Borrowed Heart ~あの日に借りたものを、いつか君に返すまで~

読了目安時間:5分

エピソード:18 / 106

純粋な心

 上空で突風が吹き荒れると風が大地へ舞い降り砂埃が巻き起こる。風が止むと四つの影が出現する。 「到着ー!」 「は、早いですのー!」 「びっくりですのー!」  高らかに到着を宣言するリールの横でリリーとアリーは初めて飛行したことに興奮していた。元気な三人を余所にラッドは面倒そうに頭を掻きながら目の前に見える洞窟を見据える。 「……おい。ちび共。アレンとかいう人間がいるのはここか?」  確認するラッドに反応したリリーとアリーは洞窟の前で大きく頷き肯定する。 「そうなのー!」 「ここなのー!」 「ふーん……。じゃあ、案内してくれ。おい。リール。行くぞ。……リール?」  三人が洞窟に注目しているのにも関わらずリールは反対側に広がる森に……いや、大木を見つめていた。珍しく神妙な面持ちのリールが見つめる大木にラッドも視線を向ける。  そして、気がつく。  大木だと思っていたものが、ただの大木ではないことに……。 「これは……」 「えぇ、古木の精霊トレント……」  古木の精霊トレントとはよく言ったものだ。見た目はまさに木そのもの……。だが、巨木には大きな目、鼻、口が存在する。このトレントこそが恐らく……。 「あのー……。そのトレントが教えてくれたんですのー……」 「そのー……。リールのことを……」 「……そうなの……この子だったんだ……」  リリーとアリーの説明を受けたリールはなぜか目を細めてトレントを見上げる。天にまで届きそうな見事な大木だ。しかし、長い年月が経過しているため朽ちかけている。 「あのー……。トレント。最近は寝てばかりなのー……」 「そのー……。起きている時にリールのことを聞いたのー……」 「そう。……うん! じゃあ、行きましょう! アレンくんのところへ!」 『なのー!』  突如として踵を返してアレンの元へ向かうと宣言したリールの言葉にリリーとアリーは嬉しそうに飛び跳ねる。リリーとアリーの案内で洞窟へ入っていくリールとラッド。だが、ラッドは気になることがある。 (……何か、いつものリールと違うような。あのトレントと知り合いなのか?)  横にいるリールと洞窟の外にいるトレントのことが気になりながらもラッドは洞窟を進む。ほどなくして広い空間へ出る。そこはリリーとアリーがアレンと共に生活してしている部屋だ。光り輝く花と苔が空間を照らしているため、洞窟内だが昼間のように明るい。薄暗い洞窟の中とは思えない作りをしている。その部屋の奥に(わら)が敷かれアレンが横になっている。リリーとアリーは一目散にアレンの元へ駆け寄る。 「アレン。アレン。喜んで欲しいのー!」 「アレンを元気にしてくれる人を連れてきたのー!」  横になっているアレンへ嬉しそうに報告するリリーとアリーの二人。一方でラッドはアレンの姿を見て驚愕した様子で目を見開く、リールも少しだけ驚いた様子を見せるがすぐに笑顔を浮かべる。 「おい……。これって……」 「待って。ラッド。まずは挨拶からでしょう?」 「……挨拶って……。あぁ、わかった……」  なぜか渋々といった様子のラッドを尻目にリールはアレンの元へ向かう。 「リリー。アリー。その人がアレン君?」 「そうなのー。アレンなのー」 「お願いなのー。アレンを元気にして欲しいのー」  アレンの両脇でリリーとアリーはリールへ懇願する。その姿には打算も何もない。純粋にアレンを元気にして欲しいという願いが伝わってくる。一生懸命な二人を見てリールはリリーとアリーの頭を優しく撫でる。  そして、アレンを正面から見据え笑顔で挨拶を交わす。 「始めまして、アレン君。私は精霊魔導師のリールよ。それから――」 「俺はラッド。……神獣だ」  笑顔のリールとは対照的に憮然とした表情のラッド。自己紹介を聞いたはずだがアレンからは何の反応もなくリリーとアリーが代弁する。 「ごめんなさいなのー……。アレンは元気がないのー……」 「いつもは優しいのー……。でも、今は無理なのー……」 「気にしないでいいのよ。リリー。アリー。アレン君が優しい人なのは見ればわかるから……。ねぇ? アレン君。言葉を交わさなくてもわかるよ。君がどれだけリリーとアリーに感謝していたか……。だって、普通はね? そんな状態になれば後悔するはずなのよ。でも、君は違う。君はそんな姿になっても……二人に感謝している……」    言いながらリールはアレンの手を握る。  今にも崩れそうな白い手……。  少女姿のリリーとアリーが寄り添うアレンの姿は完全に白骨化している。  恐らくすでに十年以上は経過しているであろう死体のアレン。リリーとアリーはアレンが死んでいることに気が付かず介抱していた。  そう、アレンは既に死亡している。  だが、リリーとアリーは理解していない。  理解していないからこそ、今でもアレンを元気にさせようと世話を続けている。アレンの周囲にある果物や野菜は新鮮そのもの。寝床である藁も綺麗な状態だ。二人が死亡しているアレンのために甲斐甲斐(かいがい)しく世話を続けていることは明らかだ。  二人の純粋で無垢な心は美しくもあり、残酷でもある。  なぜなら、この三人に……幸福な結末が訪れることはないと断言できるから……。  だから、ラッドはどうしてよいかわからずにいた。 (……人間と精霊の時間感覚の違いが招いた悲劇か……。いや、それだけじゃない。リリーとアリーが無知ゆえの悲劇でもある……。人と関わらない純粋な精霊であることが裏目に……)  思い悩むラッドを置き去りに、リリーとアリーは純粋無垢(じゅんすいむく)な笑顔でリールへ願う。 「アレンを治してなのー」 「お願いなのー」  死という概念を理解していない二人に対して……。  リールの出した結論は……。 「無理よ」 「……えっ……?」 「……無理……?」 「えぇ、アレン君はもう治らないの」  二人へ真実を告げることだ。

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