アルカディア戦記〜白銀の王スターツ〜

読了目安時間:5分

第25話 傀儡と意地のぶつかり合い

 アリストデモスは、部下の報告を聞いてあからさまに表情を変えた。 「何だと!? それは本当なのか!」 「はい。アクリタス将軍は例のガキ率いる傀儡戦士(マリオネッタ)と交戦。奴らを相手に善戦しましたが、力及ばず...」 「......分かった。もう下がっていい」  アリストデモスが臨時で築いたピュロス砦の奥。本陣を構えるそこで悲報を聞くと、静かに項垂れた。報告した兵が下がると何かを呟くようにぶつぶつと小言を口にする。 「アクリタス...」  最も信頼していた将軍の名を言うアリストデモスの顔は、先程まで指揮していたような人を導くように輝く面影などなかった。そこにいるのは人ではなく、信頼した部下を一挙に失い、どうしようもなく絶望に満ちている指揮官()()()抜け殻。  肉体から感情という人情を失った者の末路を表しているかのようだった。  兵たちからすれば、自分たちの上官がアリストデモスしかいないという状況の中で、彼をも失ってしまえば一巻の終わり。ピュロス軍は完全敗北を喫することになるだろう。  なので早く絶望に支配された肉体から解放されて自分たちに指示を出して欲しいのが本音だ。  しかし戦況は、アリストデモスの復帰などを待つわけがなかった。運命の女神がピュロス軍を見放し、勝利を約束したアーカディア軍につくいたかのようにどんどん転がり落ちていく。 「残るはあそこで居座っている指揮官だけかな?」  信頼する将軍(アクリタス)を撃破した例のガキ――リーフィルが、複数の傀儡戦士(マリオネッタ)を率いてピュロス軍を追い詰めに来たのだから。 「ん? 指揮官...だよね? 何で項垂(うなだ)れているのかしら」  ゆっくりと余裕を感じさせる歩みを続けるリーフィルだが、アリストデモスの様子を(いぶか)しむように眺める。地面を向いたままこちらを視認しない男を怪しく思い、麾下の傀儡戦士(マリオネッタ)に命じる。 「あの(うつむ)いている惰弱な男を討ち取りなさい」 「「「承知しました」」」  取り巻きはリーフィルの命令を聞き、アリストデモスを討ち取りに武器を構えて一斉に襲撃した。その数およそ百と少し。  対するアリストデモスを守るピュロス兵は、わずか五十ほどしかいなかった。約二倍の戦力差な上、死兵同然の傀儡戦士(マリオネッタ)が相手では分が悪すぎる。  双方が衝突した瞬間、ピュロス軍があっという間に瓦解する未来しか思い浮かべていなかったリーフィル。先のアクリタス戦と同じように、死兵の取り巻きを利用して容易く勝利を手にする予定だった。  が、その予想は少しだけ外れようとしていた。 「アリストデモス様に近づかせるな!」 「あの方はすぐに立ち上がる! 何としても持ちこたえろ!」 「裏切り者どもに、王族であられる御方を討たせはせん!」  王族に対する忠誠心が、他のピュロス兵よりも高かった。崇高な御方に指一本触れさせないとばかりに、死を恐れない傀儡戦士(マリオネッタ)と相対しても怯むことなく確実に葬る。下半身を切断し移動できなくする。腕を斬り伏せて武器を振るえなくする。首ちょんぱすることで一瞬にして絶命させる。  仮に傀儡戦士(マリオネッタ)から猛攻を食らおうとしても、真正面から受け止めずに後退または左右に躱し、間隙が生まれたところに強力な一撃をお見舞いする。敵の数が多い分時間はかかるが、地道に確実に屠るにはこの方法しかない。  けれども、兵数の多寡を覆すまでには至らない。兵が協力して圧倒的な個(死兵)を討ち取ろうとするまで二、三人が討ち死にする。アーカディア軍が優勢なのは間違いないが、リーフィルとてここで無為に時間を使うわけにはいかない。 (意外としぶといわね。死兵紛いをぶつけても瞬殺しないなんて、ピュロス兵とやらの忠誠心も侮れない、か。けど、さっさとこれらを片付けてスターツの援軍に向かいたいな) 「みんな! 目の前の敵に気を取られる必要はないわ! 後方に居座る指揮官を討つだけでいいのよ!」 「「「ご命令、承りました」」」  早々に止めを刺すべく、リーフィルは交戦中の麾下に命令を下す。彼女の凛として勇ましい声に、生気のない表情を浮かべているはずの傀儡戦士(マリオネッタ)が奮起した。付け焼き刃程度に立ち回るピュロス兵の戦術など、死に物狂いで突貫する傀儡戦士(マリオネッタ)の敵ではなかった。  たちまち死兵の勢いに呑み込まれ蹂躙し、跡形もなく城内に残っていたピュロス兵全員が瀕死に陥る。誰もかれも致命傷を患い、もはや生還を見込むことなどできなかった。 「アリストデモス様...我々は十分、時間を稼ぎました...! 次は、御身の番ですぞ...!」 「どうか、未来のピュロスを担うに相応しい御姿を取り戻して下され!」 「アリストデモス様!!」  未だ絶望の淵に苛まれるアリストデモスの姿を痛々しく眺めるも、命の一滴すら惜しまずに自分たちを率いた指揮官(アリストデモス)に最期の言葉を送りながら息絶える。それも一人ではなく、死兵の猛攻に耐え切り戦士までのカウントダウンを無事に迎えた兵全員だった。  やがて最後に残った兵が、失意の波に沈みゆく主君を呼びつけるように叫んだ。その兵も笑顔を浮かべながら逝くと、必死に訴えた声が届いたのか、先程までピクリとも動かなかった抜け殻に感情が蘇った。  虚ろな瞳にハイライトが戻り、やつれていた表情に生気を宿す。地面を食い入るように項垂れた顔は前を向き、アーカディア軍を迎撃した時と同様の、自信と勇敢に満ち溢れた生真面目な王族の姿がそこにはあった。 「高強度混凝土(パノイプソス・ツィメント)!」  絶望から希望へ、危機から好機という好循環に転がり込んだ彼の開口一番は、持てる全ての力を発揮する秘技だった。  左腕に装備した腕輪が灰色に発光し、真上の空間が歪み鼠色の液状を顕現した。細長く蛇のようににょろにょろと(うごめ)く物質は、アリストデモスに襲撃する死兵を取り囲むように丸く繋いだ。前後左右、全方位を灰色の液状に包囲された死兵は脱出を図り強引に突破しようとするも、細長い混凝土は触れた瞬間、石のように凝固しさらに動くことを許さなかった。  混凝土は包囲を狭めるように縮小し、閉じ込められた死兵は互いにおしくらまんじゅうする形になるも、時すでに遅し。  細長く縛り付けた混凝土は、死兵を覆い被さるように面積を広げ、胴体、下半身、顔面へと拡大した。口と鼻を覆われると呼吸ができなくなり、ジタバタと必死になって足掻くも数分後にはパタリと動きが止まった。呼吸できなくなり、一瞬で冥府へ旅立った。  自分の麾下が一瞬で全滅したリーフィルだが、彼女は部下の様子を確認している場合ではなかった。復活したピュロス王族、アリストデモスを見据えながら心情を吐露する。 「私の人形たちがこうもあっさりと無力化されるとは...」 「覚悟はできているだろうな。アーカディアの羊飼い風情が!」  感情などの精神がなかった抜け殻から一変、仇を見る目でリーフィルを睨みつけた。

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