図鑑のスクリプトル

読了目安時間:4分

不思議な植物

「主様……大丈夫ですか?申し訳ありません。説明していませんでしたが僕の周りには防音魔法が張ってあって——」  ナナを背負って森の主を追いかけると、彼は少し進んだ先で耳を抑えてうずくまっていた。  どうやら僕の防音魔法の範囲から抜けてしまったタイミングで、ちょうど謎の音が流れてきてしまったようだ。 「——ですので、半透明の膜の外には出ないようにしてくださいね」  防音魔法がきちんと効果を発揮しているということが分かったのはいいけど……。  説明し忘れるのはどうにかしないとな……。  説明を聞いた主様は、指先でつんつんと膜を突いていた。  その衝撃のせいなのか、はたまた別の理由なのか、膜は揺らめいていた。  魔法の範囲を広げているせいで魔力の消耗が大きいな……。  もう少し範囲を縮めておこうかな。  せっかく原因が分かっても、その時に魔法が使えなくなっていたら意味ないし。  主様に近寄って魔法の範囲を縮小させる。  膜は僕たちを覆う程度の範囲にまで縮まり、それと同時に膜の揺らぎが収まったように見えた。  これでもうしばらく持ちそうだ。 「どうだいナナ、調子は?」 「だいぶ……よくなりました。でも……もう少しこうしていてもいいですか?」  僕の背中に顔をつけていたナナはそう言って、僕の体をより強く抱きしめた。 「ん……分かった。ゆっくりしていて」  ナナのぬくもりを感じながら僕は歩き続ける。  それからは何事もなく、ただ主様の進んでいく後を追っていくだけとなった。 ● 「あれ……?ここって……」  主様の後を追って歩き続けていると、地面に色とりどりの草や花が咲いている場所に出た。 「ナナ。ここっていつも薬草を採っている場所だよね?」 「ええ、そうです。ここにはモンスターもほとんど近寄らないはず。それに何か変なものが置かれたりなんてことは……」  大抵のモンスターは薬草のにおいが苦手らしく、こういった薬草の群生地には近寄ろうとしない。  薬で傷の治療をしていた時も、スラランからよく逃げられたりしたものだ。 「主様。ここに原因が?」  主様は薬草のにおいを気にすることもせずに、薬草の群生地に入っていく。  いや、本当は辛いのかもしれないが、解決のために頑張ってくれているのだろう。 「ナナ、危険かもしれないから降りてくれるかい?」 「はい、わかりました。ソラさんのおかげで元気いっぱいですよ!」  中腰になり、ナナを背中から降ろして彼女の顔を見てみると、本人の言う通り元気がみなぎっているように見えた。 「それじゃ周囲の様子を見ながら主様についていこう」  とは言ったものの、この場所の雰囲気は平穏そのものだった。  ここに原因があるとはとても考えられないほどに。  突然主様が動きを止めた。  警戒をしながら彼の背から身を乗り出して前を見てみる。  そこには植物が生えているだけだった。 「え?これが原因ってこと?ただの植物じゃ……」  手を伸ばして植物に触れようとすると。 「待って!その植物は……!」 「へ?うわ!?」  植物は、僕の手を避けて地面を掘り返しながら移動していった。 「もしかして……マンドラゴラ……?」  振り向いてナナに確認すると、彼女はコクリと頷いた。 「その通りです。あの植物……いえ、あのモンスターはマンドラゴラ。植物系のモンスターです。まさかこの森に根を下ろすなんて……」  マンドラゴラなんて希少なモンスターだぞ……。  ごくまれに出現情報が出ることはあるが、この目で見るのは初めてだ。 「とりあえず……捕まえたほうがいいのかな……?」  さすがに植物のモンスターの処置には明るくない。  ここはナナの知識に頼るとしよう。 「いえ、驚かせないようにゆっくりと近寄るべきです。そして静かに話しかけてみましょう」  了解と返事をし、逃げたマンドラゴラに向かってゆっくりと歩き出す。  どうやら主様もナナも、僕の後を同じように付いてきているようだ。  ゆっくり……ゆっくり……。  静かに……静かに……。  マンドラゴラが逃げ出す様子はない。  よし……あとちょっと。  マンドラゴラに手が届きそうな範囲まで近づいた。 「えっと、マンドラゴラ……さん?僕のお話を聞いてくれませんか?」  地面に膝をついてマンドラゴラに話しかける。  反応は全くなく、マンドラゴラの葉が風に揺れているだけだ。  このまま話し続ければ良いのか……な?  どうすればよいのか分からず、ナナの方をつい見てしまった。 「私もマンドラゴラと話をしたことはありませんけど……。代わっていただけますか?」  ナナの言うとおりにマンドラゴラの前から移動する。  今度は彼女がマンドラゴラに話しかける。 「マンドラゴラさん。お顔を見せてくれないかな?」  何も反応がない。  植物に詳しいナナでもダメなのか……?  そう思った瞬間。  マンドラゴラの周囲から土が吹きあがり、軽く土煙が広がる。 「ナナ!大丈夫!?」  マンドラゴラが襲ってきたのか!?  ナナに被害は……。 「大丈夫ですよ。ほら、見てください」  そんな心配とは裏腹に、のんびりした様子の声が帰ってきた。 「見てって何を……あ!」  ナナの肩越しにそれを見る。 「マンドラゴラの……子どもみたいです。まだ自我を得てからそれほど立っていないみたいですね」  そこには胸から上を土から出している、小さな子どものような存在がいた。

ご覧いただきありがとうございます! 今回は、謎の植物の正体が判明するお話でした。 次回は、この植物を捕まえるお話になります。

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