バランサーヴァーメラ支部業務日誌帳

読了目安時間:2分

夜明けのラッパ隊・5

「楽勝だったな」 「情報があったんだ。完封せず失態を犯すほうが問題だ」 「かもな。さて……」  雄吾はラッパの取っ手を握る男の手をしっかりと掴みながら、辺りを見渡した。  突然の事態と、錯乱し間延びした奇声を発する、ラッパの音に汚染された被害者に当てられ、辺りは混乱の喧騒に満ちていた。 「これはどうするよ?」 「そちらは警察に任せる。動くな。…………。……これだ」  祐人はラッパの一部を指差した。  そこにはラッパの銀色と同色のテープが貼られている。テープの中央に、僅かだが盛り上がりが見られた。 「これが爆弾か? 起動方法は……導線らしきものは無し。握った手の内側に、反応を伝える何かを仕込んでいるのか。まずこれの解除を――おい、なにをきょろきょろしている?」 「見ろよ」  雄吾は火事場で踊るような騒ぎを起こす民衆を、顎でしゃくった。 「やっぱ精神魔法の線で合ってるっぽいぞ」 「……錯乱した者はごく少数、そうでない者のほうが圧倒的に多い。音との距離は……関係なさそうだが……」 「問題なのは服装だ。スーツだよ」 「スーツ? …………!」  よく見れば、錯乱状態の汚染者の中に、スーツ姿の者がよく見られた。 「よくここを行き来する者か……!」 「そう。ここら辺が仕事場の奴らが多いのかもな。もしそうなら、俺の憶測は一部合ってる可能性大だ。つまり、ラッパを吹き鳴らして精神作用に働きかけるためには、対象者になんらかの事前処置が必要って線だ」 「馬鹿が頭を使った発言をするのは、本当に腹の立つものだな……」 「おい」 「お前がそこに頭を使う必要はない。すでに伊代祇さんに協力を頼んでいる、前例で確保されたラッパの奏者を調べてもらう手筈だ。それと今回確保したラッパがあれば、あの人ならそれで成り行きの大体を解き明かすはずだ」 「言えよ。聞いてねえ」  雄吾を無視し、祐人は鼻から短く息を吐き、犬に命令するような口調で言った。 「お前の出番はこれからだ。潜入のために体を張れ」 「潜入? ……おいおい、マジかよ。あれ、マジで辛いんだって……」 「やれ」 「………あー、ヤだなぁ……」  雄吾は本当に嫌そうに表情を歪めて、空を仰いだ。 「顔と体ごと変形させて変装すんの、この異能のあれこれの中で、一番辛いんだよ……」

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