キャプテン・ヴァージャス

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第3部.僕の正義

ゴブリン討伐依頼

 ガルファダ王国からファルファーン帝国への道のりは短いものだった。  クロエからヴェロニカさんの思い出話を聞きながらの旅路だったので退屈しなかったから……いや、本音で言えば早くガルファダ王国から逃げ出したかったからだ。  ガルファダ王国でアイアンゴーレムの鋼鉄の体でさえ軽くぶち抜く強大な力を得た。  目的の必殺技は得られたと思う……それでも出来る事に限りはあった。  ヨーゼフを思い浮かべる……僕には病を治す事は出来ない。  ヴェロニカさんを思い浮かべる……目の届かない人は救えない。  間違ってはいなかったと思う。  だけど、必殺技を……より強い力を得れば全て救えると思った僕は短絡的だったのだと思う。  ファルファーン帝国に戻ってすぐ冒険者ギルドに向かった。  自身を満たす無力感を払拭するには、誰かの役に立つのが一番早いと思ったからだ。  国家の中心である帝都のギルドなので依頼が沢山張り出されていた。  その中で一際目立つ依頼に釘付けになる。  いや、本当は目立った依頼ではない。  でも、ケンにとっては目が離せない。  この世界に来て初めて誘われた依頼……仲間と決別して悔しい思いをした依頼と同じだから。 『ゴブリン討伐依頼』  僕は依頼内容を確認した。  帝都南西の森でゴブリンが目撃されている。  数は不明だが、最低5匹討伐で報酬が出るのか。  ふと、背後にクロエ以外の気配を感じる。  振り向くと剣士の様な格好をした青年と、魔法使いの様な少女がいる。 「何かご用ですか?」 「貴方達が見ているゴブリン退治の依頼を受けようと思っているだけだ」  剣士の男がぶっきらぼうに答える。 「なんでーー」 「ケンは知らないの? 冒険者同士では依頼は早いもの勝ちなのよ」  クロエの説明で納得がいった。  剣士の男は冒険者の流儀に従って、僕が退くのを待っていたのか。  別に今更ゴブリン退治の依頼を受ける意味はないから、目の前の青年に譲っても良い。  だが、ファナルの町で以前、イルさんに言われた事を思い出してしまった。  特別な訓練を受けていない駆け出しの冒険者はゴブリン退治程度でも1割は死んでいる。  最近、人の死を目の当たりにする事が多かったせいか、目の前の青年と少女が死ぬ処を想像してしまう。  二人が転生者でない事は見て分かる。  余計なお世話かもしれないが、ゴブリン退治をこなせる実力者か確認したいと思った。  これも何かの縁だから誘ってみるか。 「良かったら一緒に行きませんか?」 「どういうつもりだ?」  剣士の男が警戒心を露わにする。 「いや、気を悪くしたのなら申し訳ない。良い人に見えたから誘ってみたんだ。ゴブリン退治なら人数を揃えた方が良いかなって思うし」 「あんまり簡単に人を信じるなよ。冒険者の鉄則だぜ!」 「なにベテランぶってるの? どう見ても駆け出しの冒険者でしょ?」 「駆け出しなのは今だけだ! 直ぐにアルバートみたいな勇者になるからな!」  クロエのにバカにされた剣士の男が、勇者アルバートの名前を出す。  アルバートの名声は聖王国レノアスから遠く離れたファルファーン帝国まで知れ渡っているのか。  成り行きで友人になったけど、本当に凄い人だったのだな。  しかし、勇者を目指すなんて頼もしいな。  キャプテン・ヴァージャスを目指していた自分と重ねて見てしまう。 「後ろで困っている彼女にも気づかない様じゃ無理ね!」  僕が感心している処に、クロエが絶妙にケチをつける。 「うあっ、ごめんアリーシャ!」 「ケインがご迷惑をお掛けしてすみません」  ケインとアリーシャか。  彼女に慌てて謝るなんて、可愛い処があるじゃないか。 「迷惑だなんて思っていないよ。僕はケン、隣の騎士がクロエだよ。よろしく、ケインとアリーシャ」  僕は挨拶をして、ケインと握手をする。 「騎士と格闘家のコンビは珍しいな……どうした?」  格闘家……魔法使いじゃない! 「いや、よく魔法使いって言われてたからね。格闘家って言われるの初めてなんだ」 「それだけ鍛えていて魔法使いはないだろ。見る目無い奴らだな」  ヨーゼフとファビオのおかげだな。  この世界に来てすぐの格好だったら魔法使いに間違えられただろうし。 「本当はスーパーヒーローなんだけどね」 「スーパー? ってなんですか?」 「あぁ、難しいから格闘家でよいよ」  クロエがスーパーヒーローを広めてくれるのは嬉しいけど、アリーシャさんが混乱しているじゃないか。 「立ち話も疲れるし、依頼を受けた後にテーブルで話そう」  僕はゴブリン退治の依頼書を手に取りギルド嬢に提出した。  依頼受理後に僕たち4人は、ギルドのテーブルについて食事を頼んだ。  ケインとアリーシャの二人は帝都出身だった。  冒険者になった切っ掛けを聞いたら、予想に反してアリーシャが先に冒険者ギルドに登録したそうだ。  アリーシャが知り合いの付き添いでギルドの登録に立ち会った時に、攻撃魔法と回復魔法の才能がある事が分かったそうだ。  才能を眠らせるのは勿体ないとのギルド職員の提案に流されて冒険者ギルドに登録したが、その知り合いは別のパーティーに参加予定だったから一人になってしまった。  幼なじみのケインに相談したら、商人としての仕事を辞めて剣士になって同行してくれたそうだ。  未経験剣士と魔法使いの二人。  放っておいたらゴブリンに殺されていたかもしれない。  本当に声をかけて良かったと思う。  流石に何時までも面倒を見ようとは思わない。  でも、ゴブリン程度に負けない位に強くなるまでは見守ろう。  未来の英雄達の成長を……。  明日の朝、帝都西の門で合流するように待ち合わせをして僕とクロエは宿に戻った。

冒険者ギルドで知り合ったケインとアリーシャ。 転生者ではない新米冒険者とのゴブリン退治の結末は? 次回、剣術指南 クロエ「体の軸から剣の軌道をずらさない!!」

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