八大地獄の除霊鬼

読了目安時間:4分

小さな私の大きな目標(下)

 男の子を助けた私は、それからいじめの標的に加えられた。もともと、悪口なんかは言われていたが、それに暴力が加わるようになった。  何がそんなに、気に食わないのだろうか。  人間同士で争うことの無意味さを、わかってはいないのだろうか。  ……。  その日も私は、年上のお兄さんたちに囲まれていた。  今日もまた、殴られたり蹴られたりするんだ。顔には出さないようにしたが、今までのことを思い返せば、心臓の奥が痛くなる。足から力が抜けていくようなのに、震えは止まらない。 「あんたたち。小さい子を囲って、何様のつもり?」  そう言って私たちの前に現れたのは、交流試合のため他道場からやってきていた生徒の一人だった。  (はかま)のままスニーカーを履いたその人は、竹刀を片手に私たちを睨む。 「友達……て、わけじゃないでしょ? その子、怯えてるもの」 「うっせえな!」  私を囲んでいる一人が叫ぶ。と同時に、足に向かって竹刀を振り抜かれてすっ転んだ。 「私に向かって、うるさいだと。——おら、お前たちもかかってこいよ」  竹刀を持っていない方で手招きをして、挑発する。  私を囲んでいたお兄さんたちはその挑発に乗ることはなく、逃げて行ってしまった。 「大丈夫?」 「はい」 「一人を囲んでいじめるなんて、あいつらサイテーだね」 「いえ。私が弱いから——」 「それもあるかもね」 「……」  ちょっとショックだった。 「大丈夫だよ。私も剣道始めたばかりでまだまだ下手くそだけど、いつも素振りしてるもん」 「私は素振りを繰り返しても、なかなか上達しません。名前もバカにされるし、私の人生はいいことがない」 「諦めたら、面白くないよ。一緒に頑張ろう、ね?」  私より背の大きなその人は、無邪気に笑う。 「それに私もよく名前をバカにされるけど、バカにしてくるやつはみんな返り討ちにしているよ」 「あなたも、変な名前なんですか?」 「『美しい姫』って書くの。バカみたいでしょ?」  あははと、笑う彼女。  そんなことありません。私を助けてくれたあなたは、誰よりも美しく強い方です。なんて、恥ずかしくていえない。 「じゃあ私、家に帰って特訓するから。女の子同士、頑張ろうね」  そう言って彼女、美しい姫さんは駆けていった。  ひとりその場に残されてしまった私は、つい言葉が漏れ出てしまった。 「私、女の子じゃない」  今まで性別を間違われることはよくあった。顔は女の子のようで体も小さく、名前も花の名前と同じだったのでよく間違われた。  ただ、彼女に「女の子」と間違われてしまったことが、悔しくて仕方がなかった。  彼女は常に、笑顔であった。少し粗暴(そぼう)とも受け取れる態度も、あの状況では堂々としているように見える。  漫画やアニメの世界でよく見る『ヤンキー』というものだろうか?  いつか、大きく強くなったら、彼女に男だと認めてもらいたい。  胸の高鳴りを『初恋』と理解するには、当時の私は幼く純粋すぎた。    ※  八家の代表が揃う会議で、小さな私は次期当主として連れてこられたのだが、暇を持て余していた。 「私もあなたも、強くならなくてはいけません」 「まあ、そうだね。俺たちは強くなることを求められているし」 「そうじゃなくて! いや、そうなんですが……、そうじゃないというか。家とか、そういうのは関係なく、強くならくてはいけません!」 「?」  彼は不思議そうに、私を見た。  彼は五歳年下だが、既に私と同じくらい背が高い。しかし彼は気が弱く泣き虫で、例に漏れずいじめられていた。 「でも、蓮夏にいちゃん。にいちゃんも俺も、名前でいじめられてるんだよ? 名前なんて変えようがないし、無理だよ」 「いいえ。名前は恥じるものでもないし、いじめられる原因ではないです。私たちが強くなれば、いじめられることもなくなるでしょう」 「そうかなぁ」 「それに架純(かすみ)。あなたの名前は、とてもいい名前ですよ」 「本当に?」 「ええ。私もあなたも漢字は違いますが、花の名前です。架純の名前は、かすみ草からとってあるものですよね?」 「うん」 「かすみ草は、単体ではあまり目立たない花です」 「じゃあダメじゃん」  目の前の少年・架純は泣きそうな顔をしている。 「し、しかし! かすみ草はブーケやフラワーアレンジの際に、他の花々たちをまとめ上げて、それぞれの美しさを引き出すためになくてはならないものです。私たち八大除霊師を、架純ならまとめ上げられるはずです」 「……頑張る」 「偉いです。あなたは強い。私も、負けないようにがんばります」  そしていつか、ウツクシヒメ様に男だと認めてもらえるように。

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  • くのいち

    爪毛

    ♡200pt 2021年1月5日 15時17分

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    ブラボー!!

    爪毛

    2021年1月5日 15時17分

    くのいち
  • ひよこ剣士

    藍明

    2021年1月5日 19時06分

    蓮夏「小さい頃の思い出といえば……。ピク◯ンを買ってもらったのいいけど、敵に食べられていく彼らの姿が見ていられなくなり、途中でクリアを諦めたことを覚えています。あれは子供がプレイするゲームではないと思うのですが……」

    ※ 注意!この返信には
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    藍明

    2021年1月5日 19時06分

    ひよこ剣士

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