前世が交通課員で、その前世が銭形平次(仮)だったことに40歳半ばで分かった霊感のある盗犯刑事。その捜査活動について報告する。

読了目安時間:4分

第13話 プチ家出の理由

 栄京寺の境内を颯爽と歩く樹璃亜の実家は、深川の宮大工〝城銀工務店〟である。当人はそこの一人娘だ。  城銀工務店は住居併設の木造平屋建てであり、樹璃亜は祖父・両親・住み込みの男弟子二人と生活を営んでいる。  ともに四十代の両親とは、そこそこ良好な関係を保っている。朝晩の食事くらいしか顔を会わせないから、悪化しないと言った方が正確かもしれない。  住み込みの弟子二人は、ともに二十代前半で、中学校卒業時からの叩き上げ職人だ。この二人とも、会ったら挨拶を交わす程度である。  樹璃亜の内面を知っているから、あまりお近づきになりたくないらしい。いくら浮世離れした美貌の持ち主とはいえ、である。  また、二人とも恋人がいる上、ロリコン扱いされたくないのも理由だそうだ。これは、樹璃亜が直接問いただしている。  ただし、頑固者の祖父だけは昔から樹璃亜へ積極的に関わろうとし、関わっている。理由は、樹璃亜が小学生の時分に亡くなった祖父の伴侶──樹璃亜の祖母の遺言による。臨終の場で樹璃亜も聞いたのだ。 「──樹璃亜は真っ直ぐな子です。真っ直ぐですから、ほんの少し歩みを違えるだけで、道を踏み外してしまいます。そうならないように導いてあげて下さい」  樹璃亜の目から見ても、祖父は最愛の妻からの遺言を忠実に守っている。むしろ忠実すぎるほどだ。 「わたしでなくても辟易(へきえき)する水準だよ」  樹璃亜は、夜風に吹かれながら呟いた。  このこと、祖母の四十九日が終わった頃から変わらない。だから、昔は良かった仲がそうでなくなるのも自然な流れである。 「それにしても、今日はムカついたなあ」  樹璃亜は立ち止まって月を見た。美しい半月だった。  本日樹璃亜は、新聞沙汰になってもおかしくない行動をとった。  通学先、私立京永高校の職員室で自分の銀髪をからかった体育教諭の胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げたのだ。体育教諭の言動は褒められたものではないが、乱暴極まりない行動である。  苦しむ姿を見て樹璃亜が力を抜き、下ろされた教諭も落ち度を認めたため、全方位で大事にはならなかった。それは幸いだった。  だが、当然保護者は学校への呼び出しをくらう。  棟梁である父親、その右腕である母親は現場で手が離せないため、引退した頑固者の祖父が学校にやってきた。  いくら頑固者でも、祖父は樹璃亜より大人だ。おまけにこれが初めてでないため、謝るのには慣れているらしい。今回も、総白髪の角刈りをこれでもかと下げたのだ。  樹璃亜は、その態度が気にくわなかった。  祖父愛用のバイク、黒のハーレーの後ろに乗せてもらい帰宅した樹璃亜は、居間に腰を下ろし煎茶を飲む。目の前には、ちゃぶ台を挟んで同じようにほうじ茶をすする祖父がいた。 「じいちゃん。何で頭下げたの。あの先公がわたしを馬鹿にしたのが悪いんだ。それくらい、分かるでしょ」  座布団の上で胡座(あぐら)をかく樹璃亜は、近所の寿司屋から貰った愛用の湯飲みをちゃぶ台に置く。祖父のよりも一回り大きな物だ。  湯飲みを置いた深爪気味の指先が、そのままちゃぶ台中央にある深皿へと伸びる。包装された一口サイズのチョコレートやクッキー、数種の飴玉が乗せられた皿だ。  樹璃亜は、その中から塩飴を一つ掴んだ。 「樹璃亜よお。それくらいは学のないオレでもわかるさ。でもな、人様(ひとさま)に手を上げちゃいけねえんだ。あと、人と話してる時は飴を舐めるもんじゃねえ」  樹璃亜は、祖父の言葉で包み紙を解く行為をやめ、スカートのポケットにねじ込んだ。しかし、聞き入れたのはそれだけだ。 「じいちゃんだって若い頃、深川祭りの時やくざの事務所にお神輿(みこし)担いで突撃して、全員()したくせに。昔、ばあちゃん言ってたよ。粋でいなせだったって」  樹璃亜は、祖父の武勇伝を反撃材料とした。話の最後に持ち上げたのは、その話を初めて聞いた時、心の底から祖父を格好良いと思ったからだ。 「ああ、粋でいなせだったのはそのとおりだ。オレも昔は……違う、今話してるのはそれじゃねえ。あれは、あの連中、フッコ会がオレの後輩のシマを荒らしにかかってたからだ。それにな、極道と先生じゃ、悪役の格が違うだろうが」 「格も何もないし、違わない。悪いのは悪い」  樹璃亜は目をつむってそっぽを向いた。 「樹璃亜! なんでてめえはそんなに()が強えんだ! いや、強すぎるんだ! 一分くらい(しと)やかにして見せたらどうなんだ。折角の器量が台無しだろうが!」 「一分でも淑やかなんて無理な相談だ。それと、我が強いのは我が家みんなに当てはまるじゃない。あとね、頭下げるじいちゃん格好悪かった。多分、ばあちゃん極楽浄土で幻滅してる」 「樹璃亜っ! てめえ、なんて口ききやがる! あと、スカート履いてるのに胡座かくな。ちゃんと正座しやがれってんだ!」 「中身はスパッツだから問題ない」 「そう言う問題じゃねえ。行儀だ、行儀!」  発端はこのような些細なことだった。  ここから樹璃亜と祖父は、火の出るような口喧嘩してしまう。ついには、樹璃亜がセーラー服のままで自宅を出て、幼少から縁ある栄京寺に転がり込んだというわけだ。江東区と葛飾区で離れているが、城銀家は栄京寺の檀家であり、樹璃亜の祖父と大和尚は昵懇(じっこん)なのである。  はたから見れば、いわゆる〝プチ家出〟のようなものだ。  しかし、実をいうと樹璃亜の行動はよくあること。実家側も寺側も慣れっこである。  樹璃亜は小さい頃からへそを曲げて家を飛び出ると、深川から柴又までの結構な距離をたった一人で踏破して、この寺に転がり込むのがお決まりなのだ。

