Amazonギフトカードが当たる会員登録キャンペーン実施中!詳しくはこちら

アルストラ外伝~ナナイメモリーズ~

読了目安時間:4分

3-3

 グラデーションがかった青い着物の上から、左肩から上腕を保護する肩当と胸当てを纏い、籠手を身に着けている女。足は草鞋や下駄ではなく、動きやすさを重視した黒のレザーブーツという出で立ちだ。  鋭いつり上がった蒼眼の左側は前髪で隠れていたが、飢えた獣めいてギラギラと輝き、獲物をじっと見据えていた。 「どこまで教育が済んでいるか。一つ試してやろう」  女が腰に下げた刀に触れた瞬間、別のかかしが吹き飛び、細切れの木片に変り果てた。  シンアクターであるナインですら、女の太刀筋を見切れなかった。人間がなせる業ではない。  人でなければ、自身とほぼ同一の存在。すなわち――。 「何今の!?」  二人を迎えに来ていたサチコが声を上げて立ち尽くす。  彼女の叫びを聞いたナインは直ぐさま頭を切り替え、サチコの方を見る。 「サチコ。この状況をナナイ姉さまに伝えてください」  サチコを逃がすと共に、ナナイへの救援を求めるナイン。 「わ、わかった!」  事態を即座に理解したサチコは頷き、方向転換して駆け出した。 「自身に対して敵対的行動を取るものと出会ったら、まず逃げること」  ナナイの言葉を復唱し、ナインは逃走を図る。  対象の能力は未知数。明確にわかるのは、現在の自分が敵う相手ではない。  先程の発言から推測して、狙いは自分自身だ。  ナインが動きだろうとした時、地面に一本の線が走り、彼女の行く手を阻む。 「!」 「逃げの一手とはつまらんな」  女がせせら笑い、鍔に左の親指を当てて鯉口を切る。右手が刀の柄に触れた直後、ナインの頬が切り裂かれ、赤い血が噴き出す。 「ナイン!」  マサムネが叫ぶ。  女は続けて斬撃を放つ。  ナインは連続で繰り出される斬撃を躱せず、薄皮を切り裂かれ全身が血で染まっていく。 「どうした? ここで限界を越えねば死ぬぞ?」  女の声を聴いたナインの中で未知の感覚が沸き上がる。  死ぬ? このままだと私は死んでしまうのか?  命には必ず終わりがあるとナナイが教えてくれた。  自分は今、終わろうとしているのか?  そしたらナナイは、サチコやマサムネとも話せなくなるのか?  血の雫が流れ落ちる度に、体温が下がっていく。いいや、そんなはずはない。バイタルはまだ正常だ。受けているダメージは極めて軽い。にもかかわらず、体が震える。これは一体なんだろうか。 「やめろッ!!」  女が攻撃を中断すると、マサムネはナインと女の前に立ち、木刀を構える。 「マサムネ。私を置いて逃げて下さい」  ナインがマサムネを止めようとするが、彼は首を何度も横に振る。  「……嫌だ! ナインを置いて行けないよ!」  剣を真正面に向ける小さな体は震え、剣先はぶれる。  恐れを抱きながらも強敵に立ち向かおうとする少年の姿に女は感心して、ヒュウと口笛を吹く。 「少年。怖くはないのか?」 「……怖い。怖いよ。でも、ナインがいじめられているのに逃げたらダメなんだ!」  涙目になりながら、マサムネは女から目を逸らそうとしない。 「良い。とても良いぞ。お前は将来、素晴らしい戦士になる。ここで生き残れたらな……」  女は天を仰ぎ見た後、鞘に収まっている刀を握り締め、腰を低く構える。 「マサムネ!」  ナインが無我夢中で駆け出す。  女は大地を蹴って風となり、刀を抜いた。  ナインはマサムネを抱き寄せると同時に、女に背を向けてマサムネを庇う。この一撃で全てが終わるだろう。  ナインが死を覚悟した。  しかし――。  何時まで経っても斬撃の衝撃が体を貫かない。不可解に思ったナインがゆっくり振り向くとギラギラと光る刀が目の前にあった。 「どうして逃げなかった? 少年を捨て置けば、お前だけは助かったのだぞ」 「……わかりません」  女の問いに、ナインはありのままの気持ちを答える。 「私は自らの命を優先するよう、母さまと姉さまに申し付けられていました。ですが、彼を。マサムネを失ったら、もっと大事なモノが無くなってしまう。そう、思ったのです」  ナインはマサムネの小さな体を強く抱きしめる。不安げに自身の顔を見つめているマサムネの顔を見たら、妙に安心して体から急速に力が抜けていった。 「それが“恐れ”だ。ナインセラフ」  そう言うと女はフッと笑い、刀を収めた。 「え?」  ナインが戸惑いながら女を見ると、女は勝手に納得して何度も頷いている。 「成程、そういうことか。エクセレントだな」 「エク……?」  ナインが聞き返すと、女が嬉しそうに答える。 「うむ。“とても良い”という意味だ。覚えておくと――」 「ナインとマサムネに何してんのよキィィィィィィック!!!」  突如真横から放たれたナナイのドロップキック。  キックを真横から喰らった女の顔が芸術的に変形し、遥か彼方へと吹っ飛んでいった。  事態が呑み込めないナインとマサムネは呆然と女が消えた方向を見つめ続ける。 「二人とも大丈夫……ってナイン血だらけじゃない!」 「大丈夫です。いずれの傷も致命傷ではありません」  駆けよってきたサチコはぎょっとするが、ナインはいつもの調子で彼女を落ち着かせる。  彼方でいくつも撒き上がる土煙が収まり暫くすると、何事も無かったかのように女が首を鳴らしながら戻ってきた。 「うむ、良い蹴りだったぞナナイ。健やかな証拠だ」 「何が健やかよ……ツヴァイト姉さん」  ナナイは頭を抱えながら女の名を呼んだ時、サチコとマサムネが「えっ」と短く声を出した。

