八大地獄の除霊鬼

読了目安時間:6分

見殺しと折衷案と

「架純。あなたから説明を」 「……はい」  千涼さんは斜め後ろに座る男性に「お茶を淹れてきてくれるかしら?」と頼んでいた。 「まず、桃太郎の生まれ変わりである美姫が、邪神になった三匹に狙われている」 「うん」  三匹が従える怪異を、既に四体見てきた。 「それが発覚したのが約一ヶ月前。そのことで俺たち等活家や、阿鼻家。残りを含めた八つの家で緊急会議を行い、お前を助けないことが決定していた」 「は?」  助けない? 「助けないって——、変な怪物に、訳もわからず殺されるってこと?」 「そうだ」  うーん。頭の理解が追いつかない。追いつかないが、最初に思ったことは。 「嘘、でしょ……」  架純の言葉を聞いた正直な感想は、それしかなかった。  私は桃太郎の生まれ変わりであるか故に、見殺しにされる予定だったらしい。 「本当だ」  架純の気まずそうな表情が、何よりの証拠だろう。  ただ、その説明だけでは不可解な点もある。 「じゃあなんで、今も私は生きているの?」 「蓮夏様が、お前を見殺しにすることに異議を唱えたからだ」  それを聞いた時、なんだかよくわからない感情が胸の奥から溢れてきた。  一人だったら、多分泣いていた。 「蓮夏だけではないでしょう」  千涼さんの横槍が入る。 「……蓮夏様と俺が、異議を唱えた」 「なんで……」  蓮夏さんは優しい。きっとあの性格だから見過ごせなかったところもあるんだろう。ただ、架純に関しては本当にわからない。  蓮夏さんのことを随分慕っているようだけど、それだけで八家が揃った会議に異議を唱えるだろうか——。 「桃太郎の生まれ変わりだという理由で、今まで怪異なんかと無縁だったお前が。不当に殺されるなんて馬鹿みたいな話だろ。お前は、お前自身の人生を歩んでいくべきだ」  ニュアンスは違う。  言葉つかいも乱暴だし、何より私と目を合わせないように、そっぽを向いて話している。  それでも、彼から蓮夏さんの姿を感じてしまう。 「話を戻すぞ。お前を助けない案に、蓮夏様と俺が反対した」 「うん」 「もちろん、二人ごときの意見なんて尊重されない。俺たちは八つで一つの、鬼だから」  鬼の一族。人間とは、大きく性質が違う。 「ただ蓮夏様も譲らなかった。意見は割れて平行線が続いたので、折衷案(せっちゅうあん)を出した。そして——」 「そしてあなたと蓮夏さんだけで、私を守ることにした。とか?」 「……ああ」  千涼さんはお茶を(すす)りながら、すました顔で私たちの会話を聞いていた。 「美姫様。私たちの出した答えをどのように捉えてもらっても構いません。いかなる理由があろうとも、私たちはあなたを見殺しにすることを決めた。この事実は変わりませんから」 「はい」 「私たちも損得勘定(そんとくかんじょう)抜きで、除霊師をしているわけではありません」  私もそんなことを考えていた時があったけど、それを生業(なりわい)としている人たちから言われると一気に現実味が増す。 「仕事として、お金をいただいて除霊を行なっています。お金をたくさん払ってくれるオーナーの仕事はもちろん優先します。ボランティアで、お腹は膨れませんから」 「……」 「蓮夏や架純のやったことは、公私混同もいいところ。この二人に力がなければ、絶縁案件です」  最悪、私たちの手で葬ることも(いと)いません。  千涼さんはやっぱり表情を崩すことがない。 「そして美姫様を守ろうとした結果、蓮夏は戦闘不能。あまつさえ増援をよこせと——、冗談も大概にしなさいよ。架純」 「はい」  架純はいつになく覇気がない。  なんだろうか。蓮夏さんや架純が、悪いことをしたわけではない。  なのに二人が怒られて、架純は言い返すことさえしない。そんな今の状況が、ひどく気持ち悪い。 「私たちはヨミを(はら)うどころか、見つけられてもいない状況だというのに。それに合わせて、堕落した元神獣三匹の相手なんて、できるわけがないでしょう」 「ヨミ?」  千涼さんは「こちらの話です、失礼しました」なんて言って誤魔化したが、それは流していい単語ではない。  私は架純を見ると、困った顔をして千涼さんと私を交互に見ていた。 「架純。ヨミってなに?」 「いや……、それは」  言い(よど)む架純。千涼さんに目を向けると、彼女の顔から笑顔はなくなり、架純を見つめている。  このままだと話は進まないだろう。