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  • ひよこ(重)

    DANDY

    ♡500pt 2021年3月21日 9時18分

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    良き哉 良き哉

    DANDY

    2021年3月21日 9時18分

    ひよこ(重)
  • チンチラちゃん

    砂乃路傍

    2021年3月21日 12時42分

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    ありがてえありがてえ

    砂乃路傍

    2021年3月21日 12時42分

    チンチラちゃん
  • ひよこ剣士

    神崎あきら

    ♡300pt 2021年4月25日 20時56分

    豪胆な爺さん、良いですね!

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    神崎あきら

    2021年4月25日 20時56分

    ひよこ剣士
  • チンチラちゃん

    砂乃路傍

    2021年4月26日 12時40分

    コメントありがとうございます! まさか爺さんが褒められるとは思いませんでした(笑) でも、登場人物に良いと言っていただけるのは素直に嬉しいです。重ねて感謝申し上げますm(__)m

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    砂乃路傍

    2021年4月26日 12時40分

    チンチラちゃん
  • ドワーフ親父

    田中

    ♡300pt 2021年3月28日 9時40分

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    おもしろい

    田中

    2021年3月28日 9時40分

    ドワーフ親父
  • チンチラちゃん

    砂乃路傍

    2021年3月28日 12時45分

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    励みになります!

    砂乃路傍

    2021年3月28日 12時45分

    チンチラちゃん
  • 化学部部長

    ふゆき

    ♡300pt 2021年2月27日 22時57分

    楽しい😊読んでて!

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    ふゆき

    2021年2月27日 22時57分

    化学部部長
  • チンチラちゃん

    砂乃路傍

    2021年2月28日 9時36分

    コメントありがとうございます! 楽しんでいただけて、作者冥利に尽きます!

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    砂乃路傍

    2021年2月28日 9時36分

    チンチラちゃん

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