ふるさとタクシー

読了目安時間:2分

エピソード:1 / 2

前編

もうほとほと生きて行くことに疲れてしまった。 横浜方面から東海道線、国府津の駅で御殿場線の最終に乗りかえ、御殿場駅に着いたのが23時40分過ぎだった。 田舎の駅だとたかをくくっていたのだが、さにあらず駅前のタクシーにコミケのような限りない列ができている。失敗したなあ、まあ考えてみれば自分の人生も失敗の連続だった。 就職では、大手銀行の最終面接まで行きながら、なんと寝坊で遅刻して落とされ、なんとかもぐりこんだ地方銀行でもう一歩で出世コースにのれるところ、ライバルに蹴落とされ、別会社に出向。そこでパワハラに遭ってメンタルを患い、高血圧を放置していたこともあって脳梗塞を併発。窓際族になりながら何とか定年まで勤めあげると、最愛の妻が急死してしまう。自分の人生っていったい何だったんだろう。 待っても埒が明かないので、スマホで検索して、歩いて20分のファミレス『スーサイド』ヘ行く事にした。ジョッキのビールとタンドリーチキン。人生最後の宴としては非常に冴えないが、むしろ自分にはふさわしいのかも知れない。 ファミレスで居眠りしてしまい、また御殿場駅に歩いて戻るともう1時を過ぎていた。 タクシーの列は全くなくなり、タクシーの来る気配も全くなくなっていた、しまった。 しばらくタクシー乗り場で待っていたが、まったく人の気配も無くひっそりとしている。そろそろ諦めかけた時、生ぬるい一陣の風がふうっと吹いたかと思うと、黒塗りの一台のタクシーが音も無くいつの間にか停まっていた。 すううっと、自動ドアが開いた。 「お客さん、どちらまで…」 高橋一生のような低い声で、運転手が尋ねた。 「あ、あの、青木が・・・じゃなくて、取りあえず富士山の風穴の近くまで」 「? こんな時間に風穴に行ってどうなさるんで」 ヤバイ、これじゃバレバレだな。 しばらくして、運転手が重い口を開く。 「お客さん、もしかして…よくない事でも考えてらっしゃるんじゃ」 答えようがないので、しばらく黙る。 「まあ、こういう仕事やってると、勘でわかるんですがね」 あんな時間に樹海に行くなんていったら、誰でもわかるわなあ。 「どうです、お客さん、一つ提案があるんですが」 運転手の地の底から絞り出すような声は迫力がある。 「どうせお客様がそういうつもりなら、その前にお客様の『心のふるさと』に行ってみませんか?」 どうもヤバいタクシーに乗ってしまったらしい、新興宗教かな? 「あの、何言ってるかわからないんですが」 運転手はバックミラーで客の俺の顔を確認した様だった。 「ああ、ご案内が遅くなりました。このタクシーは、お客さんの様な様子のおかしい方をお乗せして、早まったことをお考えになる前に, お客様の『心のふるさと』へお連れする『ふるさとタクシー』なんですよ」

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