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第1章

転校生が来た。

桜が咲いて、風に舞う。 慣れない道に、慣れた花。 この気温、この湿度、この陽射しの暖かさ。 この香り。 何年経っても思い出されてしまう、鮮明に。 この独特の感覚は記憶を引き起こす鍵のようなものか 「あ、この感じ。あの時に似てる。」 いつまで忘れないでいられるか。忘れたくないと思った瞬間でさえ、覚えてしまっている。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あれは、僕、市来卓真が10歳になった時のこと。 自分の学校は朝から夜まで、忙しい街だったから 小学校の自分は、遊んでいた。いつも校庭が公園か。 友の家。 遊びすぎというレベル。 そんな日々には眩しすぎる日に、眩しすぎる転校生が来た。そんなこと初めは思っていなかった。 朝礼はいきなり先生からの紹介だ。 僕は小学生ながら、演劇をやっていたから、 教室の前の扉から先生の合図で入ってきた転校生が スムーズでなかったのでなぜか笑った。 顔も姿もほぼ見ずに。 そして、僕は 「だけど、ドラマで転校生役になったら、スムーズじゃない方がリアルに見せられるな。これ真似しよ。」 そんな感情しか出てこなかった。 僕は転校生と仲良くするのは得意だ。転校してきた人に話しかけたら仲良くなれる。 もちろん、みんないい奴だ。 転校してきた人と仲良くなれた時のお互いの顔。 見合わせたら幸せになれる。 だが、今回は違った。女子だった。女の子は無理だ。 「誰か仲良くしてくれるだろ。女子たちに任せよ」 そう思った。というか、それは男子の役目ではない。 こんな思いを先生の合図から、みんなの前に出てくるほんの数秒の間に巡らせていたのだ。 まあ言ってみれば、転校生に何かの期待をしていた。 教壇の上に上がった転校生。僕は席の一番後ろだったから、可愛いか可愛くないかしかわからなかった。 いや、男子はそんなことしか興味はなかった。 素直にいうと、可愛かったのかもしれない。 10歳の自分には大人っぽかった。 身長は僕より小さかった。少しだけ。 僕はクラスで3番目に高かったからそこそこ身長高い転校生だった。 先生が話し始め、 「みなさん、おはようございます。えー、、今日は転校生が来ています」 「自己紹介してもらおうかな、大丈夫?」 転校生は 「はい。。。はじめまして。。。と、東京から来ました。西谷 綾乃です。よろしくお願いします。」 よろしくと今言えないので、その意味も込めて拍手した。 席は窓側の一番後ろ。 僕の一番好きな席だったから、いいなと。 漫画みたいに外の陽射しもあって眩しく見えた。 だが、そんなふうに目も合わないし、恋もしなかった。 新学期3日目で転校してきたのだが、まあ深い理由は気にしないでおこうと。そんなに理由はなく、手続きに手間取っただけらしい。 その日は全く意識はなかった。 むしろ、新しい友達ができると思っていたので少し残念だった。 ただのクラスメイトになると思っていた。 クラスでも僕は活発な方だった。誰とでも話せた。 女子とも話せないような方ではなく、よく昼休みには遊んでいた。 いちゃついているわけではなく。 その頃、好きな子はいたのだが友達みたいだったから付き合いたいとかの感情はなく、恋愛感情ではない好きな子だったと思う。 だが、転校生で女子ともなると少し話しかけづらい。 話さなくたって、困ることもないから無理はする必要もない。10歳ながら、わかっていた。 早速話しかけられている様子で、よく話していたと思う。 可愛い子好きの男子は近くにいっていたが、 話しかけてはいなかった。 気持ちはわかる。照れるのだ。 可愛い子は意識する男子の仕方ない思い。 好きとか嫌いとかではなく何故か。 「卓真話した??」 仲の良い女子と男子に3回聞かれた。 俺は 「いい、いい」 と、3回話した。 転校生に寄って集まったみんなとは違って、1歩引いて、クールぶっていた。 変に意識してると見られたくないから。 今日はそんな感じで一日が終わった。 恋愛は一目惚れするタイプだからそういう感じではないな。 家に帰りながら考えていたら、家の前の信号機で転校生と出くわした。 いきなり話しかけても、同じクラスかも同じ学年かも分からないだろうからと黙って信号待ちしていた。 そんな瞬間がこの後何度も訪れるとは思わずに。

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