悪役道化師はトマトがお好き

読了目安時間:5分

エピソード:2 / 4

第二話 大切なパートナー

 まといはゆめみ高台公園の階段を下りていく。途中ふと立ち止まり、先ほどまでいたベンチを見た。そして回想する。6年前、塩川に全てをぶつけて改心させた時のことを。  まといと塩川は、隣り合ってベンチに座っていた。塩川の手には手錠がはめられている。本来ならばすぐに連行されるべきところを、あまりに泣きじゃくるまといをみた担当者が融通をきかせ、塩川と最後の時間を作ってくれたのだ。塩川はバツが悪そうに言う。 「泣かなくていいんだよ。お前が泣いてたら俺は行けない」 「……だって。だって」    何度もまといはだってと繰り返した。続く言葉は出てこない。まといの涙をぬぐいながら、塩川は言葉を紡いだ。 「俺が戻ってくるまで待っててくれよ。そしたら伝えたいことがあるんだ」 「伝えたいこと?」  しゃくりあげながらもなんとか受け答える。それを見て、塩川はニッと笑った。 「ああ、だから泣くなよ。まとい」  そう言ってまといの頭をなでる。首が揺れるほどなでられながら、まといは不思議と涙が引いていくのを感じていた。  まといはそこまで思い返して、自分を呼ぶ声に我に返った。 「まとい!」  振り返るまとい。自分より数段下を歩く塩川が、怪訝そうな顔でこちらを見ている。 「すみません!」  まといは早足で塩川の方へ走っていった。  塩川の運転する車の中。  赤信号に停車する。まといはどこか落ち着かない気持ちだった。 「先輩が四輪乗ってるの、なんか不思議な感じです」 「そうか?」  片手をハンドルから離し、塩川が答える。 「そうですよ。先輩と言えばバイクですもん」 「バイクは今も好きだけど、今日はお前を迎えに行くつもりだったからな。こっちの方が便利」  まといは照れ笑いを浮かべた。つられるように塩川も笑う。 「やっぱいいよな。自由にどこでも行けるってのは」  ハッとして俯くまとい。 「ごめんなさい先輩私……」  塩川は続く言葉を遮った。 「やめろって。俺は悪いことをした。だから捕まった。それだけだろ?」  噛みつくようにまといは言う。 「だって私、先輩から自由を奪ってしまった。先輩が一番大切にしていた自由を」  まといの強い語気とは反対に、柔らかい口調で塩川が答える。 「あの時も言ったけど、お前が俺を自由にしてくれたんだよ。お前が俺と本気で向き合ってくれたから、俺はこの先どこにいて何をしてても自由でいられる。お前は俺の心を自由にしてくれたんだって」 「でも」  なおも続けようとするまといを塩川が制した。 「それに、捕まったあとも色々あったしな」 「色々?」  まといは首をかしげる。 「大切なパートナーにも出会えた」 「たっ、大切なパートナー?!」  塩川はまといの大声に一瞬ひるんだが、すぐに続けた。 「そ。だからお前が気に病むことはなにもねえよ」 「……はい」  まといは視線を塩川から外に移した。塩川の口調は優しかったが、これ以上この話題を続ける気はないと鈍感なまといにも感じ取れたし、何より自分に待っててくれと約束しながら他の人間をパートナーと呼んだことに、少なからず憤慨していたからである。 「そろそろだな」  車窓に銀行が通り過ぎる。それをみたまといは、今日本来の用事を思い出した。 