キャプテン・ヴァージャス

読了目安時間:5分

リイスファクサの村

 宿で一晩過ごした後、村でアルバートの行方について聞き取りを行う事にした。  カフェインさんが戻らないし、暇だから仕方がない。  リイスファクサは小さな村だった。  大人達は農作業で忙しいので聞き取りをする相手は必然的に子供達になる。  子供も少なく3人だけだったから聞き取りは簡単に済んだ。  全員が勇者アルバートはこの村を拠点にしていると素直に答えてくれたからだ。  アルバートは3日に1回くらいのペースで村に戻っているらしいから、数日間泊まっていれば会えるだろうな。  意外だったのは子供達に遊びに誘われた事だ。  村の大人達は仕事で忙しくて相手にしてくれないから、遊び相手が欲しかったみたいだ。  翌日、3人の子供達と遊ぶ為に村の中央の広場に集まった。 「僕はケン、こちらのお姉さんがクロエだ」 「クロエよ、宜しくね」  自己紹介をした僕たちに子供達が無邪気な笑顔を向ける。 「デクです!」 「ゴミだよ!」 「クズです!」  えっ……デクとゴミとクズ?  僕はからかわれているのか? 「えっと……からかってるのかな?」  不思議そうに首を傾げる子供達。 「デク君とゴミちゃんとクズ君ね。素敵な名前だけどお母さんに付けてもらったの?」  クロエの大胆さに驚いてしまう。  異世界では良い意味なのかもしれないけど……呼ぶのに抵抗を感じてしまう。  そんな僕の心情に気づかない子供達が無邪気に答えてくれた。 「そうだよ。でも考えてくれたのはカフェインおじさんだって」 「カフェインおじさんの故郷の言葉って教えてくれたの」 「とっても縁起がいい名前なんだよ」  デク君、ゴミちゃん、クズ君の3人がそれぞれ名前について嬉しそうに教えてくれた。  あのクズ男! こんな非道な事をしていたのか!  名前の本当の意味を言う訳にはいかない……子供達を傷つけるだけだから。  カフェインの処遇については後で決めればいい、今は子供達と約束通り遊ぶのが先決だ。  僕たちはそのまま5人でかくれんぼをして遊んだ。  ーー結果は僕がずっと鬼だったけどね。  仕方がないだろう?  僕が一番体が大きいから直ぐに見つかるんだよ。  クロエはリアンと結託して光学迷彩で隠れ通すし……  転生者だからって現代の知識でチートしないでよ!  *  子供達と遊び終えて宿に戻った僕達は、クロエの部屋で今日の出来事について話す事にした。 「なぁクロエ。子供達の名前についてどう思う?」 「子供達というよりはこの村自体がカフェインの支配下にあるとみて間違いはないわね」 「カフェインはこの村で何をしたいのだろう」 「分からないわね。ただ子供の名前の決定権がある事自体おかしいわね。いくら提案された名前だからって全部受け入れるのは理解出来ない。大切な子供の名前を自分で決めたかった親もいたはずよ」 「脅迫されているのか? あのカフェインと名乗る男に……」 「そう考えるのが妥当ね」  子供に酷い名前を付けるなんて許せないな。  カフェインは出会った時から不愉快な相手だったがこれは許す事が出来ない。  何とか解放して村を開放したいと思う。 「なら、あの男を叩きのめして村を解放しよう」 「それで解放出来るならね」 「何故?」 「アルバートが放置しているからよ。気に入らないけど勇者でしょ。黙って放置するかな?」 「うーん、確かにアルバートが放置するとは思えないよな」 「だから慎重に行動した方がいいと思うの」 「まずはカフェインが戻るのを待つしかないのかな」 「そうね、戻ったら拘束しましょ」  絶対にカフェインを叩きのめして拘束してやる。  きっちり反省させてやるさ。  カフェインと敵対する決意を固めた後、僕は自分の部屋に戻った。  僕はいつも通りリアンに生み出してもらったダンベルで短縮性筋収縮(コンセントリック)トレーニングを行う。  そして自身の筋肉に願う、目の前の悪を打ち砕く力を!  *  翌朝、子供達と遊ぼうと広場に向かうとカフェインと出くわした。 「やぁやぁ、皆さん。随分お待たせしてしまったね」 「あぁ、待ったよカフェイン!」 「どうやらここの暮らしを満喫してくれたようだねぇ」  何度話しても不愉快だ。  さっさと片づけるか。  たとえヨーゼフの弟であっても許せない。  カフェインさんは悪意の塊でしかない! 「貴方には聞きたい事がある。少し大人しくしてもらえるかな?」 「それは良い提案だ。私もじっくり話をしたかったからね。最低1ヶ月は一緒にいてくれると有り難いのだけど」 「そんなに時間をかける気はない」 「残念だね。アルバートの要望なんだけどね」 「アルバートの?」 「そうさ、君が彼に話し合う様に教えたのだろう? お陰で私はアルバート君と仲良くなれた」 「何故アルバートがお前の様な奴と仲良くなるんだ?」 「同じ目的を持っている同士だからですよ。この歪んだ世界、ザサムを滅ぼすってね」  世界を滅ぼすだと?! 何故その様な事を?  アルバートが同じ思いだって?  あまりに壮大で予想外の話に思考が止まる。  そんな僕に追い打ちをかけるようにカフェインさんが目的を自白する。  目的を問いつめる必要はなくなった……だけど…… 「転生者達の目を覚ませてあげたいんですよ。こんな偽りの世界をぶっ壊して! 君たちは無能な凡人ですよってねぇ!」 「ケン、こんな奴と話す必要はないわ! 先に子供達にふざけた名前を付けた事を謝らせましょ!」 「子供達の名前? 結構良い名前だと思ったのだがね。両親のロクデナシやゴクツブシより可愛いだろう?」  こいつ、村人全員に不愉快な名前を付けていたのか! 「ケン兄ちゃんとクロエ姉ちゃん? どうしてカフェインおじさんと喧嘩しているの?」  カフェインに集中していて気づいていなかったが、いつの間にか子供達が集まっていた。 「危ないからーー」 「危ないのは皆さんですよ」  子供達を制止しようとするクロエを遮ってカフェインさんがデク君に杖を向ける。  突如デク君の背中から剛毛に覆われた豪腕が生えてクロエに襲いかかった。  クロエはとっさに光の盾を出現させて攻撃を防いだ。  これはいったい? 「君たちは知能が低いなぁ。この村の全ての名前を付けたのは私だよ。村の名前も当然私が付けたのさ」 「村の名前? それがなんだって?」 「リイスファクサの村……並び替えればサクリファイスの村……君たちに捧げる生け贄だよ!」  不愉快なカフェインさんの笑い声が聞こえる中、村人達に囲まれる。 「僕を殺して下さい……」  デク君が幼さを感じさせるたどたどしい声で死を懇願する。  そんな事出来るはずがない。  黙って立ち尽くす僕たちを見てデク君が叫ぶ! 「救ってください……僕たちの世界を!」  勝ち誇り見下すように僕たちを見ているカフェインさん。  体を弄られ、侮辱するような名前を付けられた悲しき村人達。  目の前に迫る絶望。  だけど、なすべき事を見失わない。  僕は世界を救うスーパーヒーローなんだ!

世界を塗りつぶすのは悪意だけではない。世界を塗り替える善意の光がある。 次回、未来を照らす筋肉の輝き ケン「僕はお前の悪意より偉大な光を知っている!」

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