陰陽洲~和風VRMMORPG、闇鍋仕立て~

読了目安時間:3分

本日更新その2 まだ、前話を読まれていない方は、是非そちらからお願いします。

其の九

◆◇◆◇◆  最後にひどいものを見たと、笠を被った僧が言った。  見ていて哀れになったと、小さな修験者が頭を振った。 「最後のあれは、何だったんでしょう」 「ゾーンに入ったとか、そんな感じなんじゃないか?」  何だか不思議な感じでしたと呟いたツカサに、集中力が高まるとああいうことが起きるとセキは答えた。  一部はシステムによる補助だろう。思考速度に加速補正が掛かっている可能性もあるとセキは内心で思う。 「世界の解像度が上がると言うヤツ、ね」 「緋扇ちゃ、さんも経験があるんですか?」  ツカサの問いに、一度だけと緋扇が答える。  その時は、雨のように射かけられた矢を全て錫杖で叩き落とせたのだそうだ。 「すごいですね!」 「いや。何をやってそんな状況になったんだ」  感心した声を上げるツカサとは裏腹に、セキは胡乱な表情を浮かべる。  緋扇が遠い目になって、同鏡が胡散臭い笑みを浮かべた。  さて、と僧形の偉丈夫が手を打ち鳴らす。 「何はともあれ、お疲れ様でした」 「あ、はい。ありがとうございました」  頭を下げるツカサの頭上では、青い空が広がっている。  異界の中は夜だったが、平安京はもう少しで夕方といった時間だ。  とはいえ、現実時間はそろそろ二一時。今日は、これで解散だろう。 「それじゃドロップアイテムの分配を―――」 「ああ。それなら、拙僧たちは『縁切り水』を二つ貰えれば良い」 「え?」  メニューウィンドウを呼び出そうとするセキを押し止め、同鏡が首を横に振った。  代わりに、彼からの取引要求を知らせるウィンドウが出現する。  数が多いので、葛籠(インベントリ)から一々取り出すよりは、取引欄を利用してのやり取りの方が効率が良いのだ。  取引欄には、大量の竹筒が表示されている。  量が妙に多いので、おそらくは緋扇の取得分も一緒なのだろう。  セキは首を横に振った。 「いや。それは駄目だろう」 「だが、拙僧たちは『縁切り水』を大量に持つ意味はない。葛籠(インベントリ)を圧迫するので、手放したいのだがな」 「それなら、買い取りだろう。えっと……」  相場が分からない。  動きを止めたセキに、同鏡がクツクツと笑う。  そろそろ自分たちはログアウトの時間だと、彼は続けた。 「相場が分からないのであれば、次に徒党を組む時に代金を貰うというのではどうかな?」 「それが妥当、ね」 「…………分かった」  言いくるめられたなと思いつつ、セキはため息をついた。  友人帳に登録はしたのだ。連絡は簡単に取れるだろう。  そう考えて、取引を終える。ふと、ツカサが首を傾げた。 「ところで、どうして『縁切り水』を二つだけ?」 「ああ、拙僧と緋扇でひとつずつ持っておきたいからだよ」  同鏡が答える。  相手に飲ませるものを、ひとつずつ。  そう続けられた言葉に、ツカサがびくりと動きを止めた。 「え……」 「誤解させるようなことを言わないように」  緋扇がため息交じりに首を振って同鏡を小突いた。  彼女は、そうではないのだと、ツカサに笑いかける。  柔らかな口調で続けた。 「戒めのために持っておこうというだけで、今のところ使うつもりはないよ」 「戒め?」 「そう。夫婦という関係にあぐらをかいて、相手への配慮を忘れてしまわないように。  いつでも縁を切られると思えば、大切にしようと思うだろう」  はじめは良い縁であったとしても、それを維持するには相応の努力が必要だ。  遠慮がなくなるのは良いが、思いやりを忘れてはいけないと緋扇が告げる。  ちょっとした配慮を忘れたために、アッサリと縁が切れることはあるし、酷い時には腐り果てて悪縁となる。 「その戒めのために、わたしと夫(・・・・・)でひとつずつ持っておこうと考えたのだよ」  そう、同鏡(・・)が後を続けた。 「なるほど。使わないために『縁切り水』を持っておくんですね。  何だか、素敵な考えか………うん?」  ふと、ツカサが首を傾げた。  セキがうかがうように同鏡を見ると、彼はニヤニヤと笑みを浮かべている。  傍らで、緋扇がため息をついていた。  そういうことらしい。 「あ、あの今……?」 「わたしが妻です。夫はそっち」  バリトンボイスで言いながら、同鏡が夫―――緋扇を指差した。  ツカサが目を点にする。  こちらへと目を向けてくる彼女に、セキは一つうなずいた。 「わりとよくある」 「ええっ!?」 「夫婦ともども、どうぞよろしく」

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