Borrowed Heart ~あの日に借りたものを、いつか君に返すまで~

読了目安時間:5分

エピソード:15 / 84

恩人

 過去の話。  リールが十歳になったばかりの頃。  幼くして残酷な現実と直面しなければならなくなる。  一見すると何の問題もないように思えたリールの心臓には致命的な欠陥があることが判明する。機能的な問題……幼いうちであれば問題はないが、成長していくにつれ心臓の機能が低下していく病だ。現在のところ治療法はなく不治の病であることがリールの両親へ宣告される。それから、リールの両親はあらゆる治療方法を模索する。医学、薬学、魔法などの全てからリールの心臓を治療する(すべ)がないか多大な時間と労力を割いていく。だが、その全てが徒労に終わる。結論として、どのような手段を用いてもリールの病を治すことは不可能と結論付けられる。  余命幾許(よめいいくばく)と確定したリールは十五歳の時に両親から見放され一人で山奥の小屋で療養生活を送ることになる。元々リールの家系は優秀な精霊魔導師を輩出(はいしゅつ)していた。故にリールも幼い頃から精霊魔導師としての英才教育を受けて育ち、一族始まって以来とも言われるほど優秀な人材となる。だが、いくら優秀であろうと二十歳で人生が終了するとなれば話は変わる。結局のところ、家督を継ぐことも政略の道具にもならないと判断されたリールは一族から見放される。  産まれてから物心がつく頃には精霊魔導師としての教育を受けてきたリールにとって初めての挫折となる。自分の中で唯一の目標が優秀な精霊魔導師として家督を継ぐことだった。だが、その目標であり夢は脆くも崩れ去る。寿命という……どう足掻いても改善することができない問題によって……。  一人になって一週間の間、リールは泣いて過ごした。  両親から見捨てられた悲しさ、悔しさ。  己の余命が残り五年という現実。  今までの人生が壊れたことを自覚する。  その全てに対してリールは涙を流す。  辺鄙(へんぴ)な山奥ということもあり、人間はリール以外には見当たらない。療養している山小屋にも、リール以外の人間はいない。唯一の例外は、一ヶ月に一度だけ食料を届けに家の使用人が訪れる時のみ。だが、食料を届けに来ているというのは建前で、実際のところはリールの生死を確認しているというのが本来の目的だ。それ故に親しげな会話などはなく事務的に食料を届け挨拶を済ませれば、すぐに山から下りていく。そのため、リールは孤独な生活を強いられることになる。  悲しみに暮れていたリールは外に出る。  外には大自然が広がっているが人間は一人もいない。  人が作りだした物もほとんどない。  何とも殺風景な場所だと最初は思っていた。  だが、療養生活が続いていくほどにリールの考えは変化する。  どこまでも広がる自由な空……。  優しく全てを包み込む雄大な自然……。  全てが新鮮で魅力的に思えるようになる。  思えば物心がついてから、優秀な精霊魔導師となるための修業だけをして生きてきた。自由な時間はあってないようなものだ。そのため、空を眺めることも、自然を愛でることも、何もかもが新鮮だった。  そして、リールは気付く。  この瞬間、自分は新しい生を受けたのだと。  (かご)の中での生ではない。  自由な生を手に入れたのだと。  新しく生きる意味を見出すことができるようになったリールは山の中を散策することにした。例え寿命が短くとも自由に生きることに意味を見出し実行する。  そんな時、リールは自分の運命を大きく変える恩人と出会う。  霧が立ち込め中、幻想的な光が舞う中を歩いていた時に人影を確認する。 「……誰? 誰かいるの?」  人里から離れた森の中、人間がいるとは思えなかったが……。それでも、迷い人や旅人の可能性は捨てきれない。霧の中で人影がゆっくりとリールへ近づいて行く。 「……人間? こんな山奥に?」  おかしな問いかけだと感じたリールだが、すぐに理解する。現れた人物が人間ではないことに……。左右で銀と黒と瞳の色が違う。纏っている雰囲気が神秘的ともいえる。しかし、見た目以上に気になったのは周囲の精霊がざわめいていること。そのため、リールは恐る恐る問いかける。 「もしかして……、あなたは神獣ですか?」 「ほぅ。よくわかったな。小娘。いかにも我は神獣。世界に疎まれし神獣よ!」  偶然の出会いが二人を引き合わせる。  そして、リールの命はその神獣によって救われる。 ◇◇◇◇◇◇ 「――というわけよ。いやー! あの頃は私も若かったわー! あっ! 言っておくけど、今も若いからね?」 「……いや、そんなことより詳細を教えろ!」  肝心な部分をすっ飛ばされたラッドが目を三角にして訴えるが、当のリールは出来上がってしまったのか……。頬を紅潮させて違う部分の話を始める。 「詳細? ……えーっと。あの頃は十五だから確か……上から八十、六十二、八十五だったかなー?」 「ぶっ!?」  とんでもない詳細が飛び出しラッドは顔を真っ赤にさせて吹き出してしまう。 「うん? どったのー?」 「ば、馬鹿か! 誰がそんことを……。あー!? もういい!」  酔っ払いの相手はしていられないと、これ以上の追求を諦めたラッド。すると、リールは徐に近くの花を手に取ると空へ投げ精霊に祈る。 「世界を駆け巡る自由な風よ。空に舞う花々に祝福を……」  リールの祈りに応えるように一陣の風が吹くと花々が輝きながらゆっくりと宙を舞う。幻想的な光景を見てリールは思い出す。 「……こんな……感じだったなー……」 「リール?」 「……私とあいつが出会ったのは……こんな風に光が舞っている場所だったの……。お別れした時もね……」  美しく幻想的な風景の中、ラッドは目を離せなくなる。  美しい風景にではなく。  笑顔ではあるが、瞳から一滴(ひとしずく)の涙を流すリールから目が離せなかった。自分でも理解できない感情が胸を締め付ける。

