悪役道化師はトマトがお好き

読了目安時間:5分

エピソード:4 / 4

第四話 まといと塩川

 夕暮れの道。歩いているまといと塩川。  ティータイムの後、夕方になるまで二人の任務の話を聞いたまといは、塩川に送ってもらうことになった。車を出すという塩川に、まといは近くだし歩きたいと言い、根負けした塩川と一緒に歩いている。自分に伝えたかったことは聞けなかったが、二人の任務の話はとても面白く、まといはご機嫌だった。ただ塩川がそこにいるだけで、まといは幸せになれるのだ。そんなまといを呼ぶ声があった。 「朱都!」  まといと塩川は声の方を振り向く。カフェから青年がのぞいていた。 「木村君」  カフェ制服姿の木村は大きく手を振る。 「ノート返したいんだけど、今いいか?」  まといは塩川を見た。 「ちょっといいですか?」 「おう。行って来いよ」  塩川に微笑むと、まといはカフェへと走っていく。塩川は、ぼんやりとまといの背を見つめていた。店の入り口で、楽しそうに談笑するまといと木村。ただ、塩川はそれを見つめていた。少しの後、ノートを抱えたまといが戻ってくる。ニコニコと笑い、塩川に詫びを入れる。 「お待たせしました」 「いーや。もう大丈夫か?」 「はい!」  まといは元気よく返事をした。それをみて塩川も微笑む。 「なあまとい、ちょっとゆめみ公園に行かないか?」  塩川はゆっくりと言った。  ゆめみ高台公園に向かう階段。まといと塩川は並んで歩いていく。公園にたどり着くころには、日もすっかり暮れていた。 「昼と夜じゃやっぱり雰囲気違いますね」 「そうだな。暗いと思い出すよ。もう6年も前なのにな」  塩川は遠くを見て言う。笑うまとい。 「……俺が別れ際、なんて言ったか覚えてるか?」 「忘れるわけないじゃないですか。伝えたいことがあるって」 「ああ、そうだな」  沈黙。 「じゃあ帰るか!」  まといはずっこけた。 「ちょっと!」 「あ?」  わざとらしく咳払いをしてから、真剣な表情で塩川を見る。 「先輩が、私に伝えたかったことってなんですか?」 「一生そばにいてほしい」  さも当然のように塩川は答えた。真っ黒な瞳にはまとい以外映っていない。まといは目を見開く。と、次の瞬間塩川が大きく息をついた。 「って言いたかったんだけどさ、やっぱ無理だわ」 「は」  まといの口から言葉とも息ともつかないものがもれる。 「まといは俺をただの塩川だって言ってくれたけど、俺はやっぱりジョーカーなんだよ」  塩川は苦しそうに笑った。 「年も離れてるし、お前にメリット何もないもんな。ごめん」 「……」  うつむくまといに塩川は続ける。 「明日にはここを出てくよ。ありがとう。会えてよかった」  まといがバッと顔を上げた。 「うるさーい!」  まといの声量に圧倒され、塩川は面食らっている。 「なんですかなんですかなんですか! 黙って聞いてりゃうだうだと!」  まといはどんどん塩川に近づいていった。塩川は後ずさるしかない。 「私はね、ただあなただけを思ってこの6年待ってたんですよ! なんでかわかりますか?!」  ベンチに突き当たり、それ以上後退できなくなる。塩川は答えた。 「わ、わかりません」  まといはスウと大きく息を吸い込む。 「好きだからですよ! 初めて会った時からずっと! 塩川流が好きなんです!」  塩川は目を見開いた。 「それを先輩は! 年の差がなんですか! 過去の罪がなんですか!」  まとい、泣きながら叫ぶ。 「そのぐらい飛び越えろ! お前は泣く子も黙る、ジョーカーだろ!」  乱暴に涙をぬぐうまとい。それでも涙が止まらない。そっと塩川がまといの涙をぬぐった。 「そうだな。ごめんまとい。俺ビビッてたよ。らしくねえよな」 「塩川、先輩」  うつむいた塩川が右手を高く掲げる。 「さあ。ジョーカーのショウに、ご招待だ」  パチンと指を鳴らす。すると、あたり一面に花が咲き乱れた。パステルブルーの空に星がきらめき、白馬たちがまといの横を通り過ぎていく。驚きにまといの涙は引いていった。 「様々な能力のうち、これだけが俺に残された。視覚支配。だからこれは、全部幻だ」  まといはそっと白馬に触れようとした。とたんに白馬は霧のように消える。まといの胸を切なさが満たした。塩川がまといの腕をグイと引く。 「でもこれは、幻じゃない」  そのまままといの前にひざまずき、指輪を差し出す。 「これは」  まといは息をのんだ。 「朱都まといさん」 「は、はい」  返事に詰まるまといにかまわず、塩川は一切の迷いなく告げる。 「あなたを愛しています」  まといの目から、再び涙がこぼれだした。 「俺と、結婚してください」  まといの家・寝室。  ベッドにかけている塩川に、詰め寄るような格好のまとい。塩川ははっきりと言う。 「無理!」 「なんでですか!」  塩川の胸倉をつかんで揺らす。 「だからまといのイメージがアップデートしきれてねえんだって! 13歳なんだって! この間まで小学生だったんだって!」 「いつの話してんですか! プロポーズまでしておいて! こちとらもう19歳なんですよ!」 「ダメなんだって。正直キスだけでも罪悪感がすごいんだって。それ以上とかもう無理! 無理と言ったら無理!」 「無理じゃない!」 「無理!」  無理、無理じゃないの問答をしばらく続ける。塩川が両手を前に出し、降参のポーズを取った。 「わかった。わかった! コインで決めよう!」 「はあ?!」  塩川はポケットからマジック用のコインを取り出す。 「表が出たらお前を抱く。裏が出たらおとなしく寝る! オーケー?」 「……わかりました」  塩川から手を離す。それを確認し、塩川はコインを投げた。その瞬間、塩川を押し倒すように口づけるまとい。 「んっ!」  床へと落ちていくコイン。何度も角度を変えてキスをする。キスをしたまま、塩川がまといを押し倒した。唇を離すと、塩川は悔し気にうめく。 「クソ。イカサマじゃねえか」 「先輩の真似ですよ」  まといは得意げで、満足げだ。 「ちょっと待て。気合入れさせてくれ」  塩川は深呼吸した。 「さあ。ジョーカーのショウに……」  まといが言葉を遮るように口づけする。塩川が抗議の声を上げた。 「おい!」  塩川の口に人差し指を当てるまとい。 「ジョーカーじゃ、いや」  塩川の喉がなる。一瞬の沈黙の後、塩川はため息をついた。 「わかったわかった。仰せのままに。お姫様」  まといはニッコリと笑う。 「お姫様じゃありません。トマティーナです」

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