バランサーヴァーメラ支部業務日誌帳

読了目安時間:3分

幻視の湖・4-1

 雄吾の目が回復したのを待って、三人は岸部に沿って辺りを探索し始めた。  移動しようという際、祐人は心ここにあらずといった様子でなかなかそこを離れたがらず、結局伊代祇に腕を引っ張られるようにして連れ出された。 「お前、親父っ子だったんだな」  という雄吾の言葉には一切反応せず、 「祐人君、お父さんっ子だったんだねえ」  という伊代祇の言葉には、俯き顔を赤らめながらに、ぼそぼそとした言葉を返した。雄吾は顔を顰めため息をつく。 「母の顔は思い出せません。私が幼い頃に家を出ていったきりで。噂によるともう亡くなっているそうですが。……父親は不愛想というほどではありませんでしたが、感情豊かな人でもありませんでした。しかし、父親との思い出のほとんどは、今もはっきりと思い返せます」 「いいねえ。家族の絆か。私は親不孝も親不孝だからなぁ、思い出の数々は自分で破壊しちゃったから、そういう話を聞くと、素敵だなって思うのと同時に、ちょっと反省する」  などと雑談しながら岸沿いを歩いていると。 「あれ、幻覚か? それとも実体か?」  ポケットに両手を入れたままに、雄吾が前方を顎でしゃくった。  釣られ、他の二人も雄吾が見ている方向に顔を向けると、そこには。 「……実態だ。私にも見える。十代の中頃か、もしくは後半の、白のワンピースを着た、青みがかった長い髪を持つ少女だ」  腰の拳銃に手を伸ばしながらに、祐人も答えた。 「お、見ているものが一致したか。とりあえず声かけてみるか」 「……ふうん?」  伊代祇だけが、なにが面白いのやら、少し笑いながらに首を傾げていた。  近寄ると、岸辺に腰を降ろし湖を眺めていた女の子は首を曲げ、まるで動物かなにかを観察するみたいな視線を三人に寄越した。 「こんちわ。こんなとこでなにやってんだよ?」  雄吾が声をかけると。 「……ふうん?」  少女は少しだけ目を見開き、先程の伊代祇とまったく同じような声を上げ、興味深げに三人をまじまじと見つめた。 「ヴァーメラ支部所属のバランサーだ。ここでなにをしている?」  雄吾が先程発した言葉など聞こえなかったかのような素振りで、祐人が雄吾と比べ随分と堅苦しく少女を問い詰めても、 「ふうん?」  少女はそう返すだけだった。  返答は単調で中身がないが、しかし少女がただの幻でないことを、祐人と雄吾の二人はすぐに理解した。明らかに、こちらの問い掛けにはっきりと反応しているからだ。  人間らしい表情変化。瞳の、好奇心に溢れた輝きと、駆け引きを楽しんでいるような視線の動き。その様子から、はっきりと存在が感じられる。 「あなたたち、私が視えるんだ」  少女はそんなことを言った。  思わず、祐人と雄吾は顔を見合わせた。祐人は瞬間で顔を顰め、そっぽを向いたが。 「あんだあ、お前さん、幽霊かよ」 「どうでしょ? うふふ」  少女は本当に楽しそうだった。  しかし一通り二人とやり取りをすると、急に二人に興味を失ったかのように、少女は視線を湖に戻してしまった。湖の遠く遠くに何かが見えるかのように、ただ眺めている。 「絵になる奴だな。画家が喜びそうだぜ、湖に座るあんたの姿は」  言って、断りもなしに少女の隣に腰を落とす雄吾。少女は視線を移さないままに答えた。 「ありがと」 「んで、幽霊なの? お前さん」 「その答えは、素敵な羽織りのお兄様が知ってると思うわよ」 「あん?」  素っ気なく告げられたその返答に眉根を寄せ、雄吾は伊代祇のほうに首を回した。  すると伊代祇は――

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 人魚は地上で星を見る

    永遠の命を手に入れたいですか?

