悪役道化師はトマトがお好き

読了目安時間:4分

エピソード:1 / 4

第一話 帰ってきたジョーカー

 6年前。  T市、ゆめみ高台公園。広く市内を見渡せるその公園の時計は、12時前を指している。空はどんよりと曇り、まだ昼間だというのに夜のように暗い。  そんな公園に一人、制服を着た少年がいた。少年の名は塩川流。地球侵略を目論む組織、ガベィジ・サーカス大幹部ジョーカーと同一人物である。彼はポケットに片手を入れ、うつむいていた。階段を駆け上がる音が響く。一人の少女が息を切らして登ってきた。少女の名は朱都まとい。ガベィジ・サーカスと戦う使命を負わされた、魔法少女である。塩川はつぶやくように言った。視線は地面に向いている。 「……なんで来た」    間髪入れず、はっきりとまといは答える。 「先輩を、止めるためです」  依然まといを見ないまま、塩川は言う。 「俺はこの世界を壊す」  一拍置き、まといは答えた。 「させません」  塩川のため息がこだまする。 「お前だけが俺の未練、俺の特別、俺の弱さ」 「先輩……」 「断ち切らなきゃなんねーんだな」 「せんぱ」  まといを制すように塩川が指をさした。 「俺はジョーカー。その名を聞けば泣く子も黙る。ガベィジ・サーカス大幹部、ジョーカーだ」  一瞬泣きそうになるまとい、ぐっとこらえる。 「私はベジソルジャー・トマティーナ」  まといはポケットからトマトの形をしたブローチを取り出し、キスをした。瞬間、まといを光が包み、真っ赤なコスチュームをまとった魔法少女、トマティーナに変身する。まといは力強く言葉を紡ぐ。 「そして朱都まといです!」  塩川は力なく笑んだ。まといは続ける。 「たとえ先輩がジョーカーでも、私の知ってる塩川流が全部うそでも、私の思い出は全部本当!」  決意の表情から一転、柔らかく笑むまとい。ポーズをキメる。 「しおれたココロ、真っ赤なラブで満たします!」  それが合図だったかのように塩川は手を差し出し、指を鳴らす。 「さあ、ジョーカーのショウにご招待だ」  12時のチャイムが鳴り響いた。  現在。  綺麗に整頓された中にピンク色が散見されるワンルーム。中央に置かれたテーブルに合わせられた座椅子に座り、19歳になったまといは手紙を書いていた。 「今日は朝から曇っています。先輩と戦ったあの日と同じ。あの日のこと、今でも昨日のことのように思い出せます。だってそれは、先輩と話した最後の日だから。今は時折届く先輩からの手紙が、とてもとても楽しみです。でもほんとは」  会いたい、と書いて書いたところを消す。 「お手紙待っています。朱都まとい」  まといの胸中を切なさが満たした。ふるふると顔を横に振り、笑顔を作る。 「スマイルスマイル!」  立ち上がると、手紙を窓辺にとまっていた鳩に託した。そのまま窓と反対方向に向かい、玄関に置かれた帽子をかぶって出かけていく。 「行ってきます!」  誰もいない室内に元気よく挨拶した。  街中のカフェ。  日が差しはじめていた。店内から出てくるまとい。大きく伸びをする。 「晴れてきたなー」  グッと鞄をかけなおした。ふと目線を上にあげる。まといの瞳に高台公園が映った。 「よしっ」  高台公園。  まといはゆっくりと階段をのぼる。風が吹き、まといの帽子が飛ばされた。 「あ」  帽子は一本の木に引っかかり揺れている。 「もー」  階段と木の中央あたりにあるベンチに鞄を置くと、そのまま木に向かう。ロングスカートをたくし上げ、まといは木に登り始めた。サルのように器用に登っていく。すぐに帽子へとたどり着いた。 「取れた!」  安堵感からか、足を滑らせる。 「え。やっ! あ」  あっという間に落ちていくまとい。ぎゅっと目をつぶる。落ちてくるまといのところに滑り込み、お姫様抱っこの形で受け止める男がいた。塩川だ。塩川は思い出していた。まといと初めて会った時のことを。今と同じく、木から落ちてきた13歳のまといを受け止めた時のことを。塩川はまといを見て笑む。 「目ェ離せねー奴だな。相変わらず」  その声に瞼を開けたまといは目を丸くした。 「塩川……先輩……」  まといの目から涙がこぼれだす。 「お、おい。どうした。まとい?」  いきなり塩川を殴ろうとしたまといの拳が空を切った。 「うお、あぶね」 「どうしたじゃ、どうしたじゃないですよ! 帰ってきたなら言ってください! ずっと、ずっと待ってたんですから!」  ポコポコと塩川の胸を殴る。 「悪かったよ」  まといの涙を塩川は丁寧にぬぐった。 「ただいま。まとい」  顔を上げ、まといは塩川を見る。 「おかえりなさい。塩川先輩」  ベンチに移動する二人。隣り合って座る。塩川は鞄から饅頭をいくつか取り出した。 「食うだろ?」 「あ、ありがとうございます」  塩川から饅頭を受け取るまとい。首をかしげる。 「いつ頃戻ってきたんですか?」 「今さっきだな」  饅頭を口に運ぶ塩川。まといも饅頭を食べる。それを見て塩川は小さく笑った。 「小せえ口」 「なんですか!」 「はは。怒んなよ」  塩川は残っていた饅頭を一口で食べきると、口を開いた。 「じゃあ行こうぜ」 「行くって。どこに?」 「俺の家。見たいだろ?」  そういっていたずらに笑う。まといはまた泣きたくなった。この笑顔が、ずっと見たかったのだ。ゆるむ涙腺に鞭をうち、まといは立ち上がる。6年ぶりに塩川邸へと向かうために。

