Borrowed Heart ~あの日に借りたものを、いつか君に返すまで~

読了目安時間:6分

エピソード:10 / 75

真夜中の再会

 破壊的な力の影響で森林の一部が荒野と化してしまう。恐らく何もしなければ、その場にいた人鼠は全員死亡していたことだろう。しかし、間一髪で人鼠は救われる。この破壊を引き起こしたラッドを助けに来たリールの手によって……。 「ふぅー。良かったー。気付くのが、もう少し遅れてたら……。もっとひどいことになってたわねー。さーってと、眠っているラッドくんをお家まで運びますかー」  全ては丸く収まったとリールは人鼠を無視してラッドを担ぎ帰ろうとする。だが、そうは問屋が卸さないとばかりに人鼠はリールに食って掛かる。 「おい! 待てよ! そこの人間!」 『そうだ! そうだー!』  代表の人鼠と周囲で同調する人鼠がリールを睨みつける。一方で声をかけられたリールは素直に向き直ると首を傾げる。 「うん? 何? お礼でも言いたいの? 別にいいわよー。でも、まー。せっかくのご厚意を無下(むげ)にするのもなんだから……。そうだ! 悪いんだけど、ラッドくんが崖に落とした酒瓶を探してきてくれない? 風の精霊に聞いたら、崖下の木の枝に引っ掛かってるらしいのよー。自分で取りに行ってもいいけど。そういうのはあなた達の方が得意でしょう?」  好き勝手な話をするリールを見て人鼠は意味が理解できず一瞬だけ呆然とする。だが、少し頭を整理して理解する。目の前にいる人間――リールが馬鹿であることを……。 「ふざけてんじゃねぇーぞ! 人間!」 『そうだ! そうだー!』 「およ? 何を怒ってんのー?」 「この惨状を見て怒らずにいられるかよ! この落とし前をどうつけるつもりだ! あぁー!」 『そうだ! そうだー!』  指摘を受けたリールは周囲を見渡す。そこにはラッドが引き起こした破壊による爪痕が広がっている。倒れた木々、(えぐ)られた大地など目も当てられない状況だ。しかし、リールはいつもの笑顔を浮かべる。 「あははー。ひどいねー。まぁ、安心してよ。森には私から謝っておくからさー」 「はぁー? 意味わかんねぇーこと言ってんじゃねぇーよ! そんなんで俺らの気が収まると思ってんのかー!」 『そうだ! そうだー!』 「えー。じゃあ。どうすればいいのよー……」  難癖をつけてくる人鼠。そんな人鼠の要求は……。 「その神獣……。いや、フィーダーを寄越せ!」 『そうだ! そうだー!』  神獣であるラッドを差し出せという要求にリールは間髪入れずに答える。 「いや」  明確な拒否に人鼠の表情が変化する。代表の人鼠が指示を出すと同調していた四人の人鼠は鋭利な爪で威嚇しながらリールの周囲を取り囲む。 「……おいおい……。調子に乗るなよ。人間。その神獣は気を失ってるんだ。テメーを助けちゃくれないぜ? 素直にそいつを渡せ! こらぁー!」  敵意を剥き出しにする人鼠に対してリールは動揺することなく対応する。 「ぶー。せっかく助けてあげたのにー……。そういう意地悪なことを言ってると……お仕置きしちゃうよー」  お世辞にも怖いとは言えない啖呵を切ったリールに人鼠が一斉に襲い掛かる。獣人ならではの俊敏な動きでリールを切り裂こうと爪を振り下ろす。  いや、振り降ろそうとした。  だが、人鼠が爪を振り下ろすことは叶わなかった。  リールへ襲い掛かった四人の人鼠は気絶したように大地へ倒れてしまう。その光景を見ていた代表の人鼠は狼狽(ろうばい)する。 「なっ!? お、おい! お前ら! どうしたんだよー! おい!」  残った人鼠は狼狽しながらも倒れた仲間へ駆け寄り体を揺すり声をかけていく。すると、徐々に視界がぼやけていく。まるで平衡感覚を失う様な、意識を制御できない様な、奇妙な感覚が体を支配していく。それはまるで酔っぱらってしまったような感覚だ。 「こ、これは……」 「ごめんねー。戦うのは好きじゃないし。一応はラッドくんがあなた達に迷惑をかけたみたいだから。今回は、これで喧嘩両成敗ということで! じゃーねー!」 「ま、待て……。テメ、ー……な、に……を……」  その言葉を最後に人鼠は眠るように意識を失う。  次々に意識を失ってしまった人鼠。その理由は当然だがリールの魔法にある。目には見えないが、リールは水の精霊に働きかけ自分の周囲に蒸気化したアルコールを散布していた。通常であれば匂いで気付かれてしまうが、リールは自由にアルコールの度数を制御できる。故に無味無臭のアルコールを生産することも可能だ。そのため、人鼠達は気付かずにアルコールを体内へ取り入れてしまう。つまり、倒れた人鼠は酔っ払って倒れてしまったのだ。  自宅へ帰ったリールはラッドを寝かしつける。暴走にも近い力の使い方をした影響でラッドにはかなりの疲労がみられる。リールは風の精霊に祈り明日の朝までゆっくりと休息できるよう魔法をかける。険しかった表情が和らいでいくラッドを見てリールは嬉しそうな笑顔を浮かべる。  こうして時間は過ぎ日は落ちて夜を迎える。  物音がしたわけではないが、何かに気がついたリールは溜息を吐きながら自宅から出る。外に出ると周囲は闇に包まれ、自宅はすっかりと取り囲まれている。  昼間に出会った人鼠に加え三十人以上の人鼠によって……。 「もー。何なのよー……。喧嘩両成敗って昼間言ったのにー……」 「寝言は寝て言うもんだぜ? 人間……。昼間は舐めたことしやがって……。だがな、仲間を連れてきた。テメーは、もう許さねぇーからな!」 「えー。平和的にいこうよー。何? お腹でも空いてるの? ご飯ぐらいなら作ってあげるよー」  殺気立つ三十人以上の人鼠に包囲されてもリールに変化はなく余裕すらみれる。しかし、その余裕な態度が人鼠を余計に苛立たさせてしまう。唸り声を出す人鼠が今にも襲い掛かろうとした。  その時……。  周囲が光に照らされる。  まるで日が昇ったような輝きに誰もが困惑する。  すると空から炎の塊が降りてくる。  いや、それは炎の塊ではない。  一見するとただの炎に見えていたが……。  距離が縮まるにつれ炎に形があることに気がつく。  燃え盛るような翼と体、凛とした姿を目の当たりにする。 「……やめろ……。争いなど……私の前で見せるな!」  透き通ったような声が響くと人鼠は完全に戦意を失い驚愕の表情を浮かべる。空から降臨した伝説の神獣――不死鳥(フェニックス)に……。  伝説の通りに体が燃えている不死鳥は、まるで太陽のように輝いている。  伝説の神獣を前に恐れをなして腰を抜かしている人鼠を不死鳥は一瞥する。  次に不死鳥は人鼠ではない存在を感知してリールへ視線を向ける。 「ほぅ……。そなたは私を見ても恐れないのか……?」  珍しいものを見るようにリールを見つめる不死鳥だが、途中であることに気がつく。 「……うん? 待て……。そなた……リール? リールか!」  驚いたような不死鳥の声を聞いたリールは満面の笑顔を浮かべて軽く手を上げ挨拶する。 「おひさー! フェイちゃん!」 「おぉー! 久しいな! 我が親友リールよ!」  リールは友人と久し振りの再会を果たす。

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