バランサーヴァーメラ支部業務日誌帳

読了目安時間:4分

禁断の聖域・4-2

 伊代祇は、庭を忙しげに駆ける体勢で固まったメイドの豊満な胸を、もみもみと揉みしだいていた。 「おい」  思わず険悪な声が漏れた。蔑視の視線を送る。  ……この人、こんな人だったろうか? 「あはは、時を止めた女性を襲う趣味はないよ。祐人君もこっち来てやってごらん? 面白いことが分かるから」 「はあ……」  不承不承近寄り、メイドの胸を揉んでみる。  胸は、弾まないし動かない。かといって石像のような硬質とはまた違う、妙な感触だった。  やっているうちに、祐人はあることに気付いた。 「なんだか、妙な……? なんというか、これは、人間……ではないような?」 「祐人君は勘がいいねえ」 「なぜ、メイドの胸を揉みしだいていたのですか?」 「突起があるからね、女性は。男性だと確認しづらい」 「絵面が不味いですよ……。それで、どんなことが分かったんです? 胸を揉んでいたということは、……心臓の鼓動の確認?」 「おお、いい線いってる。生命力の確認とでも言おうか、そんな感じ。心臓に近いほど、それは感じやすいものだから」 「はあ……」 「祐人君。祐人君は、魔導の力の根源、人が持つ【魔力】ってものがどんなものか、知ってる?」 「ええと、身体原動力の余剰エネルギー、でしたっけ?」 「正解、博識だね」  伊代祇はおざなりに拍手した。 「そう、魔力とは、身体が生み出すエネルギー、その余剰分のことを指す。それは意識によって揺れ、誘導することができ、魔導士はそれを利用できる。力の体積とも言い換えられよう」 「……それが、今回のこの現象と、どう関係が?」 「さて、私は魔力を、力の体積と言い換えた。つまり、魔導士でない一般人でも、僅かだが魔力というものを帯びている、発しているわけだ。というより、この場合は、身体原動力のエネルギーそのものを魔力と言い換えたほうが分かりやすいかな?」 「この場合?」 「問題。この場合で言う魔力を完全に凝固させる方法があったとしたら、それを施された人間はどうなる?」 「……死にます。停止とは死、そうじゃありませんか?」 「不正解。人が死んだ場合、身体原動力のエネルギーそのものが、宙に胡散霧消してしまうんだ。この場合で言う魔力だね。エネルギーの行く先がなくなったんだから、そりゃそうだって話だ」 「つまり、余剰エネルギーとしての魔力も、常に宙に発散されているということですか?」 「その通り。――ややこしくなってきたね。まあつまり、魔力を完全に凝固されると、こうなるわけだね。そんな方法があるのなら」  言って伊代祇は、メイドの肩をコンコンと叩いた。 「時の停止。風化の無効。永続の保存」 「……いったい、どんな方法で?」 「魔力に見立てた純度の高い液体を、固形化せぬまま固定する方法は編み出された。しかし未だ、人の魔力を凝固させる方法は確立されていない。単純に絶対零度で凍らせる手法だって、まだまだ実験段階だ。……高純度のものであるとはいえ、液体を液体状のままで固定できた以上、もう少し、あと僅かだと思うんだけどなあ」  伊代祇は難しい表情で首を捻った。その言い方からして、彼もその研究に携わったことがあるのだろう。バランサー就職前は、魔導に関する様々を探求する一研究生だったから。 「この超常を作り出した魔女も研究したんだろうな。池の水がその証拠だ。不純物混じる液体を完全固定するなんて、明らかにロストマジックパーツ(伝承されず失われた魔法)だよなあ。これ、持ち帰って研究できないかな?」 「伊代祇さん、話の続きを」 「ああ、はいはい。そう、人の魔力を凝固させる方法は確立されていない。状況を見るに、魔女の研究も、そこまでには至らなかったようだ。ただし――。ねえ祐人君、この子の胸を揉んで得た感想を、詳しく聞かせてよ」 「言い方……。ええと、そうですね、……なんだか、なじみ深かったというか。すみません、明確な言葉にはできません」 「ヴァーメラは田舎だからねえ。そりゃ馴染み深いか」  伊代祇はからからと笑って、祐人は首を傾げた。 「祐人君、今度はそのへんの木に触れてみなよ」 「は? は、はあ……」  言われた通りに、近くのそれに寄りかかるようにして、両手で触る。  すると。 「……当然ですが、生命力を感じますね。――あれ、でもこれ……」 「君は本当に勘がいい。植物も生きているわけで、当然それも、生命のエネルギーを持っている。それは【深魔力】と呼ばれるもので、人間が生成するそれよりも、より純粋なエネルギーだ。()()()()()()()()()。……私はさっき何て言ったっけ? ――さて、じゃあ、王宮内にお邪魔しようか。ふふ、美しきお姫様はどこにおわすのかな?」 「…………」  ようやく、祐人は不穏な気配を感じ取った。

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