過ごす事になった。 十歳になると、王国、帝国にいる全ての人々は神様から『恩恵』を授けられるようになる。 少年はその中で、『掃除機魔法』を得る事になる。 やがて少年は青年へ。そして旅立つ事になる。 冒険者として『掃除機魔法』を使っていた青年は、いつの間にか掃除人《スイーパー》と呼ばれる存在になっていた。 掃除の匠が今日もどんな頑固な汚れもピカピカに! 追加料金は一切いただきません。悪者だって掃除しちゃいます。オラオラ!! 「ケルヒ! 拭きが甘いよ! 全く、そんなんじゃ僕のような一流の掃除人《スイーパー》にはなれないよ!」 「え? 何それ?」 こんな男ではありますが、世界を救うかもしれません。 最初の数話だけ若干暗めですがその後からは基本的に明るい物語です。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:4時間21分

    この作品を読む