巫女さんえにしさま

森宮 結(13) 森宮神社を営む森宮家の次女。巫女として日々の手伝いをしていたところ、不思議なことに巻き込まれる。 森宮 創(25) 長男。森宮神社の後継ぎ。流海とは婚約者だが、後継ぎとして修行の日々が続き、まだ挙式を上げられていない。普段から和装。 橋本 流海(25) 創の婚約者。創に惚れたあと服を和装中心へがらりと変えている。なかなか式を挙げられないのがじれったい。

第3話『森宮 創①』

「優樹さーん」 「はいはい」 あの話以来、花火に対する優樹の当たりも(やわ)らかくなって、花火は満足そうだ。優樹自身、色々考えたり、両親に相談したりしながら過ごしている。えにしさまへのお参りもしているようだ。 ただ、(ゆい)(いつ)(なつ)(とく)がいっていなさそうなのが、長男の(そう)だ。元々頭の固いほうではあるが、(すで)(かの)(じよ)持ちというのもある。そのガールフレンドに、どのように説明したらいいか迷っているようだった。 「……結は、どう思う」 「どうって……」 創のぽつりぽつりと(しやべ)(くせ)は、昔から変わらない。神社にいるとき以外でも和装を好み、ゆったりとした()()いをする。 「私も、色々考えてはいるけど、まだ『正しい』とか『正しくない』とかまでは分からないかな……」 「……そう」 小さくため息をつく創。両親はあの様子なので、優樹の件についてとやかく言うつもりはなさそうだ。結を(ふく)めた下の人も、まだ実感として分からないようだ、と創は感じているらしい。 そんな創を、結自身も心配している。あっという間に(かん)(きよう)が変わったのだ。少なからず()(まど)いもあるだろう、と。 創は常識を重んじる人だ。それでいて、少し(ゆう)(ずう)()かない、短気なところもある。その常識が(くつがえ)されたことが、少なからず戸惑いといらだちになっているようだ。 創が、早朝に(ほん)殿(でん)()()えて、じっと動かないことも増えた。その横を、同性カップルが通り過ぎることも。 (あと)()ぎとして、色々なことを考える。 だから、社務所での真との話し合いに参加することも多い。その中で、父と少し言い合いになることも増えた。百合(ゆり)は『()(ばつ)が出来そうで心配だわ』とこぼしていた。 『今までのカップル(たち)が居なくなってしまうかもしれない』と、創は言っていた。創の言い分も正しいのだ。 それに対して、真は少し楽観的な見方をしている。 『どちらも大切にします、という姿勢を見せれば良いんじゃないかな』と、真は返していた。 創の考えとは裏腹に、社会は少しずつではあるものの、同性愛、(どう)(せい)(こん)というものを(にん)()しつつあるのだ。 もちろん、創のように否定的な見方をする人々の方が多い。しかし、真は『それを受け入れた方が、時代に取り残されない』と主張しているのだ。 「……いまいち、納得がいかない」 まんじゅうを()()んだ後、創が結に()()をこぼした。 彼女がいて、他の家族と同じように暮らしていたつもりだったのに、いきなりそれが変わってしまったのだ。 例えば、()(はく)(れん)のこと。そして、優樹と花火のこと。 「男と女が(こい)をして、やがて(けつ)(こん)する」というのが、創の中での常識だったのが、一気に(くず)()ってしまい、戸惑いを(かく)せない。 結なら同じ事を考えるだろう、と思って結に話しかけているのだが、結自身の考え方も、実のところまとまっていないのだ。 「うーん、お兄ちゃんはそのままで良いと思うけど」 「そう、じゃなくて……なんというか、家庭が、()(つう)じゃ、なくなって」 「あー……」 創の考えも、納得できるものだった。 同性婚は、世間(いつ)(ぱん)には「普通」ではないのだ。 そして、何より創は異性が好きなのだ。 『普通』でありたいのに、『普通』でなくなってしまった。 「流海も、心配、してたし」 そうしてため息をつく創であった。 婚約者の流海は大人しくも美人だ。和のものを好む創に、わざわざ着物を買ってまで着て遊びに来る感性もある。そして、創が神社の(あと)()ぎであることも、ちゃんと分かった上で付き合っている。しかし、家族に同性愛者がいるとなると、今のご時世では不安になるのも仕方ない。 「創、あなたは(だい)(じよう)()、よね?」 この不安そうな表情が、今、創の(なや)みの種になっている。 「(ぼく)は、変わらないよ。流海が、好きだ」 「……うん」 いつもであれば(うれ)しそうに応えてくれるのが、今では、その不安そうな表情が残ったままなのである。 すれ(ちが)いが、少しずつ広がっている。まだ、創自身も答えが出せていないからだ。創は流海のことが好きで、『同性に恋することはまずないだろう』と確信している。しかし、(ふた)()の姉の、同じく(がん)()(もの)の優樹は、同性を選んだ。 自分は変わらないこと、一方で、きっと同性愛者の家族が居ることを認めた上で、周囲に納得させなければならない。既に優樹と何度かケンカをしている。ケンカをすればするほど認められなくなり、流海とのすれ違いも広がってしまう。  別の日。 「……」 「……」 結が優樹と(けい)(だい)(そう)()をしていたら、遊びに来た流海とばったり会ってしまい、気まずい空気になってしまった。 「あ、あの」 そして切り出した声も重なり、会話が続かない。 「……流海ちゃん、創を呼んでくるわね」 そして、優樹は()げるようにそう言ってその場を去ってしまった。 「あ、……結ちゃん、ごめんなさいね」 「う、ううん……」 自分の妹のように()(わい)がってくれる流海に、結もなついているのだが、この空気ばかりはお(たが)いにどうしようもないと感じていた。 「……優樹さんも何も悪くはないって、分かってるけど、つい不安になっちゃうの」 流海はやはり不安そうに、しかし、自分の気持ちを確かめるように言った。 結は意を決して口を開いた。 「創お兄ちゃんは、たぶん迷ってるだけ、だと思う」 「うん……分かってるの」 「それに、流海さんと居るときの創お兄ちゃん、すごく嬉しそうにしてるから」 少しだけ、こわばった流海の表情が(ゆる)んだ気がした。 「……流海」 「創……」 しばらくして、創がやってきた。気まずそうにそっぽを向いた、優樹を連れて。 「父さんにも、言われたけど……少しずつ話し合う、ことにした」 「…………うん」 「優樹の話も、聞いて(もら)いたい」 「……うん」 「好きだから、(いつ)(しよ)に居たいし」 「……もう、大丈夫だと思う」 「……?」 小さくやり取りした後、流海が顔を上げて言った。 「花火ちゃん、だっけ。あの子とも話すし、優樹さんもいい人だって、分かってるから」 「周りには、少しずつ、話そう」 「そうね。一緒に、考えたい」 「うん」 そっぽを向いていた優樹が、二人を見る。 「その……創も、ごめんね。流海ちゃんも」 「いや、いいよ」 「平気です」 「創も思ってるだろうけど、考え方は一緒なの。『一緒にいないと落ち着かない』って」 「……ええ」 「だから、ちゃんと相手をしてみることにしたの。ただそれだけだし、進み方はきっと一緒だから」 そう優樹が笑うと、ふわりと、流海も、創も笑った。

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