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アルストラ外伝~ナナイメモリーズ~

読了目安時間:5分

第三話~姉襲来、動き出す運命~

3-1

「やっっったぁーーーーーー!」  歓喜の声を上げるナナイ。彼女はミニオンから受け取った書類を高らかに掲げた。 「やっぱりやればできる子ナナイちゃん! まぁ私の手にかかれば、この程度は余裕ですがねぇー」  自画自賛するナナイは改めて書類に目を通す。  ロニケア森林地区の権利書と、権利の売買に至るまでの経緯を記した書類。余白も無くびっしりと書かれた長い前置きと、ややこしい言い回しの文章。全部で五枚に及ぶ書面の一番下に、前任者直筆のサインが書かれていた。  古い王の末裔を自称する老人の文字。悪人という訳ではないが、先祖より譲り受けた土地の価値を彼は理解しておらず、地上げ屋に言われるがまま森を売り払おうとしていた。  そこにナナイが介入。事前の根回しと法的根拠に基づいた交渉で地上げ屋を追い出し、彼らが提示した価格を遥かに超える金額で森を丸ごと買収したのだ。  森を売った老人もご満悦だったようで、今は南の島で優雅な隠居生活を送っているとのこと。  ロニケアの森にはミルガヴォルフが密かに暮らしている。もしもあのまま放置していたら完全に絶滅していただろう。 「エゴだなぁ」  ナナイは独り言を漏らした。  身勝手な都合で狩られた森の王を、今度は身勝手な情で保護する。  自分にとって都合の良いものだけをえり好みして、命を救っているに過ぎない。  今自分がマサムネとサチコを守っているのも、同じなのだろう。  ナナイが感傷に浸っていると扉が開き、サチコが帰ってきた。 「ただいま」  いつもより早い帰宅のサチコ。本来ならばまだ学校にいる時間のはずだ。 「おかえりさっちゃん。どうしたの? そんな不貞腐れた顔をして」 「別に。学校なんて馬鹿しかいないって思っているだけ」  サチコは不満を隠そうとせず言葉に出して、背負っていた鞄を乱暴にテーブルの上に置く。  鞄に詰まっていた教材の重みと置いた勢いでテーブルが揺れ、テーブルで休憩していた妖精型ミニオンが慌てた様子で羽ばたき、サチコの周りを飛び回る。  サチコとマサムネの二人と出会って三年。ナナイはより多くの学びの機会を与えようと、十三になったサチコを学校に通わせた。  サチコも初めは喜んでいたが、今は違うらしい。    サチコは椅子に腰かけ、テーブルに頬杖をついて妖精型ミニオンをつついている。ナナイは彼女の隣に座ると、サチコはばつが悪くなったのかナナイに背を向ける。 「学校行きたくなくなった?」 「……うん」  小さい声で答えるサチコ。  彼女は同年代の子どもと比べても優秀だった。否、優秀過ぎた。  ナナイが教えを瞬く間に理解し、短期間で高等数学を完全に把握。有る時、マサムネが誤って壊したミニオンを修復するなど、ナナイから見てもサチコは特別な力を持っていた。しかしその異能が、彼女を苦しめていた。  自身の能力と大きくかけ離れた教育。同級生が向ける好奇の目。教育者たちにも拒絶され、サチコは孤立し、学校での居場所を失う。 「クラスの奴も、先生も私を気持ち悪いって言う」  絞り出すように発したサチコの一言。 「そっか。なら、やめちゃおっか」  全てを察したナナイがあっけらかんと答えた。  即断即決。ナナイの顔には一切の迷いがない。寧ろ、学校へ行くのを嫌がったサチコが戸惑ってしまう。 「ま、まってナナイさま。最初に学校に行きたいって言ったのは私で、学費だって――」 「大丈夫。金ならいくらでもある。むしろ溢れかえっている」  ナナイが発した生々しい言葉にサチコが引く。  アラサー(アラウンドサウザンド)にとって、サチコの学費などポケットマネー(はした金)だ。 「行きたくないところに行っても楽しくないでしょ。あ、もしもし交換手さん? ミ・クラース理事長に繋いでくれる?」  相手が理事長に変わったのかナナイは朗らかな声で談笑を始め、和やかな雰囲気のまま会話を終了した。 「はいおしまい。後で学校から書類が届くわ」  ものの数分で退学手続きが完了し、唖然とするサチコ。  暫くして我に返ったサチコはナナイに尋ねた。 「……どうして私やマサムネを助けてくれるの? 何のメリットがあるの」  サチコにはわからなかった。何故ナナイがここまで自分たちに何の見返りも求めないのか。 「あなたたちが、私たちの友達だからよ。理由なんてそれだけよ」 「本当にそれだけ……?」  いつもと変わらぬ調子で答えるナナイ。サチコは腑に落ちない様子だった。  信じたい。だけど信じていいのだろうか。  表情を曇らせたサチコが俯く。  優れた頭脳を持つ彼女だが、心はまだ未熟な子供でしかない。  アンバランスなサチコを安心させようと、ナナイは手を伸ばして彼女の髪に触れる。 「自分には価値が無いとか、何も恩返しできていないとか、そんな風に思ってない?」 「え……」  顔を上げるサチコにナナイは優しく微笑む。 「二人にはいつも助けられているわ。主にナインのことでね。だからあなたたちはここにいて良いの」  ナナイの言葉に嘘はない。  事実、サチコとマサムネとの交流は彼女に多くの学びをもたらし、当初は空っぽだったナインも今では自発的に行動できるほど成長した。  ここにいていい。  ナナイの言葉を聞いた安堵したサチコは目を潤ませ、ナナイの手を取って自身の頬につけた。 「ありがとう……ナナイさま」 「今日は頑張ったわね、サチコ」  ナナイはハンカチを取り出して涙を拭おうとするが、サチコは素早くハンカチを奪って自分の顔に押し付ける。  そこまで子供じゃない。行動で示そうとするサチコに、ナナイがくすっと笑う。 「お茶にしましょう。ナインとマサムネを呼んできてくれない?」 「わかった! いってきます!」  明るく答えたサチコが外へと飛び出す。  ナナイは立ち上がり、紅茶とクッキーを準備する。何時までも、こんな日々が続けばいいと彼女は願うが、敵わない夢だ。  自分たちと彼女らでは、流れる時間が違う。やがて訪れるであろう別れを思うナナイは、小さくため息をついた。

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