Borrowed Heart ~あの日に借りたものを、いつか君に返すまで~

読了目安時間:6分

エピソード:9 / 83

フィーダー

 空高く太陽が昇り大地を日の光が照らし、穏やかな風が吹きすさび草の香りを運ぶ、空を見れば真っ青な青空がどこまでも広がる。晴天に恵まれた中、草原を人影が走る。風の様に素早い人影は唐突に四足歩行の獣へ変化する。獣は人の姿よりもさらに速度を上げると三メートルはあろうかという大岩へ一直線へ向かう。このままいけば大岩と正面衝突してしまう。それでも、獣は速度を落とすことなく大岩と衝突する。  轟音が鳴り響くと共に、かつて大岩であった岩のかけらが空から降り注ぐ。大岩は粉々になるが、大岩と衝突したはずの獣――ラッドは無傷だ。軽く息を吐いたラッドは、獣の姿から人の姿へ変化していく。 「大分(だいぶ)、戻ってきたな……。だけど、まだ……」  傷が完治して自身の力が復調してきたことを実感するラッド。しかし、まだ不十分と感じているのか、ラッドの表情は険しい。拳を握るラッドは思い出す。自分を傷つけた相手を……。  黒いフードの姿をした男。    魔法を駆使してラッドへ重傷を負わせた男のことを……。  思い出し怒りに震えるラッドに緊張感のない声が響く。 「ラッドくーん! 大丈夫ー?」  声の主へ視線を向ける。すると想像通りの人物が視界に入る。酒瓶を手にしたリールの姿だ。ほろ酔い状態のリールに問題ないと誇示するように軽く手を上げて応える。だが、なぜか納得いかない様子のリールは酔っているとは思えない速度でラッドの元へ駆けつける。 「ラッドくーん。駄目じゃなーい」 「何が?」 「ほら、ここよ!」  リールが指摘したのはラッドの額だ。よく見ると確かにラッドの額は少し赤くなっている。恐らく大岩を破壊する際に頭突きをした影響だろう。痛みもなく放置してもすぐに治るような痕だ。そのため、ラッドは気にも留めない。だが、リールは額を優しく撫でる。 「もー。いくら怪我が完治したからって、無茶したら駄目よー」 「ふん! この程度はなんともない。……おい! それよりも修業の邪魔だ! 少し離れろ!」 「あーん。ラッドくんのいけずー……」 「黙れ! この酔っ払いが! そもそも毎日のように酒を飲んでいるのに、なぜ貴様の酒は無くならんのだ!」 「えっ? お酒が無くならない理由? あー。そんなの簡単よー。見ててね?」  ラッドの疑問に答えるためリールは酒瓶を掲げる。注目するようなラッドの視線を浴びながら、リールは酒を一気に飲み干す。 「ぷはぁーーーーー! うまい!」  豪快な一気飲みを見たラッドは無言で無防備なリールの額へデコピンをかます。 「痛ーーーーーい! もー! 何すんのよー!」  突然のデコピンにリールは目に涙を浮かべ額を押さえながら抗議する。しかし、文句があるのは自分だと言わんばかりにラッドはリールを怒鳴りつける。 「ふざけるな! 貴様が見ろというから見てやったというのに。やったことは、ただの一気飲みだろう!」 「違うわよー。これからよ。これから。もう、せっかちさんなんだからー」  頬を膨らませながら空になった酒瓶を地面へ置き祈り出す。 「世界を優しさで包む水よ。我が活力たる聖水を与えたまえ……」  リールの祈りに応えるかのように空の酒瓶が液体で満たされる。その光景を目の当たりにしたラッドは声を震わせる。 「……ま、まさか……。貴様……、いつもそうやって……精霊に頼んで……酒を……?」 「うん? そうよー。まぁ、正確にはお酒じゃないのよねー。アルコール度数は私の趣味で調整するけど。本物のお酒と違って体に何の害もない成分になってるのよ。だから、いくら飲んでも体に悪影響はないわ! ……あっ! でも、調子に乗って飲み過ぎると前みたいに吐いちゃうけどね。てへっ!」  