これで終わりじゃないよね?

読了目安時間:7分

エピソード:4 / 19

過去から、これから

「……そうか。君にはまだ少し時間が必要なようだな。この状況を受け入れるしかないということを知るまで、私は姿を隠させてもらうことにしよう。いろいろと模索してみるといい。しかし、そこには君が望むようなことは何も無いだろうがね」  全てを知る者が消える前に言ったことが、頭を何度も通り過ぎては消え、また戻ってくる。何故だ? それに、奴が消えてからどれほど経っただろうか……。  あれから俺は、全てを知る者の言う通り、あれこれと模索……いや、足掻きと言ったほうが良いか。繰り返し浮かぶ言葉に対し、無駄な抵抗を試みた。  しかし、出来ることといえど原始的なことだけだ。始めは思いっきり叫んでみたり……。 「おはようございまーす!」  叫んだ内容は、とりあえず「おはようございます」だった。  ――これは、毎日毎日担任の石垣が気持ちのいい挨拶をしてくれているのに、何も返さないのは失礼だろう。という気持ちがふと芽生えたからだ。  元気に挨拶してもほとんど反応が無い中、石垣はよくやっている。内心どう思ってるんだろうか。自分だけ張り切って他は無関心。よく考えると正直キツイよなぁ……。今度からはしっかり挨拶返してみようかな……。  何故か感傷に浸ってしまったが、ちょっとだけ優しくなれた気がした。だからもう一回叫ぶ。 「いつもありがとう!」  ――感謝の気持ちを込めて叫んでみても、声が反響してこない。ということは閉鎖的な空間ではないはず。と思い、次は小一時間正面に向かって歩いてみた。  というか、よく考えたらすごく恥ずかしいことしたんだな俺……。ここで思わず苦笑してしまった。  ――しかし、いくら歩けども風景はまるで変わらない。本当に進んでいるのかも分からない。だが、荒い息遣いのみは聞こえてくる。 「確かに……ふぅ。何をやっても無駄なんだろうな」  早々、軽く諦めの入った俺は、仰向けに寝転がった。 「生きる意味、かぁ……」  何でこんなこと考えるようになったんだっけかな。  俺はいつからかよく考え事をするようになった。昔は物事を深く考えたりしなかったのに、今はくだらないことでもその意味を考える。意味が分かったからどうなるというわけでもないが、何でそうなるのか、何でそうならなきゃいけないのか。などが無性に知りたくなる。おそらく、終わりというものが嫌いなんだと思う。何かが終わったときの虚しさ。それが苦痛に思えるほどに。 「じゃあ終わりがないほうがいいの?」  ……またさっきのように頭の中で声がする。 「そんな事聞いてどうなるんだよ、誰かさん……」  ちょっと頭を使いすぎたかな。――そういえばまだ睡眠をとっていなかった。  この謎の空間にくるまでの過程はあっという間だったが、俺は寝ようとしていたんだったな。少し頭を休めよう……。  俺はゆっくりと目を瞑った。 「ねぇ、おじいちゃん。どうしちゃったの?」  ――幼い少年が、老人に問いかける。 「んー? どうした?」 「だって、ずぅっと起きて! って言ってるのに全然起きないから……」 「そうだなぁ……。この子はとってもとっても疲れてしまったんだよ」 「とっても疲れちゃった?」 「そうだよ。お前だって、疲れて仕方がなくなって、おやすみしたくなる時はないかい?」 「うーん……そうだね! 保育園のみんなと走り回った後とか!」 「おー! そうかそうか、お友達と遊ぶと楽しいよなぁ! この子も同じだよ。お友達といーっぱい走り回って遊んだから、疲れておやすみしちゃったんだよ」 「ふーん、そうなんだ。じゃあもう少しおやすみさせてあげようね」 「ハハハ、お前は優しい子だね……」  ――パーティーか何かだと思ってた。  親戚のおじちゃんやおばちゃんとかがたくさん来て、みんな自分に笑顔で話しかけてくれる。とても嬉しかった。でも、そんなたくさん人が居るのにあの人は起きようとしなかった。  そして、みんな笑顔だったけどおじいちゃんだけはちょっと違った。顔は笑ってるけど目が笑っていなかった。その時は何とも思わなかったけど、今はその時のおじいちゃん、親戚のみんながどう思っていたのかが分かる。  なぁ、あの時の俺。そんな幸せそうにするなよ、頼むから……。  ――そう思っても無駄な話だ。いくつだと思ってる? 大人じゃないんだぞ。 「じゃあ大人だったら?」  ――ハッ! 俺は何をしていたんだっけ? ああ、そうか……。  