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿


同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • Dual World War

    異世界転移×SF (毎週水曜更新中)

    54,100

    267


    2021年7月28日更新

    主人公:水奈 亮(17)はごく普通の高校2年生。そんな彼にも異世界への扉が開かれた。 そこは私たちが住まう世界とはわずかに、でも、確実に異なる世界。。。 わずかな違和感とそれを薄めるような安心感との連続で次第に自分を見失いつつあるなか、 何の脈絡もなくソイツは姿を現した。 突如課せられた使命。 5年前に終息したはずの【外来生物】の再来と、 滅びを水際で食い止めし人類が用意した対抗策:外来生物特務機関NAVISとは一体何か!? 等身大の高校生が世界の命運をかけて戦う異世界転移型SFストーリー ぜひご一読を!

    読了目安時間:45分

    この作品を読む

  • メンタル病んでる事は判るが、歴史までは判らねぇよ!!

    深い闇からも少女を救い出す為に動き出す。

    48,500

    365


    2021年7月16日更新

    ※歴史の人物名や史実も出ますが、全く異なります ※素敵なイラストは毒島ヤコ様に作成して頂いたものです ※著作権は毒島ヤコ様にあり、無断使用・無断転載はお控えください あの苦しかった頃、私は何も望んでなかった。 何も考えられなかった。 それでも私は助けて貰えた。 あんな環境から、どうにか保護して貰えた。 でも私は一切、忘れてねぇ… だから武術の全て習得を頑張った。 今なら絶対あのクズ共程度に負けねぇ… もう我流でも充分だ!! 忘れてねぇからこそ私は、もう決めてる。 誰も愛さねぇ、選ばねぇ、信じねぇ。 誰も望んでねぇ、求めてねぇ。 勿論、助けてくれた事や人達へ感謝してる。 通院も含めて、まぁ… 一応、メンタルも病んでる自覚はしてっけど? もう充分、一人で生きてけんだ!! それなのに今度は… おい、おい、待てよ!? タイムスリップだぁ!? あり得ねぇだろ!? もう言われる事すら何も判らねぇ… 命の価値だぁ? 生きる意味だぁ? 皆の中に居る幸せだぁ? 今更、全て判らねぇよ!! だから… 私に触れるな。 私に近付くな。 私に踏む込むな。 私は思い出したくもねぇ!! 私が誰かを、かぁ? 信じねぇ。 愛さねぇ。 命すら関係ねぇ。 しかも歴史までなら尚更、判る訳ねぇだろうがぁ!! 最初は唯一の優しい祖母が、私にくれた『宝物』からだった。 そこで、なぜか出会う。 それは『唯一の宝物』でもなかった。 本当に探すべきは『幸福』をだった。 でも、そんなん知らねぇ!! 考えた事すらねぇ!! 私の命に価値すらねぇ!! それなのに何でだぁ!? でも言われる様々な言葉。 もう全てが衝撃的だった。 現代から過去へとタイムスリップした深い闇を抱える少女。 その傷も癒す為、また誤ちへとしない為。 歴史上の有名人達すら動き出す。 「もう誰からも… 傷付けない!! 痛くしない!! そして… 守る事を!! 助ける事を!! 必ず救い出すのみ!!」 だったら私は… 「もう私には歴史すら関係ねぇ!!」 命の価値を、本当の意味を。 信じる事を、愛する事を、幸福を。 そして新たな歴史へ。

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:19時間31分

    この作品を読む