バランサーヴァーメラ支部業務日誌帳

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幻視の湖・4-2

 すると伊代祇は、興味深げに二人――祐人と雄吾の二人を眺めながらに、肩を竦めた。 「私には、その少女の姿が視えてない。残念だ」 「…………」  祐人はそれに驚愕し硬直したが。  雄吾はそれを聞くと難しい顔で額に手をやり、そして僅かな間で、その答えに行きついた。 「【アキリプラズマ】か」 「ある意味ね。私はそれの亜種ね」  少女は前を見つめたまま、笑って答えた。  伊代祇も「【アキリプラズマ】か。まあ本当に、ある意味、だよねぇ」と、感嘆した様子で少女がいる辺りを見つめた。  困ってしまったのは祐人だった。  顔を顰め、後ろに回した手をぎゅっときつく握り、なにか耐え難いものと戦っているような表情でしばらくだんまりしていたが、やがておずおずと、とても苦しそうに、伊代祇に尋ねた。 「あの、伊代祇さん」 「ん?」 「アキリプラズマとは、一体何なのでしょう」  唇を噛み切らんほどの表情筋の働きを見せるその様子から察するに、阿呆の雄吾が知っていて自分が知らなかったという事実が耐え難く許せなかったのだろう。  伊代祇は苦笑しながらに説明した。 「【アキリプラズマ】。簡単に言うと霊体だね」 「では、彼女はやはり幽霊? ……幽霊など存在するのですか?」 「祐人君、魔導士とはなんぞやという、いつだかの私の演説を覚えているかな?」 「え、あ、はい。……魔導士とは、常人よりも豊富な魔力――身体原動力の余剰エネルギーを意識によって誘導し、それを利用する者のことです」 「その通り。【アキリプラズマ】とは、魔導士が死んだあと、その豊富なる内包エネルギーが宙に発され、何らかの要因で死者の知性がそれに移り、漂うとされる、エネルギーの塊のようなものを指す言葉だ。――ちなみにそれは未観測の現象、つまりオカルトの分野であり、あるかもと言われてはいるが、それの観測が報告されたことは今までに一度もない」 「――つ、つまり、これが第一発見事情ですか!?」 「本当に【アキリプラズマ】であるなら、そうなるね。しかし、もっと簡単にこの事情に説明がつく別の見方もあるんだ。祐人君、香りだよ、香り」 「香り? …………つまり、どういうことでしょう?」 「えー分かんねーのよー。俺は分かったぜー」  横から雄吾が意地悪を言った。途端に祐人の額に幾筋もの青筋が立った。手が腰の拳銃に伸びかかる。  そんな祐人を無視し、雄吾は少女に尋ねた。 「この湖の異常は、お前の仕業か?」 「ええ、その通りよ」  少女はこともなげに頷いた。 「根拠は? ただの勘かしら?」 「勘じゃねえよ。香りがもたらす超常、それが俺たちにあんたの姿を幻視させていると考えれば、【アキリプラズマ】もどきのこの現象も、無くもない話だからな。ただその場合――」  祐人はハッとした表情で少女を見つめた。  思い出したのは、いつだかの超常道具、重い威圧を放つ一冊の書物――。 「ただその場合、あんたは対象者が最も強く抱く『思い出の香り』が香るというこの湖の超常とは類を異にする現象だ。俺や祐人が見た木偶のようなただの幻じゃなく、普通に喋ってるしな」 「ということは、どういうことになるかしら?」 「あんたがこの現象の大本であると考えれば、説明はつく。この湖の超常現象の全ては、お前が作った魔道具(魔導士が己の生命力全てを注いで製作する呪物)が原因と考えればな」 「その通り」  少女は静かに肯定する。 「よく分かったわね」 「それが一番簡単に説明つくってだけの話だけどな。――湖の香りは想像力を掻き立てる。魔道具の製作者、あんたは香りの元凶だ。その香を嗅いで、あんたを連想しやすくなっていてもおかしくはない」 「ふうん?」 「ある意味の【アキリプラズマ】。あんたは魔法具を製作した存在の、成れの果ての姿なんじゃないか? どうだよ?」 「どうかしら?」 「なんで曖昧な返事だよ。……なあ、あんた、なんか未練でもあんじゃねえのか? 未練が強まるにつれて、魔道具の効力も強大になった。……これは、ただの俺の勘だけどな。なんかあるなら話してみるのも一興かもだぜ?」  「未練か。――すごいわ、全部お見通しかしら?」  少女は感心したような声を上げて。  祐人は一層不機嫌になった。雄吾はほんの少しだけ得意げな笑みを浮かべた。  しかし――

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