Borrowed Heart ~あの日に借りたものを、いつか君に返すまで~

読了目安時間:7分

エピソード:8 / 106

お節介

 真夜中の森で突如として出現した長い髪の若い女性――リールの存在に男二人は警戒心を露わに懐から刃物を取り出す。一方で刃物を向けられたリールは両手を上げて降参する。 「待った! 待ったー! 私は別に怪しい者じゃないよー。見ての通り。ただの通りすがりの美少女よん!」  愛嬌を振りまきウインクをするリール。だが、リールの言い分を聞いても男達は納得しない。それどころか胡散臭さが増したかの如く露骨に表情を(しか)めてリールを見つめる。 「おい。女。動くなよ」 「はい。はい。わかりましたよー」 「何だ? こいつ……。刃物を突きつけられてるのに……やけに余裕の態度じゃねぇーか……。もしかして、人間じゃねぇーのか?」 「あり得るな……。こんな森の中に、人間の若い女がいる方が不自然だ。おい! 女! テメーは何者だ!」  敵意全開の質問だというのにリールは相変わらずだ。おどけた様な表情をしたかと思えば、一転していつもの笑顔で自己紹介を始める。 「私? そうよねー。まずは自己紹介からよねー。では、失礼して……。こほん。えー。私はリールと申します。年の頃は二十代前半の超絶美少女でして、好きな食べ物は甘い物。でも、でもー、一番好きなものはお酒でー。実は今も持ってるんですよねー! じゃーん! どう? よかったら、お兄さん達も一杯どうかしら?」 「おっ! マジか!」  酒と聞くや無精髭を生やした男が下卑た笑みでリールに近寄ろうとしたので、横にいる頬に刃物の傷がある男は即座に頭を叩いて制止させる。 「この馬鹿が! ザット! 酒なんかに釣られてほいほいと近づこうとするんじゃねぇーよ!」 「痛って……。あ、あぁ、悪い。ルーガ……」  ザットと呼ばれた無精髭を生やした男が傷の男――ルーガへ謝罪する。油断しているザットとは違いルーガはリールを睨みつけ質問する。 「女……。テメーの名前や好きなもんなんて、どーでもいいんだ。俺の質問に答えろ! テメーは何者だ? 人間か? それとも魔物か何かなのか?」 「ぶー! 失礼ねー。こんな美少女を捕まえておいて……。人間よ。私は」 「そうかい。じゃあ、もう一つ質問だ。ここへ何しに来た? 散歩なんてふざけたことを言うなよ?」 「ここへ来た理由? それは――」  リールの言葉を聞き逃さないようルーガとザットが神経を集中させる。 「――お酒飲みに来たのよー! だって、綺麗な夜空でしょう? せっかくなら、外で飲んだ方が気分良くなれると思ってー!」  酒瓶を持ち上げながらリールは笑顔で酒の存在を主張する。リールらしい答えではあるが、その答えにルーガは納得しない。 「動くな! ……ザット。そいつを拘束しろ」 「あー? 何でだよ。確かに怪しい姉ちゃんだが……、こんなの捕まえても何の得にも――」 「いや、こいつは神獣について何か知ってるかもしれない。それに、知らなかったら適当な場所で売っちまえばいい。小遣いぐらいにはなるだろうぜ。……もっとも、その前に壊れちまうかもしれないがな……」    含みを持たせたルーガの言葉を聞いて、何をか察したのかザットは好色な笑みを浮かべリールの体を舐めまわすように見つめる。 「確かに……。そうだな……。最近は俺達もご無沙汰だったしな……。いいんじゃねぇーか? おい。姉ちゃん。暴れんなよ? ここよりも、もっと楽しい場所に案内してやっからよー」 「ここよりも? それってお兄さん達のお仲間の場所ってこと?」 「そうだよ。安心しな……大人しくしてれば優しくしてやるよ。でも、抵抗すれば――」  乱暴にリールの肩を掴んだ――次の瞬間、ザットは空中で一回転する。自分が投げられたと認識するのは、ザットの背中が地面と接触し気絶するのとほぼ同時だった。 「――がはっ!」 「なっ!? ざ、ザット? お、おい! 大丈夫か?」  仲間であるザットの安否を心配するルーガへいつもの調子でリールが答える。 「大丈夫。大丈夫。気絶してるだけで命には別状ないから」  なぜか笑顔のリールは親指を立てルーガへ自慢気に見せつける。別に挑発しているわけではない。