Borrowed Heart ~あの日に借りたものを、いつか君に返すまで~

読了目安時間:6分

エピソード:13 / 74

三つ目の願い

 突如としてリールの口から飛び出した決別宣言にラッドは言葉を失い立ち尽くす。だが、爆弾発言の当事者であるリールはいつもの口調で理由を説明する。 「ラッドくんの怪我も完治したみたいだし。タイミングとしては丁度いいように思うの。それに実を言うとね。私はここに住んでるわけじゃないのよ」 「……そ、そうなのか……。だが、この家は……?」  動揺を隠せないながらも、どうにか言葉を絞り出すラッドだが表情は硬い。 「あぁ、これは精霊に頼んで作ってもらったものなのよ。今回は木をベースに作ったけど。土をベースに作ったり、実はいろいろとバリエーションがあるんだよー。すごいでしょう?」 「……あ、あぁ……。それはすごいな……」 「えへへー。そうでしょう。そうでしょう。……それで、ラッドくんに最後のお願いを聞いてもらおうと思うの」 「……最後のお願い……?」 「あれー? 忘れたのー? ラッドくんが言ったんじゃない。三つの願いを叶えてくれるって、私はまだ二つしかお願いしてないよ?」  三つの願い。  瀕死の重傷を負ったラッドがリールに救われたことでお礼として提案した。  しかし、今までの願いといえば……。  一つ目は、朝食作り。  二つ目は、一緒に遊ぶ。  正直、大した内容ではない。  神獣に願う内容とは到底思えないものばかりだ。  最後の願いも大差はないだろうとラッドが考えているとリールが三つ目の願いを口にする。 「じゃあ、三つ目のお願いね。ラッドくん。私と一緒に旅をしない?」  ラッドの顔をしっかりと見据えながらリールは願う。  一緒に旅をしようと。  思いがけない願いを耳にして、ラッドは無意識に声を漏らす。 「……えっ……?」 「あれー? 聞こえなかったのー? ラッドくんが嫌じゃなければ、一緒に旅をしないって、お願いしてるんだけど?」 「……俺と……旅を……?」 「そうだよー。でも、最初に言っておくね。私は旅をしながら各地の瘴気を浄化してるの。つまり、私と一緒に旅をするってことは瘴気のある場所に行くってことなの。ラッドくんは瘴気のある場所に行くのは嫌だよね? だから、これはラッドくんが決めていいよ。無理強いはしたくないからね。それでもよければ、私と一緒に旅をしない?」  人間との旅などごめんだ。  以前のラッドなら迷わずに、そう答えていた。  だが、リールに命を救われ、短い期間ではあるが一緒に生活をしてわかったことがある。    それは……。 (……俺は……こいつの……リールの笑顔が好きだ……)  人間は今でも大嫌いだ。  それでも、リールのことは嫌いになれない。  最初は命を救われた義理だけ……。  あとは、精霊を自由に扱う不思議な力に興味を持ったから……。  だけど、今は違う。  ラッドは、リールと過ごして楽しいと心から思えた。  だから、ラッドの答えは―― 「……ふん! 正直……気乗りはせんが……。願いであるなら仕方ないな……。一緒に行ってやる。ありがたく思え」  素直になれないラッドからの精一杯の答えだ。  ラッドの返答を聞いたリールは満面の笑顔を浮かべる。 「そっか。ありがとね。ラッドくん」 「……あぁ……」 「あっ! でも、これからは一緒に旅をするんだから一つだけ約束事があるわよ」 「約束事だと?」 「えぇ。私のことを貴様とかお前なんて呼ばないこと! ちゃんとリールって名前で呼んで。その代わりに私もラッドくんなんて他人行儀には呼ばないわ。ラッドって呼ばせてもらうから」  少し前であれば人間から呼び捨てにされることなど断固として拒否していた。    しかし、今は……。  いや、リールになら……。 「……わかった。よろしくな。リール……」 「うん! よろしくね! ラッド」  誓いの握手を交わした二人は共に旅に出る。 ◇◇◇◇◇◇  リールとラッドが連れ立って旅に出た翌日のこと。  以前、リールが迷いの結界を張った森にある一団が到着する。 「ここか……。間違いないんだろうな?」 「さ、さぁ……。俺達には……」 「す、すみません……」  顔に傷のある男ルーガと髭の生えた男ザットは目深に黒いローブを被るヴォルガに対して申し訳なさそうに謝罪する。だが、ヴォルガはルーガとザットのことなど眼中にはないといった様子で二人の背後にいる白いローブ姿の女性を見つめる。  長い銀髪で人形のように美しい顔をした女性。色白の肌が銀髪と相成(あいな)り儚げな印象を与える。 「どうなんだ。ユーディー」 「……間違いありません。彼らの記憶を辿りました。何より、この辺りには迷いの結界が張られています。この先に何者かがいることは確かかと……」 「そうか。全く……。馬鹿な部下のせいで余計な時間を食っちまったぜ。それで、その結界は解除できるのか?」 「可能ですが……。少々時間がかかります。それでもよろしければ――」 「すぐにやれ!」 「――……了解しました」    命令に従いユーディーは祈る。 「世界を駆け巡る自由な風よ。この地にかけられし迷いの霧を振り払いたまえ……」  ユーディーの祈りに応えるかのように風が吹きすさぶ。  そう、ユーディーと呼ばれる女性もまたリールと同じ精霊魔導師だ。ユーディーが結界を解いている間にヴォルガは面倒そうにルーガとザットへ詰め寄る。 「テメーらのせいで遠回りしちまっただろうが……」 「……で、ですが……」 「その、俺達には記憶が――」 「黙れ!」  言い訳など聞く気のないヴォルガが頭ごなしに二人を怒鳴りつける。苛立った様子のヴォルガは二人の顔を覗き込む。 「ユーディーが確認してる。テメーらは、魔法で記憶を消されてるんだよ。だから、テメーらにはここにいた記憶がないんだろうが……。ユーディーは、消された記憶の中で場所だけは探り当てることに成功した。だが、肝心のテメーらが遭遇したであろう。敵の正体がわからないんだよ! 記憶を消された場所まで来たんだ! 何か思い出さないのか!」  脅しにも近い声で(すご)まれるもルーガとザットにはわからない。なぜなら、彼らが出会った敵――リールの存在は記憶から完全に消去されているからだ。精霊魔導師であるユーディーが読みとれたのも場所のみだ。つまり、どんなに脅しをかけたところで記憶にないため意味がないのだ。  そのため、二人は俯きながら謝罪する。 「す、すみません……」 「も、申し訳ないです……」  無駄ということを理解したヴォルガは小さな溜息を吐く。 「はぁ……。そうか……。悪かったな」 「い、いえ……。ヴォルガ様。俺達こ――がっ!?」 「――ッ!?」  不意を突かれ一瞬だけ呻き声にも近い断末魔の声をザットが上げる。近くにいたルーガが目にしたのは、ヴォルガの腕に体を貫かれ絶命するザットの姿だ。仲間の死ぬ姿を見てルーガは理解する次は自分だと。そのため、恥も外聞もかなぐり捨てルーガは全速力で駆け出す。  だが、逃走したルーガは腹部に熱を感じた。何が起きたのか理解する前に腹部が貫かれ血と臓物を周囲に撒き散らす。こうして、二人の命は奪われる。ヴォルガという狂気の存在に……。 「……待ってろよ。神獣。必ず捕まえてやるからな……。くっくくくく……」  部下二人の命を奪ったにも関わらずヴォルガは悲しげな表情一つ見せず、まだ見ぬ神獣を思い浮かべ邪悪な笑みで笑い出す。

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