絵描きの元兵士と新米編集者達の旅路記録帳(仮)

読了目安時間:11分

エピソード:2 / 7

第一章 「幼少期編」

絵描き少年は、一人の少女と出会う

 人の一生は道で表せると誰かが言った。    硝子の道は、いつも何かにおびえながら生きてきた人の軌跡。石煉瓦は常に間違えを起こさないように立ち止まり軌跡を確認しながら歩みを進めてきた人のことである。  道を歩む者の大半は、人生の転機に遭遇する。  転機は何時(いつ)、どこで起きるか分からない。  だからこそ、大人は常日頃から最悪の事態を想定し生きている。失敗をした時のリスクを知っているからだ。しかし、青年期に満たない子供は責任を持つことは難しい。失敗をした時のリスクを考えるほどの経験を積んでいないからだ。  子供の成長は、様々な時期によって分けられる。  学童期前期は、人としての行動や学習、集団や社会におけるルールの学習など、人間としての行動を学ぶ課題としている。学童期後期では自分自身を肯定的に捉えられること、他者を尊重し思いやれるようにすること等を課題としている。  子どもにとって「学童期」は大人になった際に行う行動の基盤を作る時間である。  子供が成長しやすい環境を生み出すことが非常に重要である。  子供は無限の可能性を秘めた存在である。  現実を知らず、純真無垢に努力出来る存在だからだ。  子供は何かしら何かを変えたい、何者かになりたいという夢を抱く。  大きな夢を幼き頃から持った子供は、誰よりも強くなれる。  自らの目標を達成するため努力し続けられるからだ。  目標を立て、長期間努力し続けられる人物は、大きな目標を叶えられる。  最も、そんな道が存在している人間にも条件が存在している。  それは、生きていく際に余裕があるかないかと言う点だ。  一人の少女は、白色に光り輝く道を歩いていた。  光は、桃色の髪色の少女に対し、未来を真っすぐ指し示していた。  少女は、愛を受け取りながら歩き続けた。これから先、愛は続いていくのだろうと思っていた。    そんな彼女の歩く道に、雨が降り注ぐ。  薄赤色の雨は赤黒くなり続けながら道を染め上げていく。  桃色の髪が特徴的な少女は一人、口元を震わせてから、硬く口を噤んだ。  今、少女の周りには光などない。彼女の周りには、鉄の匂いが漂うのみである。 *  木々の生い茂った鬱蒼(うっそう)とした林の中に、白土で無造作に整えられた道がひかれていた。その道を、儀装馬車のような馬車が駆けていく。既に時刻は夕刻時となっており、足場も見えなくなってきていた。そんな中でも、サラブレッド産に近い二頭の馬は力強い走りをしながら馬車を引っ張っていく。  一定の間隔で刻まれる地を鳴らす音は、静寂の森の中に景気良く響く。その衝撃は、黒色の本革が用いられた座席が吸収していた。この馬車には、車で用いられている頚部衝撃低減(けいぶしょうげきていげん)フロントシートの仕組みとシートベルトの仕組みが用いられている。衝突事故などのような不慮の事故が発生した際に生じる首への負担を減らすと共に、シートベルトによって体が前に行く被害を回避している。  勿論、それなりに費用は高いが、移動する際に怪我する可能性が無くなるためビジネスとしては成り立っているというのが実態である。  馬車内には二人の人物が座っていた。  馬車の椅子に座る白髪の男性は、目を細めながら年季の入った緑色の手帳を捲りつつ過ごしていた。  それに対し、淡い桃色の髪の少女は椅子に背中を付けながら眠りについていた。    馬車は、ベルダー孤児院という児童保護施設へと向かっていた。  ベルダー孤児院は、六十代の老人が管理している公的機関の一つである。  勉学等に励める学校の環境を備えており、男子は十四歳、女子は二十二歳まで所属出来る。守られた環境の中で、伸び伸びと多角的に学んでいくことが出来るのである。  そのため、(ちまた)では「素晴らしき大人を輩出する公的機関」と呼ばれている。子供の「乳幼児期」と「学童期」、「青年期序盤」における子供の成長を重んじているからだ。  