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  • ありちゅ

    仲乃 斉希

    ♡500pt 2022年8月27日 23時56分

    リールちゃんの過去が悲しすぎて泣けました(´;ω;`) でも、そんな時に森の中でラッドくんに出会えたのは、紛れもない運命ですね✨ 今後も色々な困難が待ち受けているかもしれませんが、二人の絆が深く結ばれていくことを願います。

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    仲乃 斉希

    2022年8月27日 23時56分

    ありちゅ
  • 男戦士

    BO-ZU

    2022年8月28日 8時51分

    コメントありがとうございます。 明るいリールにも悲しい過去があったんですよねー。 でも、悲しいことを経験しているからこそ人は優しくなれるともいいます。 リールには、これからも明るく前を向いてお酒もたくさん飲んでもらいます(笑)

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    BO-ZU

    2022年8月28日 8時51分

    男戦士
  • ひよこ剣士

    Winter Polish(╹冬╹)

    ♡500pt 2022年8月16日 11時32分

    リールがお酒好きになった理由は、神獣なら助けられて二十歳を越えられた……背負わされた運命を乗り越えられたから、なのかな。まあ勝手な憶測ですが。とにかく、リールの過去が明かされて、キャラクターとしての魅力がより増したように感じました。リールとラッドのこれからに期待です。

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    Winter Polish(╹冬╹)

    2022年8月16日 11時32分

    ひよこ剣士
  • 男戦士

    BO-ZU

    2022年8月16日 17時33分

    コメントありがとうございます。 リールのお酒好きな部分を気にしてもらい本人も喜んでいることでしょう(笑) 悲しい過去を乗り越え二十歳を超えたことでのお酒好きになった部分はありますが……。実はもう少しだけ理由があります。よければ見届けてやって下さい。

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    BO-ZU

    2022年8月16日 17時33分

    男戦士
  • かえるさん

    加賀瀬 日向

    ♡300pt 2022年8月16日 8時41分

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    続きを楽しみにしてるよ

    加賀瀬 日向

    2022年8月16日 8時41分

    かえるさん
  • 男戦士

    BO-ZU

    2022年8月16日 10時30分

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    励みになります…!

    BO-ZU

    2022年8月16日 10時30分

    男戦士
  • 女魔法使い

    Yuki Akane

    ♡300pt 2022年8月16日 7時48分

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    応援しています

    Yuki Akane

    2022年8月16日 7時48分

    女魔法使い
  • 男戦士

    BO-ZU

    2022年8月16日 10時29分

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    ありがとうございます

    BO-ZU

    2022年8月16日 10時29分

    男戦士

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