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  • 探偵

    月城友麻

    ビビッと ♡4,000pt 2021年5月19日 10時46分

    《いきなり塩川を殴ろうとしたまといの拳が空を切った。》にビビッとしました!

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    月城友麻

    2021年5月19日 10時46分

    探偵
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年5月19日 10時55分

    ビビッとありがとうございます!! 思いの外速い拳だったみたいですね! 続きもがんばるので、どうぞお付き合いくださいませ!!!

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    ノザキ波

    2021年5月19日 10時55分

    文豪猫
  • ひよこ剣士

    小屋野ハンナ

    ♡3,000pt 2021年5月19日 10時48分

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    応援しています

    小屋野ハンナ

    2021年5月19日 10時48分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年5月19日 10時56分

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    ありがとうございます!

    ノザキ波

    2021年5月19日 10時56分

    文豪猫
  • ひよこ剣士

    tetsu

    ♡1,000pt 2021年7月18日 10時24分

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    応援しています

    tetsu

    2021年7月18日 10時24分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年7月18日 11時52分

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    続きも読みに来てね!

    ノザキ波

    2021年7月18日 11時52分

    文豪猫
  • ひよこ剣士

    キコ

    ♡1,000pt 2021年6月1日 19時14分

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    君なら世界を救えるかもしれない

    キコ

    2021年6月1日 19時14分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年6月24日 15時00分

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    ありがてえありがてえ

    ノザキ波

    2021年6月24日 15時00分

    文豪猫
  • ひよこ剣士

    キコ

    ♡1,000pt 2021年5月22日 21時03分

    最新号より 初めに見た 表紙イラスト(?)のが すごく好きだったのにぃー

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    キコ

    2021年5月22日 21時03分

    ひよこ剣士
  • 文豪猫

    ノザキ波

    2021年5月22日 21時32分

    コメントありがとうございます!! 表紙イラスト、迷っております…

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    ノザキ波

    2021年5月22日 21時32分

    文豪猫

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