この施設では、個々の個性や社会における基本知識や、対話技術などを重視している。また、授業カリキュラムはグループを組ませ問題を解かせるグループワーク方式となっている。このカリキュラムによって、社会に出てから必要となる多人数による課題解決能力を身に付けられるのである。  ベルダー孤児院の創設者メンバーである、手帳を持つ男は少なからず自信を持っていた。  その自信は、国内で表彰されたからでも、お金を沢山貰っているからでも無い。沢山の子供を、社会に貢献できる人間に成れるように輩出したという経験からである。  手帳を捲っていた男は、一通り読み終えるとホッと一息ついた。そのままゆっくりと手帳を椅子の上に置き、右手で口元を隠しながら欠伸を行う。そこから数十秒かけて首を回したり手首を軽く回していった。  そんな作業をしているとき、柔らかな吐息が男の耳へ入ってきた。  声の主は、男の前で眠っている少女だ。あどけなさが残る童顔には安堵したかのような柔らかな笑みが浮かんでおり、年相応の幼さを感じさせた。男性は、ソファーの上に置いていた茶色のコートを、彼女の胴体に覆い被せるようにしてかけた。  直後、寝言のような言葉を言いながら少女はコートを頭までかぶる。少女の行動を見ていた男性は、寒いのだろうなと感じていた。そんな時、甲高い馬の声がさざめいた。  白髪の男性は、声を耳にすると同時に馬車の吹き抜け口から外の風景を確認した。  最初に目に入ったのは、木製フレームが付いた四角窓から零れ出す光だった。光は、白線の傷が付いた赤煉瓦(あかれんが)と短く整備された芝生を照らしている。檜色の窓付き扉からは、白色の温かさを感じるような光が漏れだしていた。  温かな光は、暗闇の中に溶け込む鼠色の階段と、階段の上に座っている少年を映し出していた。  少年の体躯は平均的だ。黒いレインコートを羽織り、黒色のズボンを履いている。黒色の大きな瞳と耳元まで伸びている黒色の髪の毛が特徴的で、背丈はそこまで高くはない。  体という面に注目すれば、全く変わった部分は無かった。しかし、少年には外見以外に特徴的な部分があった。それは、八歳ながら成りたいものを見つけており、努力していることである。 「到着したよ」  白髪の男性がそのように伝えると、少女はもぞもぞとコートの中で頭や腕を動かしながら顔を出した。目をパチパチと開き、ぼやけた視界を鮮明にするべく二、三度目を擦っていた。しかしながら、目元は虚ろとしておりまだ移動できる状態ではないと理解した。  男性は、彼女の状態を理解した上でこのように伝えた。 「来れそうな体調になったら、降りてきてね」  白髪の男性は少女にそのような言葉を伝えた後、馬車の開閉式扉を開けたままにしてゆっくりと降りた。短く整えられた天然物の芝生の上に、黒色のスニーカーをゆっくりと地に付ける。途端、緩やかな風が男性の体へ吹き付ける。  男性は右手で髪の毛を抑えながら、左手で白シャツの襟が立っていないか確認する。一通り不自然な点がないかを確認し終えた後、白髪の男性は少年が座っている場所へゆっくりと歩いて行った。歩くたびに芝生の小刻みな音が響き渡る。  ()()に集中しながら一心不乱に描き続ける少年に対し、男性は表情の変化などを確認しながら頃合いを伺っていた。そうして、男性が話しかけたのは少年がふと息をつき両肩を回していた時だった。 「ヤーオン。今日は、どんな絵を描いたのかな?」  男性が笑みを浮かべつつ質問すると、ヤーオンは明るい声色で「おかえりなさい。ジーヤさん」と返答した。  そして、先ほど閉じた橙色の表紙のスケッチブックを開く。そして、左手で抑えながら、右手で一枚一枚丁寧に捲っていった。  時間を丹精にかけた、黒鉛を用いて描かれた少年の軌跡達(成果物)。  既に十二冊目となっているスケッチブックに描かれた葡萄(ぶどう)や鳥の絵等は、実際に存在しているかのような錯覚を覚えるほどになっていた。精密に描かれたイラストをめくりつつ、ヤーオンは先ほどまで描いていた作品を見せた。  その作品は、夜空に浮かぶ星々だった。