    0

    0


    2021年7月26日更新

    かつて、魔術師の家系として繁栄していたアークチスト家は、 ある日、ただ一人を残し、滅びた。 唯一の生き残りであるコーラルは、 ただ”生きる” そのために、彼女はふたりの人魚の手を取った。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:16分

    この作品を読む

  • 死ねない魔法少女の異世界転生記

    「死ぬことは罪だよ。私は死にたいけど」

    71,700

    40


    2021年7月26日更新

    やぁ。私は赤松玲。二十一歳のお姉さんさ。 いや、この自己紹介はあまり正しくないかもなぁ……正確に言うと私は二十一歳のお姉さんだったのにも関わらず、とある事情から死んじゃって輪廻転生、今は十七歳の美少女になっている。 そして十七年間、今の世界でクシャナ・アルスタッドとして生活をしているのだけれど…… どうにもこの世界に、私と生前因縁があった【アシッド】という怪物が出ているらしくてね。 私はあまり興味ないのだけれど、若い子達を無下に見殺しには出来ない。 とある事情で手にしたマジカリング・デバイス【イリュージョン】を用いて、魔法少女に変身し、戦う事になったんだ。 詳しくは本編を読んでくれたまえ。お姉さんも大歓迎だよ? ※ご覧になる方によっては気分を害する描写等もあります。 予めご了承ください。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※この作品は「小説家になろう!」様でも同様の内容で掲載しております。 ※コメント・スタンプ・レビュー・ビビッと等も大歓迎です。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:37時間27分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 消えゆく世界で星空を見る

    人の行動は、善と悪の二面を兼ね備えている

    78,450

    3,942


    2021年7月25日更新

    現実の世界。妄想の世界。夢の世界。 どれも同じ世界。 七百年間に渡る人間と神の死闘の末、救世主によって神は殺された。 それから五十年の歳月が流れ、人々は穏やかな暮らしを取り戻していた。 月見里諦止は生まれ落ちてから二十七年間を、幼馴染の鳥柿咲音と共にポソリ村で過ごしてきた。 だが、そんな穏やかな日々に再び暗雲が立ち込める。 二人の前に現れたのは、星空をそのまま切り取ったかのような存在。遥か昔に世界を滅ぼしかけた星影という生物だった。 御伽噺として語られていた星影という存在は何故再び現れたのか。 その理由を探るために、神殺しの救世主として知られる男が統べる国、桜樹国に月見里諦止は向かう。 果たして、世界が滅びる前に再び星影を封印することができるのか。 月見里諦止の前に現れた謎の男は何者なのか。 愛から始まった復讐の物語。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:4時間34分

    この作品を読む

  • 空に偽りのダークネス

    復讐から始まる冒険ファンタジー

    1,023,972

    38,873


    2021年7月25日更新

    小さな村で暮らしていた少年・シオンは、ある日突如として襲ってきた【白の悪魔】により、家族や仲間を失った。 生き残ったのは自分と幼馴染みのサンドラだけ。 生きる理由を復讐に委ねたシオンは、王国最強と謳われる戦姫アリスの元で四年の修行を経て、冒険の旅に出る。 目指すは【白の悪魔】がいる魔界。 シオン達の行手を阻むのは、1〜10の数字をもつ凶悪な魔物達。 冒険の先で出会った新たな仲間達と共に、魔物達との決戦に挑む。 憎悪によって磨かれた力を扱い、世界の安寧を取り戻すべく戦う彼らは、表裏一体と化した思想と創造の狭間でもがき、やがてそれぞれの答えを提示する。 誰が敵で誰が味方なのか、それは最後まで分からない。 * * * 【最高成績】 週間 異世界1位 総合1位 月間 異世界1位 総合4位 年間 異世界3位 総合7位 応援してくれる読者様のお陰です、誠に有難う御座います!

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:7時間50分

    この作品を読む