いつもリールが飲んでいる酒の正体を知ったラッドは(おもむろ)に酒瓶を掴むと容赦なく崖下へ投げ捨てる。突然の暴挙を目の当たりにしたリールは頭を抱え大絶叫する。 「ぎゃぁぁぁーーーーーーーー! な、何てことをーーーーーーー!!」  この世の終わりかと思えるほどの絶叫を口にするリールだが、ラッドは同情することなく額に青筋を浮かべ吐き捨てる。 「貴様は馬鹿か! 精霊に何て真似をさせてるんだ! 全く。少しは反省しろ!」  捨て台詞を残してラッドは体の調子を取り戻すための訓練へ戻る。草原から森林へ足を踏み入れると人の姿から獣……元の姿である神獣へ変化する。草原と違い木々が生い茂り、足元には木の根や泥が散在している。だが、人知を超えた察知能力で障害物など苦にせず自由に動き回る。特に問題ないと次の修業へ移行しようとした時、妙な気配を感知して周囲を見渡す。  視線を巡らせ、鼻を動かし、耳を澄ます。 (……いるな……。一人、二人……いや。五人組みか? 獣ではない。しかし、人間でもない……。これは――)  相手の正体を理解したラッドの四方から影が躍り出る。鋭い爪と牙でラッドを襲撃する。だが、鋭い爪も、牙も、ラッドを傷つけるどころか触れることすら叶わない。逆に謎の集団はラッドの姿を見失い右往左往している。そこへ、人の姿になったラッドは右往左往している集団の額へデコピンを喰らわせる。 「いっ!」「げっ!」「つっ!」「がっ!」「うっ!」  デコピンされた襲撃者の五人。それぞれが額を押さえて悶絶している。  襲撃者は全身が灰色の体毛に覆われ、長い耳と伸びた前歯が特徴的な姿。  額を押さえている襲撃者を見下ろしながらラッドが尋ねる。 「何のつもりだ。人鼠(ビーマウス)よ」  人鼠と呼ばれた獣人は恨みがましい目つきでラッドを睨みつける。 「……何のつもりかだとー。ここは俺達の縄張りだー! テメーこそ! 何をしゃしゃり出て来てやがる!」 『そうだ! そうだー!』  代表する人鼠の発言を肯定するように周囲の人鼠は声を上げる。一方で縄張りと聞いたラッドは首を捻る。 「縄張りだと? どこにマーキングがしてある?」  神獣である自分が縄張りを示す印や臭いを見落としたのかと不安を感じる。だが、そんなラッドの不安を余所に人鼠はとんでもないことを言いだす。 「うっせー! 今からするんだよー!」 『そうだ! そうだー!』  何とも要領を得ない抗議にラッドは困惑するが、あることを思い出す。  人鼠の性格を……。 (……そういえば……。こいつら人鼠は、ずる賢く、意地汚いと聞いたことがある……。つまり、マーキングしたというのは己を正当化するための方便か……。くだらん)  呆れて物も言えなくなったラッドは人鼠を無視するかのように背を向ける。 「何だ? おい! どこ行くんだ。テメー! 謝罪しやがれー!」 『そうだ! そうだー!』  難癖をつけてくる人鼠。  対するラッドは無視を決め込もうとするが、神獣である自分が舐められるのは(しゃく)だと。ラッドは人の姿から神獣へ戻る。 「黙れ! 人鼠風情が! それ以上、神獣である俺を愚弄するなら貴様ら全員を噛み殺すぞ!」  威嚇するように牙を見せ、金色の体毛を輝かせるラッド。怒れる神獣を前に人鼠がたじろぐ。しかし、一人の人鼠が鼻を動かすと何かに気がつく。 「……あれ? お前……。もしかして……、()()()()()か?」 『フィーダー? こいつが?』 「――ッ!?」    フィーダーという名を耳にした瞬間――  ――ラッドは我を見失ったかのように怒り狂い周囲を巻き込むように人鼠へ攻撃を仕掛ける。  雷光のような眩きと共に爆音が響き渡ると土煙が舞い上がる。  煙が晴れると驚いたように腰を抜かしている無傷の人鼠と眠っているラッドを抱き抱えるリールがいた。

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