バランサーヴァーメラ支部業務日誌帳

読了目安時間:3分

エピソード:30 / 105

幻視の湖・4-1

 雄吾の目が回復したのを待って、三人は岸部に沿って辺りを探索し始めた。  移動しようという際、祐人は心ここにあらずといった様子でなかなかそこを離れたがらず、結局伊代祇に腕を引っ張られるようにして連れ出された。 「お前、親父っ子だったんだな」  という雄吾の言葉には一切反応せず、 「祐人君、お父さんっ子だったんだねえ」  という伊代祇の言葉には、俯き顔を赤らめながらに、ぼそぼそとした言葉を返した。雄吾は顔を顰めため息をつく。 「母の顔は思い出せません。私が幼い頃に家を出ていったきりで。噂によるともう亡くなっているそうですが。……父親は不愛想というほどではありませんでしたが、感情豊かな人でもありませんでした。しかし、父親との思い出のほとんどは、今もはっきりと思い返せます」 「いいねえ。家族の絆か。私は親不孝も親不孝だからなぁ、思い出の数々は自分で破壊しちゃったから、そういう話を聞くと、素敵だなって思うのと同時に、ちょっと反省する」  などと雑談しながら岸沿いを歩いていると。 「あれ、幻覚か? それとも実体か?」  ポケットに両手を入れたままに、雄吾が前方を顎でしゃくった。  釣られ、他の二人も雄吾が見ている方向に顔を向けると、そこには。 「……実態だ。私にも見える。十代の中頃か、もしくは後半の、白のワンピースを着た、青みがかった長い髪を持つ少女だ」  腰の拳銃に手を伸ばしながらに、祐人も答えた。 「お、見ているものが一致したか。とりあえず声かけてみるか」 「……ふうん?」  伊代祇だけが、なにが面白いのやら、少し笑いながらに首を傾げていた。  近寄ると、岸辺に腰を降ろし湖を眺めていた女の子は首を曲げ、まるで動物かなにかを観察するみたいな視線を三人に寄越した。 「こんちわ。こんなとこでなにやってんだよ?」  雄吾が声をかけると。 「……ふうん?」  少女は少しだけ目を見開き、先程の伊代祇とまったく同じような声を上げ、興味深げに三人をまじまじと見つめた。 「ヴァーメラ支部所属のバランサーだ。ここでなにをしている?」  雄吾が先程発した言葉など聞こえなかったかのような素振りで、祐人が雄吾と比べ随分と堅苦しく少女を問い詰めても、 「ふうん?」  少女はそう返すだけだった。  返答は単調で中身がないが、しかし少女がただの幻でないことを、祐人と雄吾の二人はすぐに理解した。明らかに、こちらの問い掛けにはっきりと反応しているからだ。  人間らしい表情変化。瞳の、好奇心に溢れた輝きと、駆け引きを楽しんでいるような視線の動き。その様子から、はっきりと存在が感じられる。 「あなたたち、私が視えるんだ」  少女はそんなことを言った。  思わず、祐人と雄吾は顔を見合わせた。祐人は瞬間で顔を顰め、そっぽを向いたが。 「あんだあ、お前さん、幽霊かよ」 「どうでしょ? うふふ」  少女は本当に楽しそうだった。  しかし一通り二人とやり取りをすると、急に二人に興味を失ったかのように、少女は視線を湖に戻してしまった。湖の遠く遠くに何かが見えるかのように、ただ眺めている。 「絵になる奴だな。画家が喜びそうだぜ、湖に座るあんたの姿は」  言って、断りもなしに少女の隣に腰を落とす雄吾。少女は視線を移さないままに答えた。 「ありがと」 「んで、幽霊なの? お前さん」 「その答えは、素敵な羽織りのお兄様が知ってると思うわよ」 「あん?」  素っ気なく告げられたその返答に眉根を寄せ、雄吾は伊代祇のほうに首を回した。  すると伊代祇は――

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