等級の違いを肉眼で把握し、線の濃さを変えることで夜空で輝く星の特徴を描いていた。着眼点の高さからすれば、到底八歳が書いたものとは思えなかった。  ヤーオンは、人の良い行動を模倣する特徴と興味を持ったことに対し積極的に調べる特徴を持つ。だからこそ、彼の絵は鮮明に移された写真のように精密性がある。 「うん……凄いな」  ジーヤは少年に対し感服の念を感じながら笑みを浮かべた。  芸術系の仕事を経験していたジーヤは、少年の良き師匠である。技術力を引き上げたのは、彼の経験に基づいた絵の模倣練習、デッサンの積み重ねによるものである。  ジーヤは、十歳になるまではデッサンを練習させようと考えていた。その予想に反し、少年の成長速度は予想を上回っていた。だからこそ、彼は迷いを持った。褒める行為は少年を満足させてしまう恐れがあったからだ。  満足してしまえば、大半の人間は探求を辞める。  探求を辞めれば、人は一生成長しなくなるのだ。  ジーヤは、打開策を探すべく頭の中で思考を続けていた。  そんな中だった。一人の少女がヤーオン達のもとへ駆け寄ってきた。  少女の体躯は比較的細かった。ベージュのダウンコートの下に、白色のセーターと黒色のロングパンツを身に付けている。靴は、保温性の高い黒色のスニーカーを履いていた。色白で顔立ちは整っており、絹のような質感のある桃色の長髪と水色の伽藍洞とした瞳が特徴的だ。  ヤーオンは、少女のことを始めてみる人物だと最初に感じた。次に、綺麗な服を着ているなと感じていた。そんな彼をよそに、少女はジーヤに対しとあるものを手渡した。それは、緑色の手帳と茶色のコートだった。ジーヤは、車内に持ち物を忘れていたのだ。 「ありがとう、グレア。そうだ。折角の機会だし、紹介しよう。彼女はグレア・ライタス。本日からベルダー孤児院にて生活する、同年代の仲間だ。仲良く頼むよ」 「初めまして。ヤーオン・ウェイって言います。どうぞよろしくお願いします」  ジーヤの説明に対し食い気味になりながら、ヤーオンは笑みを浮かべつつ自己紹介を行った。  少年は、少女に対し内面的興味を持っていなかった。他者に対しあまり関心を持たないからだ。ベルダー孤児院で一人で作品を描き続ける彼のことを理解できる同年代の人物は、誰もいなかったのである。  何より、彼は誰よりもストイックだった。ひたむきに時間をかけて練習する彼にとっては、作品に興味を示さない民衆など興味を示す対象にならないのだ。だからこそ、彼を理解できる人物は、同年代に存在していなかった。  他の子供達は、外で遊ぶことに興味を持っていたからだ。だからこそ、今目の前にいる少女も彼らと同類だろうと考えていたのである。  彼の心の内を示すかのように、ヒューヒューと寒い風が吹き始める。風は、彼らの服を無造作に揺らし続ける。少女は、寒々とした風が吹いている最中、ジーヤの服の裾をつかんだ。そして、右手を使い何かを伝えた。  少年はこの時、彼女の行っている行動の意味が分からなかった。しかし、その行動の意味をジーヤは気が付いていた。ジーヤは、少女の手振りを確認しながら、鉛筆のような道具を用いて手帳内に文字を書いていく。そうして、一通り書き終えたジーヤは文字を読み上げた。 「一体どんな絵を描いたのか、見せてほしい」  少年は、彼女がジーヤに対し指示を出していたのだと気が付きつつも言及せず、星々が描かれたスケッチブックをグレアに渡した。  スケッチブックを受け取ったグレアは、時には片目をつぶり、時には空に掲げながら眺めていた。そうして、二分ほど経過した。絵のチェックを終えた彼女は、頭を下げながら少年にスケッチブックを返却した。  少年は、その時彼女が浮かべていた微笑に対し疑問を感じていた。この時の少年には、彼女の行動の真意が分からなかった。  グレアは、ジーヤに対し右手を用いた言葉を使用し文を伝えていく。ジーヤは、書いている途中に一度だけ目を見開き呆気(あっけ)にとられた表情をした。紙からグレアの顔へ視点を移し、手言葉を使って質問する。