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バランサーヴァーメラ支部業務日誌帳

読了目安時間:6分

禁断の聖域・5-2

 凝固している故にそう感じるものと思い込んでいたが、これは……。 「……植物。木とか、草花とか、あるいは地面から感じるような、そんな、ある種無機質で、清らかとも言える、……生ける感覚。その意味は――」 「はっはは。土から感じるそれは、大地の下にあるモノの脈動とかだから、また種類を別にするのだけど。まあ、そうだね」 「この城にいる人間は、魔女の魔法で植物のようにされてしまったということですか?」 「そうだね。どうなってんだろね、どうやったんだろ?」 「……精神魔法だ」  祐人の呟きに、伊代祇は驚きの表情を作ってのけ反り、高らかに手を叩いた。 「おお、大正解! やるねえ、祐人君!」 「精神魔法で、人を植物だと思い込ませ、その上で魔力凝固を……? で、でも、植物だと思い込んだ人間、あくまで人間でしょう? い、意味が分からない。ありえるんですか、そんなこと……?」 「なんだ分かってないんじゃん。なにを意味の分からんことを言っとるのかね」  馬鹿にしたような物言いに、額に青筋を浮かべる祐人。咳払いし、すぐに真面目な表情に戻る。 「では、どのようなことが起こったと?」 「だから、思い込むことにより、本当に植物になっちゃったのさ、ここの人たちは」 「それだってあり得ないでしょうッ!」  祐人の大声に、伊代祇は首を振った。 「いや、あり得る。祐人君、君は勝手に思い込んでいないかい? 魔女は、杖の一振りで、瞬時にしてここを聖域にしてしまったと」 「…………あ」  伊代祇の指摘に、思わず祐人は呆け面を浮かべてしまった。言われて気付いたが、その通りだった。  慌てて、赤面した表情をキャップの鍔で隠す。 「た、確かに。そうか、そうですね。これは現実でした、童話じゃない……。――しかし、そうは言っても……」 「無い話じゃないんだよ。祐人君知ってる? 筋トレするとき、自身の肉体の完成形を強く思い描いたほうが、より素晴らしい結果に繋がるっていう話」 「……その実際と比較できる話でしょうか? この超常が」 「同じさ。両者とも、人が元々内包する力に働きかける実際だ」 「はあ……」 「ずっと長い年月をかけて、聖域を作り出したんだろうねえ。強い思い込みで、人の体が植物に近いものになるまで、ずっとずうっと、それこそ生涯全てと言っていいほどの時間をかけて」  伊代祇の言葉を受け、祐人は辺りを見回した。  そんなことを言われれば、この聖域から、とてつもない負の威圧を感じる気がしてくる。思わず表情が歪んだ。 「……そう考えると、童話に出てきちゃいけないような、真に恐ろしい魔女だったのですね、この聖域の作り主は。執念深いにもほどがある。しかし人間を植物のように変質させるなんて、そんなことが本当に……」 「できるさ。安易に納得せず疑うのはいいことだけど、祐人君、さっきの話よりもっと身近な実際だってあることを忘れてないかい? ――私のこの鎖だって、ある意味そういうものだ」  言うと伊代祇は、袖の下から、一連の鎖を垂れ下げた。  彼の体中に巻き付けられた鎖。鎖分銅。  ()()()()。不吉な音が鳴る。 「巻き付けられれば、全ての行動を封じられてしまう鎖……」 「その通り。……なんで敵対者視点で語られたのかは置いておこう。その行動全てを封じる鎖。捕縛者の心理に語り掛けるたった一連の鎖が、人体の機能に異常を起こし、ある意味変質させてしまう。ならば、人体を植物に近い存在に変容させることも、永い時間をかければ、あるいは……」 「……そして、長年かけて植物のようにしたそれらの魔力を、凝固させた?」 「だろうねえ」  伊代祇は感慨深げに頷いた。 「今まで見てきた状況から考えて、魔女はまず、精神魔法で一瞬にして、王宮全ての人間の動きを止めたのだろう。意識への命令による拘束、精神魔法の十八番だ。その段階ではあくまで、保存もなにも無く、一時的に動きを止めただけにすぎない。そして永い永い年月をかけ、この王宮全てを変容させ、永世の時を作った……」  伊代祇はすっと目を細め、夢見るような顔つきになった。 「ふふ、百余名を一瞬で掌握した魔女か。ファンタジーだ。そこは、ファンタジーのままにしておこう。きっと、そういう存在がいたんだ。そのほうが……」  伊代祇の言葉に祐人は首を傾げたが、伊代祇はそれには取り合わなかった。  伊代祇は人差し指で眠る王女の唇に触れ、少しだけ笑った。 「聖域の解除条件も、実に童話的だね。この王女様こそ、いつか訪れる鍵を待つ、聖域を聖域たらしめる錠前なんだ。おそらく魔力凝固と同時に、姫が口付けされたそのとき、城の全ての魔力凝固が解かれるという刷り込みも与えたのだろう。……そう考えると、この王宮の者たち全てはリンクしていて、一種の共同生命体みたいな感じになってるのかな?」 「魔女は精神魔法を専門としていたということですか。いや、精神魔法と自然魔法の両刀だったのかも……」 「だねえ。……魔女の望みは叶えられたのかなぁ」 「今や彼女等は、この王宮以外のどこにも居場所がない、存在を持て余される厄介者。それこそが、魔女が願った未来だったのでしょうか?」 「分かんないよ。でも、そんな感じはするよね」 「……しかし、目を覚ましたとして、動くんですかね、彼女ら」 「動くだろうねえ。たぶん、植物のように変化したその肉体によって迫害される、そこまでが魔女の嫌がらせの一連だろうから」 「最悪だ……この王宮の人らは、一体魔女に何をしたんだ……?」 「さあねえ。想像するしかないし、もしかしたらこの王宮に、当時の出来事を綴った参考資料が残ってるかもね。まあなんにせよ、もう私たちにできることは何一つないよ。来るのが遅すぎた、お手上げです」  伊代祇は肩を竦めるようにしながら、バンザイするように両手を上げた。  もうできることは何一つない。その言葉の意味を察し、祐人は少しだけ表情を暗くした。 「……茨にかけられた呪いは弱まっていた。強靭であるはずの茨は、手で簡単に千切れるまでに劣化していた。つまり――」 「そう、つまりタイムアップだ。素晴らしい技術で作り出されたこの聖域ではあったけれど、さすがに悠久を重ね過ぎた。半永久という時間はついに費やされ、聖域の呪いは遠からず消失するだろう」 「そうなった場合、魔力を凝固された王宮の人らはどうなりますか?」 「目を覚ましたあと、静かに息を引き取るだろう。外の茨と同じく、劣化しているだろうから」  もはやこの超常そのものである、魔女の呪いに蝕まれ尽くされた者たち。  祐人は王女の静かな寝顔を覗きながら、一つ、小さな息を吐いた。 「……それが、この人らにとっての幸せかもしれませんね」 「どうだろね? 分かんないよ。……さて、じゃあ帰ろっか。もう何をするわけでもないし」  伊代祇はそこで話を打ち切り、祐人も頷いた。 「そうですね、その報告だけで十分でしょう。上の、面倒事嫌いのお偉いにとって」 「だねえ。まったく、ロマンスはロマンスのままに。聞こえはいいけれど、腹黒い話だよ」  伊代祇の言葉に、祐人は少しだけ苦笑し、二人、城内をあとにした。

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