「あ、まって」 「ん?」  塩川は前を見たまま少しだけ首を傾げた。 「振込今日までで、ちょっと寄ってもらえますか?」 「おう、了解」  ゆめみ銀行。機械の熱で少し暑い。  まといは窓口で金を振り込んでいる。塩川は隅でぼんやり天井を見ていた。振り込みが終わったまといが塩川に走り寄る。まといは振り込み証明書を塩川に見せ、笑んだ。 「お待たせしました!」 「おう、もう大丈夫」  か、と言いかけたその時、行内に銃声が響いた。驚いて音の方を向く二人。覆面をした男が一人、拳銃を持って立っていた。 「全員動くな。お前はこれに金を詰めろ」  一人の行員に袋を渡しているのが見える。行内の人々が動けずにいる中、塩川がつぶやいた。 「いきなり治安悪ぃな……うっし」  塩川の目がスッと鋭くなる。獲物を狙う獣の瞳だった。小声で続ける。 「さあ、ジョーカーのショウに」 「待って!」  まといが塩川の腕をつかむ。また塩川が遠くへ行ってしまうような気がしたのだ。塩川はまといの剣幕に一瞬ひるんだものの、すぐに微笑みを返す。 「だいじょうぶだよ。昔とは違う。そもそも使える異能は一つだけだ。トマティーナに誓ってひどいことはしねえよ」  まといの瞳が揺れる。 「ほんとう?」 「ホント」  まといは少し目を伏せてから塩川を見た。 「はい」  ニカッと笑う塩川。 「じゃあ改めて。さあ、ジョーカーのショウに」  強盗の方を向く。 「ご招待だ」  塩川はポケットの中で指を鳴らした。  窓口のそば。強盗ががなっている。 「とっとと金を詰めろ!」  突然強盗が目を覆った。 「うわああ! なんだ?!」  塩川は強盗まで一気に距離を詰めると、手刀で強盗の拳銃を落とす。 「なにが……がっ」  間髪入れず、顎に裏拳を打ち込んだ。昏倒する強盗。塩川はほっと息をついた。 「先輩!」  まといが塩川を横に押し倒した。まといの横を銃弾がかすめる。強盗の仲間が客の中に紛れこんでいたのだ。拳銃を塩川に向けながら、男は焦点の定まらない目で言う。 「何の手品か知らねえが舐めた真似しやがって」  まといを後ろに隠しながら、打つ手がないのを塩川は感じていた。その瞬間何かが空を切る音が響く。同時に男が拳銃を手から取りこぼした。誰かが男の拳銃をけり落したのだ。その誰かは、何が起きたかを男に悟らせる間もなく、空中で身を翻し、顔に蹴りを入れた。あっという間の制圧に、行内は静まり返る。静寂を破ったのは塩川だった。 「坂月!」  坂月と呼ばれたその青年は、何事もなかったかのように塩川に返答する。 「塩川。お前の異能は戦闘向きじゃない。無理はするな」 「わかってるって」  突然の展開の連続に、まといは首を傾げるしかない。 「おう。まとい、紹介するぜ」  塩川は坂月の横に立つと、まといの方を向いた。 「俺のパートナー。唯一無二の相棒! 坂月士だ」  坂月はまといを見ると、小さく笑んだ。 「坂月だ。よろしく頼む」 「あ、朱都まといです。よろしく……」  混乱しながらもなんとか言葉を紡ぐ。まといは驚いていた。自分以外何も信用できないと言っていた塩川が、唯一無二とまで言う男。まといの中に渦巻くそれは、嫉妬だった。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