ふと気付くと、周りは真っ暗だった。――いやいや、元から真っ暗なんだ。 「俺は眠っていたのか?」  目を瞑ってまどろみに落ちるまでの間、夢なら覚めて欲しいと念じていたが、どうやら無意味だった様だ。この得体の知れない空間は、何の変化もすることなく未だ俺を抱き続けている。  俺を嘲笑うかのようなこんな状況に、俺は若干うんざりして言った。 「頼む。居るんだろ?」  その言葉を言い終えるか終えないかのタイミングで、「やつ」が姿を現した。 「今、君が置かれている状況が理解出来たかね?」 「理解も何もあるかよ。どうせなるようにしかならないんだろう? なら俺は成り行きに任せるさ」 「そうか。それは良かった」  何が良いのかさっぱり分からない。 「ではまず、君の知りたいことを今一度聞こう」 「生きる意味を……と言いたいところだが、その前にあんたの目的を知りたい」 「目的、というと?」 「いや、だから目的だよ。確かに俺は生きる意味が知りたいって思った。でも、よりによってなんで俺にその答えを教えてくれるんだ?」  この全てを知る者は、本当に全ての事象を知っているのだろうか? それも分からないし、俺でなくとも他の人間を選ぶことも出来たはずだろうに……。 「――物事は思っているよりも単純であることが多い」  全てを知る者が口を開く。 「君は特に好奇心が強い人間だと思う。がしかし、ある目的に向かって回り道ばかりを探しているように思える。足元にある確かな道を見失ってしまうほどに。道を見つけても、他の道を探そうとする。その結果、元の道を見失い、迷う……。だからこそ、君には確かな「答え」というものを知ってもらいたい」 「なるほど、それは嬉しいな。でも俺みたいな輩は他にもウジャウジャ居ると思うぜ? 聞きたいのは、そいつらではなく何故俺に教える必要があるのかと言うことだ」 「――何も特別に思うことはない。先程も述べただろう。物事は思っているよりも単純であることが多い、と」 「……ハッ、要は誰でも良いってことか」 「足元を見てみるが良い。君がこの質問を行った時点で、すでに道を見失ったのだ」   ここで俺が言い返す合間も取らせず、全てを知る者は更に続けた。 「君だけではないが、全ての者は容易に道を見失い、迷う。明確な答えが得られているにも係わらず、答えを答えと思わない。ただそれだけのことでだ。君はその一つに、生きる意味というものがある。生きる意味や理由といったものは、誰しもが持つ普遍のテーマだが、君は誰よりもこれに執着している。執着しているからこそ、明確な答えを知ることが重要なのだ。何より、君自身がそれを望んだ。と同時に、それが私の目的となった」 「……つまりなんだ、俺は決まりきったことでもあれこれ考えすぎだから、余計に思わずありのままを受け入れろってことか? ということは、俺に生きる意味を教えてくれるのは、俺が望んだから、で良い訳だ。……違うか?」 「それは私が言うまでもない」  ――何だか頭が痛くなってきた。全てを知る者は、会話を楽しむということを知らないらしい。  全てを知る者の言いたいことは何となく分かる気がする。  答えの答えはない。答えは答えであって、それ以外の何物でもないということを彼は言いたいのだろう。確かに、答えや結果にはそれに至るまでの過程があって、その過程を経た上にきちんと答えが存在している。  しかし、その結果や答えは本当に合っているんですかーと言われたらどうだろう? 疑問に思わないか? 俺はそれが知りたい。生きる意味はなんですか? と聞かれて、後悔のない人生を送れば良いとか言う輩もいるが、果たしてそれを答えにして良いのだろうか? ただの自己満足ではないのか? 「……まあいいや、分かったよ。今、俺は大人しくあんたの言うことを聞けば良い。それだけで良い」  ――今のように考え事をすると、いつも堂々巡りをして詰まる。認めたくは無いが、今の俺は全てを知る者の言うような、道を見失って迷っている状態なのかもしれない。  どうせ詰まってしまうのなら、全てを知る者が発する「生きる意味」を耳にしよう。それが俺の望みであり、終着点だ。物事は単純であることが多いのなら、これが今の答え。 「……違うか?」  全てを知る者の意向に沿って言ったつもりだったが、彼は何の反応も返さなかった。  はあ、頭が痛い……。

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