仕方がない。 「私、多分ヨミにあったよ」 「「!?」」  二人は驚きの表情で、私を見る。  千涼さんの言い方ならヨミとは、敵のことだろう。  あの時は意味がわからなかったけど、あいつが口にしていたのは自分の名前だったんだ。  ……蓮夏さんを襲った男の正体が、はっきりするかもしれない。 「美姫様。ヨミを知っているとは、どういうことでしょうか?」 「蓮夏さんを刺した男。自分のことを『ヨミ』と言っていたことを思い出しました」  架純は何かに気がついたのか、ハッとした。 「そういえば、俺も『蓮夏様と美姫を襲った男』のことを、ちゃんと聞いていなかった」 「……聴取不足、伝達不足」  千涼さんの静かな声に、架純の体が小さくなる。 「すみません。俺も蓮夏様が負傷すると思っていなくて……焦っていました」 「はぁ。まあいいでしょう。——美姫様、その男の特徴を言えますか?」 「はい。背はそんなに高くない。髪は黒くて、見た目もパッとしない感じだったけど——、左頬に花が咲いたような(あざ)がありました」 「……決まりですね」 「そうですね——、そうだ! 千涼様、もう一つお伝えしなければいけないことが」  架純の言葉は、襖を乱暴に開ける音に遮られた。  襖を開けた女性は、息を乱し顔が(こわば)っていて、千涼さんは彼女を冷ややかな目で見る。 「騒々しいですね」 「申し訳ありません。——千涼様、怪異が屋敷内に侵入してきました」 「そう。状況は?」 「(かんば)しくありません」 「私も出ます」 「申し訳ありません」 「謝ることではありません。あなたはすぐに、家の者を集めて」 「はい」  千涼さんは立ち上がり、廊下に向かって歩き出す。 「千涼様、俺も出ます」 「いいえ、結構です」  架純の参戦を、千涼さんはピシャリと断る。 「これは阿鼻家内で起こったこと。代理とはいえ、私も当主です」  振り向いたその目には、強い意志が感じられる。  蓮夏さんが二十歳と言っていたので、妹である千涼さんはそれより年下。おそらく私と、そう変わらない年齢だろう。  そんな彼女の愚直(ぐちょく)毅然(きぜん)とした態度は、嫌な思いもさせられたがどこか憧れてしまう。 「いえ、俺も参加します」  さっきまで千涼さんの言葉に反論しなかった架純は、ゆずらなかった。 「だめです」  こちらもゆずらない。 「今や千涼様は、阿鼻家の妖術を使える唯一の人です。蓮夏様がいない現状、あなたに万が一のことがあれば俺たちは本当の意味で、ヨミに対抗する(すべ)を失います」 「ですが——」  架純は立ち上がって千涼さんのそばまで足早に進み、肩を掴む。 「センちゃん! 蓮夏にいちゃんがいなくなって、一人でなんでも背負い込んでしまうのはわかるけど……、俺たちは仲間だ。仲間が大変な時に、座ってお茶を啜ってることなんて俺にはできない」 「……わかりました」 「それに、まだ聞いて欲しいこともある。美姫が、ヨミを倒す鍵になるかもしれないんだ」 「それは一体——、いえ。全て片付いてから聞くことにします。スミちゃん、手伝ってくれる?」 「さっきからそう言ってるじゃないか」 「生意気」  千涼さんに脇腹をこづかれた架純は、患部を押さえながらも笑っていた。

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  • くのいち

    爪毛

    ♡200pt 2021年1月8日 12時13分

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    爪毛

    2021年1月8日 12時13分

    くのいち
  • ひよこ剣士

    藍明

    2021年1月8日 19時05分

    架純「コメントありがとう。俺は一時期、神社で寝泊まりをしていたが、あそこはいろんな動物がいて面白かった。そこではじめて見た動物はもぐらだったけど、あいつらって何食って生きているんだろうか?」

    ※ 注意!この返信には
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    藍明

    2021年1月8日 19時05分

    ひよこ剣士

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