  • ひよこ剣士

    キコ

    ♡2,000pt 2021年6月3日 10時51分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    お慕い申し上げます

    キコ

    2021年6月3日 10時51分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年6月24日 15時01分

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ありがたき幸せ

    ノザキ波

    2021年6月24日 15時01分

    文豪猫
  • ひよこ剣士

    キコ

    ♡1,000pt 2021年7月17日 17時11分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    いいぞ、もっとやれ!

    キコ

    2021年7月17日 17時11分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年7月18日 9時33分

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    サンキューですよ

    ノザキ波

    2021年7月18日 9時33分

    文豪猫
  • ひよこ剣士

    キコ

    ♡1,000pt 2021年6月21日 23時05分

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    にゃかにゃか良い

    キコ

    2021年6月21日 23時05分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年6月24日 15時01分

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    これからもよろしくね!

    ノザキ波

    2021年6月24日 15時01分

    文豪猫
  • ひよこ剣士

    キコ

    ♡1,000pt 2021年5月24日 22時02分

    字が……字が…大きくて…読みやすい気がする…

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    キコ

    2021年5月24日 22時02分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年5月24日 22時33分

    字が大きくて読みやすいですよね!! コメントありがとうございます!!!

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ノザキ波

    2021年5月24日 22時33分

    文豪猫
  • ロボ先生

    Edy

    ビビッと ♡1,000pt 2021年5月20日 22時34分

    《「ご招待だ」》にビビッとしました!

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    Edy

    2021年5月20日 22時34分

    ロボ先生
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年5月20日 23時24分

    ご招待ですよ!! ビビッとありがとうございます!!!

    ※ 注意!この返信には
    ネタバレが含まれています

    タップして表示

    ▼▼

    ノザキ波

    2021年5月20日 23時24分

    文豪猫

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 一次落ちのメモ書き

    備忘録

    0

    0


    2022年9月26日更新

    「嘘つきアイドル、マネします!」https://novelup.plus/story/603118546 のメモ書きです。

    読了目安時間:17分

    この作品を読む

  • わたしたちの恋を見つけて〜恋愛感情欠落男に恋する乙女たち〜

    悲しい時もある。それでも恋は止まらない!

    11,600

    22


    2022年9月26日更新

    友達思いの恋愛感情欠落男子高校生。 そんな彼に出会い恋に落ちる女性たち。 血の繋がらない妹。 幼き日の出会いを隠していた幼馴染み。 夢見ていた世界へ導かれた同級生。 道が閉ざされた時に新たな道を示された教師。 学園生活の中で、倶楽部活動の中で、普段の生活の中で、彼女たちに訪れる苦悩と喜び。 恋愛初心者たちには難しい難問が、次々と突きつけられる。 その度に、友情と恋愛について心が声をあげる。 何が大事なのかと······。 そんな彼女たちが助け合い、争いながら、この気持ちに気づいてと、彼の心の扉をノックする。 ※カクヨム 小説家になろう 投稿作品

    読了目安時間:1時間48分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 「魔力0のお前を追放する!」 魔力0の貴族の三男ノアは家族から『無能』と蔑まれていた。そして16歳の時に授かった女神様からの祝福である能力は『空気が読める』だった。 魔法が全てであるこの国において魔力0の上、魔法とは全く関係がない能力を授かったノア。ノアの父親は冷たくノアに追放を宣言する。 だが、彼の幼馴染のリリーは彼と一緒についていくとノアに希望を与えてくれた。貧しくとも幸せな未来がある筈だった。しかし、外道のノアの兄2人はそれを知りリリーを目の前で穢した上、殺してしまう。そして、その罪まで着せられて最果てのダンジョンの奥地への追放刑にされる。 憎い。憎い。憎い! リリーを殺した上、冤罪まで押し付けた家族をこの手で殺してやりたい! しかし、魔法を使えないノアに待っているのは死しかない。 だが、 『力が欲しいか?』 突然目の前の空気に文字が現れた。そして宙に現れた文字を読むと。 『我が剣は無限なり。我が剣は輝く閃光、我が剣に勝るものなし!』 空気を読むと身体能力が爆発的に上がった。そして最果てのダンジョンを次々と踏破してい行きレベルやスキルをサクサク上げていく。 もちろん、ダンジョンを出た後のノアの善行によって、勝手に実家は没落し、ついに兄と父親への復讐を果たすこともできる。 これは剣が無い魔法の世界で主人公がサクサク強くなっていく、爽快感あふれる追放、復讐ストーリーです。 ざまぁ回はエピソード40話以降です。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:5時間18分

    この作品を読む

  • ヨミガラスとフカクジラ

    全てを失った英雄を廻る、奇妙な運命。

    398,705

    618


    2022年9月25日更新

    飛行船により、浮遊大陸から人々が空へ駆け出して二世紀以上。 空中都市連邦“バラクシア”の首都と呼ばれる、工業都市“レガリス”はバラクシア国内で勃発した奴隷制度を巡る浄化戦争を乗り越え、奴隷制度を存続させる事に成功していた。 黒羽の団と呼ばれる抵抗軍の撲滅と奴隷制度の推進を掲げ、レガリスの帝王と帝国軍による帝国は益々隆盛を極めていく。 そんな中、“レガリス”において全てを失った男が居た。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:22時間50分

    この作品を読む