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バランサーヴァーメラ支部業務日誌帳

読了目安時間:4分

禁断の聖域・5-1

 小間使いを叱りつける、老齢の執事。  焦りの表情で城を闊歩する、ドレス姿の女性。  絶望の表情を浮かべる、今まさに転ぼうという体勢で固まった若い執事。手には、ティーポッドとカップが乗った盆が。 「こういうの見ると、後ろから押したくなるねぇ」 「意味無いですけどね」  王座の間。間隔を開けて二つ並べられた玉座。跪く家臣たち。 「おお、王と王妃。挨拶してく?」 「先を急ぎましょう」  キッチン。ハムの塊にチーズ、小麦パン。 「食品まで、それほど風化せず綺麗なままだ……」 「鼓動無きものに有効な、風化防止の魔法だねえ。状態を無理矢理維持させるやり方で、呼吸あるものには使えない。人間を乱暴なやり方で凍らせても、死んじゃうだけでしょ? それと似たようなものだね」 「なるほど」 「高等な方法になると悠久の保存が可能になるけど、永久の保存はできない。ちなみにそれは【理魔法】に属する。祐人君、試しにどれか食べてみなよ」 「……命令ですか?」 「冗談さ」  そして城の最奥には。 「おお」 「……こういう場所の王女って、本当にこんなふうに眠っているものなんですね」  豪奢だが清楚な、大きな白のベッド。その上に身を横たえているのは。 「確かに、美人ですね。しかし、年端も行かない少女のように見受けられる……」 「いやあ、この歳になったら、もう立派な女性だよ。祐人君、危機感持ったほうがいいんじゃない?」 「余計なお世話です」  年の頃、十五といったところだろうか?  透けるような白い肌、長い金色の髪、はっきりとした色彩の、桃色の唇。  ドレス姿で、ご丁寧にティアラまで被って眠っている。腹の上に両手を重ねるように乗せて、王子の口付けを待っている。 「祐人君、ちゅーしてみれば? 祐人君、女性からモテるから、あるいは……」 「私にその趣味はありません。伊代祇さん、間違ってもやめてくださいよ?」 「はいはい。それじゃ、失礼して……」  躊躇なく、王女の胸を揉みしだき始める伊代祇。 「通報」 「誰も来ないよ、ここじゃ。……ふむ、やはりか。うん、間違いない」 「どうして人間の魔力が凝固したのか、その原理が分かったのですか?」 「原理ねえ。ねえ祐人君、『美女と野獣』って童話、知ってる?」 「なんですかいきなり? まあ、知ってますけれど……」 「そっか」  伊代祇は王女の両胸から手を放し、ベッドに腰を降ろして祐人と向かい合った。 「――さて祐人君、ここで一つ問題だ。聖域の危機に際し、私たちが派遣されたわけだけれども。そもそもこの国の連中は、どうしてこの聖域にかけられた呪いが弱まっていると知れたのだろうね? その判断材料はなに?」 「……確かに。考えてもみませんでしたが、どうして、どうやってそれを知ったのか……」 「私が最初に、茨を手で引き千切ったときのことを覚えてる?」 「ええ。傷付いた茨を、他の茨が覆い隠すようにしましたね」 「それ、妙じゃない? 童話的に考えれば、呪いの茨は瞬時に再生しましたってのが通例というか、ありそうな感じじゃない? 覆い隠すだけって。あれじゃ、茨を引き千切り続ければ、いつかここに辿り着いちゃうよ。そもそも、呪いの茨が手で簡単に引き千切れるって、どうなのそれは」 「……確かに。そうか、それが、呪いが弱まった証拠、判断材料」 「だと、私は思うね。呪いの効力が弱まってきている。私は最初に、『もしもこれが燃えることがあれば、茨は爆発的に生殖範囲を広げるだろう』なんてことを言ったけれど、もうその力もあるまいよ。……さて、魔力凝固の秘密だったね。外の茨を見るに、この王宮に呪いを施した魔女の専門分野は、自然魔法に違いない。……そう思う?」 「もう何百年も昔の魔法が、未だ効力を発揮しているわけですからね。生半可な力じゃないことは分かります。そう見て間違いないでしょう」 「はは、はたしてそうかな? 伊代祇君、ここで耳より情報だ。実はね、人間に対する魔力凝固の方法は未だ確立されてないけれど、植物に対する魔力凝固の方法だけは、確立されているんだよ。人が生み出すそれよりもより純粋である、無垢なるエネルギーの凝固法。魔力に見立てた高純度の液体により近い、そのエネルギーの凝固法……」 「植物? …………ッ」  祐人は険しい表情で、王女の胸に手を当てた。  慣れ親しんだ、あの生命力を直感した。  田舎のヴァーメラでよく感じる感覚。あるいは、森にでも出向けば、もっと色濃くそれを感じることができるだろう。  凝固している故にそう感じるものと思い込んでいたが、これは――。

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