キャプテン・ヴァージャス

読了目安時間:5分

そこにいたのか

 ススム達はあっさりコモロ村を見捨てて逃げ去った。  異世界に転生して冒険者になったからといって、精神が勇敢になる訳ではない。  自分より圧倒的に強いモンスターが現れたら逃げるのが普通だろう。  ファナルの町で出会った先輩冒険者イルの言葉を思い出す。  『初心者はゴブリン程度の討伐依頼でも1割程度死んでいる』  元の世界と違って、この世界では人は簡単に死んでいる。いや、元の世界でも人は無常に死んでいた。  アニメやマンガで出てくるような世界に似ているから、何となく死なないような錯覚をしていた……。  逃げても仕方がないよな。絶対に勝てる訳ないんだから。  でも、ススム達を追いかけて逃げようとしたが足が動かなかった。  逃げる事も戦う事も決意出来ず、自分自身に問いかける。 『本当にそれでいいのか?』 「死にたくないから仕方がない」 『村人達が死んでしまってもいいのか?』 「いいわけ無いだろ」 『何の為に転生したんだ?』 「ヒーローになりたかった。だけど、力がないから仕方がないじゃないか!」  力がないから仕方がないーーそこでキャプテン・ヴァージャス最終巻での最後の言葉を思い出す……。 「この町の悪は滅びた。我は次の救いを求める者達の為にこの町を去る。しかし、この町に再び悪が蔓延(はびこ)る様であれば必ず戻る」  ヴァージャスが拳を突き出し皆に誓う。 「だが、直ぐには戻れないかもしれない。だから私が戻るまで、皆も負けずに戦って欲しい」  突き出した拳を戻し、腰に手を当て胸を張り(こいねが)う。 「力がないから仕方がないと、悪に屈しないで欲しい!」  そうだ、ただ生きたくて、死にたくなくて転生した訳じゃない。  勝てもしないのに、命を賭けて戦うなんてバカだと思う。  でも、転生前の人生の全てだったヴァージャスの様に生きたいという思いを捨ててまで、生き延びたいとは思えなかった。 『何も為せず、何者にもなれず、ただ生きるのは辛いんだよ』  ここで頑張っても、マンガのキャラであるヴァージャスが助けに来る事は無いだろう……。  でも誰か、この世界の勇者や冒険者等の代わりのヒーローがコモロ村だけでも守ってくれるかもしれない。  それまでの間の僅かな時間稼ぎなら、自分でも出来るだろう……。 「これで死んだら、あのインチキ天使に文句を言わないとな」  僕は恐怖を払拭するように軽口を叩いた。 *  北の森とコモロ村の中間地点の草原で待ち受けていると、直ぐにゴブリン達が現れた。  最終的に敵の戦力はゴブリン15匹に、ゴブリンメイジとゴブリンロードが集まった。  圧倒的な戦力差に最早、逃げる事すら叶わないだろう。  ゴブリンロードの号令で、ゴブリン達が一斉に襲い掛かってくる。 「ギャッツ。ギャッツ」  先頭のゴブリンが振りかぶった棍棒に交差するように剣を斜めに突き出し、そのまま腹部を突き刺す。 「うぉーーっ」  気合いで押し込みそのまま右に薙払い、更に右にいた別のゴブリンの右腕を切り飛ばす。  突如左の腹部に鈍い痛みを感じる。 「うっ」  左側に迫っていたゴブリンに棍棒で殴られた様だ。  別なゴブリンが正面からも襲って来たので距離を取る。  ヒヒュン。  軽快な風切り音が複数聞こえた直後に、右肩と左足に激痛が走る。  囲まれた上に、弓で狙われるのか。  このままでは持たない。  周りを見渡すが誰も見あたらない、救いはまだ無い……。  仮に、ススム達がファナルの町まで戻ってギルドで援軍を頼んでいたとしても2日は掛かるだろう。  距離を取ると再び弓で狙われる可能性があるので再び接近戦を挑む。  目の前のゴブリンの棍棒を剣で弾こうと振りかぶりーー。  ギンッ。  重い金属音と共に鉄の剣が折れる。  折れた剣では棍棒を受けきれず殴り倒される。  声を上げる事も出来ず転げていた所、4匹のゴブリンに囲まれて棍棒で殴られ続ける。  激痛に耐えながら必死に棍棒を掴み、1匹のゴブリンを引き倒す。  引き倒したゴブリンを盾にして、他の3匹の攻撃に耐える。  ゴブリンの息が切れて攻撃の手が緩んだ所で、何とか奪った棍棒で薙払う。  直撃はしたが棍棒では殴っても、致命傷にはならない。  再び回りを見渡すが、救ってくれる者はどこにもいない……  視界に入るのは、傷ついてはいるが1匹しか減っていないゴブリン達と、バカにするように薄ら笑いを浮かべるゴブリンメイジとゴブリンロードだけであった。 「どこにいるんだ。いつ来てくれるんだ」  助けを探しても誰も見つけられず、焦燥感から錯乱し始める。  まだ足止めを初めてから5分しか経っていない。  このままでは後5分も持たずに死ぬだろう……。 「早く来てくれ誰か! 何で助けてくれないんだヴァージャーース!」  みっともなく叫ぶ僕に苛立ったのだろう。  ゴブリンロードが大きめの石を拾い投げてきた。  避けなければーー。  しかし、既に満身創痍のケンは足を動かす事も出来ず、無情にも石が腹部を貫通した。 「諦めなければ、誰か来てくれると思っていたんだけどな」  再度、周りを見渡しても救ってくれる人は何処にもいない。 『憧れのヒーローは何処にも居なかった』  全身の力が抜けるのを感じながら、ヴァージャスを思い浮かべる。  最後くらいは、大好きな思い出と共に迎えても良いよな。  力を失い、うなだれ下を向くが何故か倒れなかった。  突然の激しい心臓の鼓動、そしてーー。  俯き目に入ったのは、隆起した大腿直筋と、それを頑強に囲う鋼の外側広筋と内側広筋。 「そこにいたのか」  何が起きたのかは分からない。  だが、それが何であるかは知っている。  食い入る様に何度も見た、憧れた造形。僕の理想(スーパーヒーロー)。  ならば、今言うべき事は只一つ。 「キャプテーン、ヴァージャァース!」

突如ケンの身に起きた異変。一体なにが? 次回、キャプテン・ヴァージャス ケン「僕は一体……」

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