図鑑のスクリプトル

読了目安時間:5分

新たな森の仲間

「むぅ……!むー!!」 「こらこら、暴れないの。君の負けだよ」  ナナが彼女の腕の中で暴れるマンドラゴラをなだめようと声をかける。  それに怒ってしまったのか。 「むー!まう!」  マンドラゴラが手で輪を作ろうとした。  ナナに向かって奇声を発しようとしているのだ。 「ソラさん!この子の口に防音魔法を!」  口に……?よくわからんけど了解! 「範囲を絞って……よし!音よ鎮まれ!」  ナナに言われて準備しておいた防音魔法を発動させる。  防音魔法がマンドラゴラの口元にだけ膜を張るのと同時に、マンドラゴラが奇声を発しようとする。  だが—— 「——!——!!」  奇声は発せられることはなく、ただマンドラゴラが輪に向かって声を出すしぐさをするだけにとどまった。 「うまくいってよかった……。こんな至近距離で奇声を受けたらどうなっていたか……」  ナナは安心した様子で、ため息をつきながらその場で座り込む。 「——?——?」  マンドラゴラは何事もない様子のナナを見て、再び輪に向かって声を出す。  だが、奇声が発せられることはもうなかった。 「ごめんね、君の声をその輪に届かないようにしちゃったんだ。魔法を解除するまで奇声は出せないよ」  ナナが種明かしをする。  彼女の話によるとこういうことだそうだ。  マンドラゴラが奇声を発するためには本体の声と、手で組んだ輪が必要とのこと。  作られた輪を声が通過することで、拡声されて奇声となる。  普通の声量でしゃべっれていたことや、奇声を発する前には必ず輪を作っていた点が、奇声の発生理由の裏付けとなったそうだ。  奇声の発生理由は分かったが、対処方法は?  防音魔法を使って、奇声になる前のマンドラゴラの声を遮断しただけだ。  しかし、防音魔法は奇声を浴びて2回も破壊されてしまっている。  最後に使った防音魔法も破壊されるのが当然だろう。  けれど破壊はされなかった。  防音魔法が破壊された理由は、奇声を至近距離でもろに受けてしまったから。  大音量の声に耐えきれなかったために破壊されてしまったのだ。  あくまでマンドラゴラの奇声には耐えられないというだけで、通常時の声に耐えられないという訳ではないのだ。  マンドラゴラの奇声が発生するための条件は3つ。  手で輪を作ること。  声を発すること。  そして、声が輪を通過することですべての条件が満たされて奇声となる。  マンドラゴラの声が輪を通過して奇声となるのであれば、奇声になる前の声を遮断すればいいということだ。  そうすれば、条件が満たされないため声が奇声に変化することが無くなる。  僕が使った防音魔法は音を遮る膜を張る魔法。  膜の外側から内側、またその逆であろうとも問答無用で音を遮断することが出来る。  声自体は出ているが、輪を通過していないという状態を作ったことで、奇声は発生しなかったのだ。 「——!——!」  マンドラゴラはその後も声を出し続けようとしていたが、奇声が出ることはなかった。  そして、奇声が出せないことを理解したらしく、輪を作るのをやめて悲しそうな顔でナナのことを見つめた。 「……大丈夫、君の声はすぐ戻るよ。でも、1つだけお願いを聞いてくれてもいいかな?」  ナナが優しくマンドラゴラに話しかける。  マンドラゴラもその声を聞いてコクリと頷く。 「この森にはね、君以外にもたくさんの命が住んでいるの。ここにいる主様みたいにおっきな体を持っているのもいれば、空を飛ぶ鳥さんみたいに小さなものもいるの」  ナナはマンドラゴラを抱きしめ、薬草地帯をゆっくりと歩きながら説明をする。 「みんなこの森で静かに暮らしているんだ。聞こえる?小さいけどお話している声が」  マンドラゴラの奇声がなくなったからなのか、森の中から鳥のさえずりが聞こえてくる。 「そんな小さな声と比べて君の声は凄いものだよ。この森の中でこの声を出せるのは、君以外でいないと思う」  少なくとも人では出せないよね。 「でもね、いきなり君の大声を聞いたらみんなびっくりしちゃう。びっくりして逃げちゃうんだ。そうしたら君の周りには誰もいなくなっちゃう」  足を止め、マンドラゴラを腕から降ろして地面に立たせる。  そして、マンドラゴラと同じ目線になるようにかがむ。 「独りぼっちは嫌でしょ?そんなの寂しいよね?」  マンドラゴラは寂しそうな顔でうなずく。 「誰かに向かって大声を出すのは今日でおしまい。そうしたらきっと、ここにいるみんなが君のお友達になってくれるよ」  マンドラゴラの顔がパッと明るくなる。  もしかしたら、寂しくて奇声を出していたのかな。  自分はここにいると伝えるために。 「じゃあ約束しよっか。私たちはこれから君のお友達。お友達には大声を出さないこと。良い?」  マンドラゴラはにっこりと笑って大きくうなずいた。 「約束してくれてありがとう。でも、本当に君が困ったときには大声を出してね。そしたらきっとみんなが助けてくれるから……」  マンドラゴラはきょとんとした顔をしていた。    出すなと言われたり、出せと言われたりして困惑しているようだ。 「さあ、ソラさん。防音魔法を解除してください」  ナナがマンドラゴラの頭を撫でながらこちらを見る。 「了解!ほいっ、魔法解除」  マンドラゴラの口元から半透明の膜が消え去る。 「まう?あう!あうあう!」  しゃべれるようになったマンドラゴラは、嬉しそうに周囲を駆け回っていた。 「こらこら、お友達になったんだからまずはご挨拶だよ」  ナナがマンドラゴラに注意する。  注意をされたマンドラゴラはナナの横に走り寄り、腕に抱き着いてこちらを見た。 「まう!まうまー!」  恐らくよろしくといっているのだろう。 「こちらこそよろしくね。マンド……う~ん……」 「ソラさん?どうしました?」  マンドラゴラに返事をしようとしたが、途中で言いよどんでしまった。 「ああ……いや、なんか呼びにくくてさ。マンドラゴラって種族名でしょ?人に人って呼ぶみたいでおかしいんじゃないかなって……」  マンドラゴラは気にしないかもしれないが、僕たちからしてみれば非常に気持ちが悪い。 「つまり、名前を付けようってことですね?」 「そういうこと。ナナは何か良さそうな名前はあるかい?」  ちなみに僕は何にも思いついていません。 「そうですね……。それじゃあ……」  お、何かあるみたいだ。  ナナはマンドラゴラを正面に立たせ、頭を撫でながらこういった。 「君の名前はパナケア。すべてを癒すという意味だよ」  この森に新たな仲間が加わるのだった。