単純にリールは自分の技が決まったことを喜んでいるのだ。だが、リールのことを知らないルーガは激昂する。そして、激昂した状態でリールへ刃物を突き立てようと突撃する。周囲がまるで見えていないルーガは暗い森の中だというのに構わず走っている。そのため、リールの元へ来る前に足が(もつ)れてしまう。しかし、それでもルーガは目の前にいる敵――リールへ刃物を突き刺そうとする。  刃物がリールの腹部に到達する直前……リールが動く。半歩だけ身を引くと対象を失ったルーガの体は勢いに乗り前へ倒れ込みそうになる。だが、倒れる前にリールは突き出された腕を掴み前方へ倒れようとする力を利用してルーガを投げ飛ばす。八十キロ以上はあろう成人男性をリールは相手の力を利用することで軽々と投げ飛ばすことに成功する。  投げ飛ばされたルーガは大木に直撃して地面へ倒れ伏す。  倒れたルーガへリールが心配そうに声をかける。 「あっちゃー……。やり過ぎちゃったかなー……。お兄さーん。大丈夫ー?」  ザットは完全に気絶しているが、ルーガは立ち上がることはできないまでも意識は保っていた。 「……くっ……。うっ……。な、何……しやがった……」 「おっ! お髭のお兄さんは気絶してるみたいだけど。傷のお兄さんは意識あるのね。良かったー」 「……し、質問に……答え……やが……れ……」 「うん? 何をしたかって? 別に大したことはしてないわよ。体術であなた達の力を利用して投げ飛ばしただけよ」  真顔でとんでもないことを口にするリールをルーガは睨みつける。 「て、テメー……騙し……やがったな……何が……美少女だ……」  正体を隠していたとリールを責めるルーガ。だが、リールは心外だと言わんばかりに頬を膨らませ抗議する。 「ぶー! 人を嘘つきみたいに言わないでもらえる? ちゃんと最後まで自己紹介を聞かないからいけないのよー。それに聞いてくれたら、それぐらいは教えてあげたのにー。まぁ、いっか。それよりもー。今からは私が質問するからー。正直に答えてねー? じゃあ、最初の質問ー! さっき、神獣って言ってたけど。あれって、どういう意味?」  いつもの笑顔は変わらない。だが、リールの目は笑っていない。 「……さぁな……何言ってるのか……わからねぇーな……」 「あちゃー……。やっぱり、素直には答えてくれないかー……」 「……へっ……。舐めんなよ。……糞女……」 「そっか、じゃあ……しょうがないか。……世界を駆け巡る自由な風よ。我が前にいる愚かなる者に(まど)わしの香りを嗅がせたまえ……」 「な、何……。ま、まさか……魔法……?」  驚愕するも時すでに遅くリールの魔法によりルーガの意識は希薄となる。焦点の合わない瞳のルーガにリールが質問する。 「さてと。さっきの質問よ。神獣って言ってたけど。あれって、どういう意味?」 「……はい。それは――」  意識を混濁させたルーガから必要な情報を聞き出したリール。  何でもルーガの一団を束ねる存在であるヴォルガという者が神獣を探しているという。一週間前に傷を負わせて逃げられたという金色の神獣を……。その神獣の足取りを追っているということだ。 「ふーん。でも、神獣に怪我を負わせるなんて……。あなた達の親分さんはとっても強いのねー」 「……はい。……ヴォルガ様は強いです……。先日も炎の魔法で……部下を消し炭にしてました……」 「魔法? それって精霊魔法?」 「……わかりません……」 「そっか……。その人、部下にも自分の魔法を詳しく説明してないのねー。それに、この人自身にも魔法の知識がないのね。いくら誘導しても知らないことは答えられないものね……。うん! よし! 了解。じゃあ、あなた達の記憶から私に出会った記憶を消させてもらうわね。ついでに、森に迷いの結界を張ってー――」  事後処理を済ませるとリールは酒瓶を片手に家路へ急ぐ。燦然と輝く星空を見上げながらリールは語る。 「まぁ、これってお節介よねー。……でも、許してね。お節介は私の趣味みたいなものだから……」  そう言うとリールは何かを誤魔化すように酒を勢いよく飲み干す。

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