ご覧いただきありがとうございます! 今回は、マンドラゴラと友達になるお話でした。 次回は、マンドラゴラと主様と別れ、家に戻るまでのお話になります。

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 操竜姫戦記~青い瞳の少女と赤い双眸の黒い竜~

    愛ゆえに人は狂気に染まる

    7,500

    50


    2021年7月25日更新

    エルシアン大陸、アルノリア王国。 そこは人類の残された唯一の大地。だが、古の時代より亡者と呼ばれる怪物の侵攻をたびたび受けている。それに対抗する力、竜を操る者たちがいる。 彼らは操竜者と呼ばれ、騎士団を形成し国と人々を守り続けている。 そして、操竜者になるべく一人の少女、ステラが儀式を受ける。 だが、そのれは失敗に終わる。 騎士団長であり父であるレグルスから騎士団長室へと呼ばれる。 そして言い渡されたのは、竜の墓場に行って来いという任務だった。 逆らうこともできず、ステラは竜の墓場へと向かった。 そこで、運命の邂逅を果たす。 そして、物語の歯車は動き出すのだった……。

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:1時間45分

    この作品を読む

  • 旅鳥

    夏マラソン一週目「秘密基地」参加作品

    17,100

    50


    2021年7月12日更新

    大衆演劇一座の女の子と、私の一夏の思い出。

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:10分

    この作品を読む