その言葉に対し、グレアはしかめっ面を浮かべながら大きなリアクションをしつつ手言葉を行った。  ジーヤは一度上を向いてから真顔に戻すと、文字をすぐに書き上げた。  そして、ゆっくりと手帳に書かれている文章を読んでいく。 「貴方の絵は、模倣技術がとても長けているから見ている時に現実にいるように錯覚する感じがあります。けれど、それに固執するあまり自分らしさが作品に出ていないと思いました。もっと自分らしさを出さないとより良い作品にはならないのではないかなと思いました」  少年はその言葉を聞いた後、目を見開きつつ脇に挟んでいたスケッチブックを落とした。  彼女が述べた弱点は、自分の世界を描くという点の欠如についてだった。  少年の作品には、デッサンで一番重要となる自らの個性を表現するという点が抜けていたのである。  少年は頬を赤くしながらグレアの顔を見てお礼を言った。  少年は、生まれて初めて同年代の人物に興味を持った。  少年は、体の火照りを感じながらすぐに口に出した。 「もし良ければ、僕の絵に対し、これからもアドバイスをしてください」  少年からの告白に、少女は驚愕した。今日、会ったばかりだからだ。  少年から、嫌われたと考えていたからだ。少女は、すぐに少年の真意を探ろうとした。それでも、少年が浮かべている笑みと言葉には、悪意が感じられなかった。だからこそ、彼女も了承したのである。  月のような恒星の光が、彼ら二人を照らし続ける。そんな二人に対し、ジーヤは一言このように呟いた。 「さて、と。そろそろ寒くなってきましたから館内に入りましょうか」 「分かりました。じゃあ、改めて宜しくね。グレア」  ヤーオンは、笑みを浮かべながらそのように呟いた。純粋に彼女に興味を持っている少年の言葉は、どこか温かさを感じていた。少女は、少しばかり微笑を浮かべていた。

参考文献 1.文部科学省、-- 登録:平成21年以前 --「子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題」より引用 2..宮内庁、「儀装馬車」より引用   3.株式会社下村家具のHPより引用 4.旅の情報 ~地理の世界より~ 引用 5.オリーブ気候とエリカ気候より引用 6.ー 地中海性気候 ーコトバンクより引用 7.競馬用語辞典 サラブレッド JRAより引用 8.質問コーナー QandA集 三菱自動車より引用 9.文具のまめちしき 鉛筆の材料・原料について Tombowより引用 10.第1-2-4表 年齢別身長・体重・座高の全国平均値より引用 11.デッサンの意味と目的 デッサンという礎より引用 注釈的説明 儀装馬車……日本の皇室の重要な儀式に用いられる美しく着飾られた馬車。1号~4号まで存在しており、本作では2号を基準としている。大きさは、全長4.51m,幅1.87m,高さ2.24m。明治の終わりから昭和の初めに製造されており、美術品的な価値もある。 最大乗車可能人数は4人までである。本作中では、出入り口は開閉式の扉としている。 また、内部には「PN接合」のLED電灯が取り付けられているため、暗い夜道でも安心して移動可能である。 また、この儀装馬車はベルダー孤児院が所有しており御者はベルダー孤児院のメンバーである。 ・本話に出てきた人物紹介 名前:ヤ―オン・ウェイ 性別:男 年齢:八歳 身長:130.2cm 体重:29.6kg 特徴:優しい少年。絵を描くのが好きで、一人で良く書いている 名前:グレア・ライタス 性別:女 年齢:八歳 身長:127.5cm 体重:重大機密 特徴:物静かだが、思ったことは言える少女。何故か、言葉を口にしない。 名前:ジーヤ(本名ではない) 性別:男 年齢:五十代 身長:186cm 体重:82kg 特徴:ベルダー園を管理する管理人。性格は温厚で、皆から慕われている。几帳面な面もあり、日々手帳に様々なことを記録している。 絵描きの元兵士と新米編集者達の旅路記録帳(仮)をご覧いただきましてありがとうございます。 少しでも楽しいと感じて頂けましたら下記よりコメントorスタンプ投稿を頂けますと幸いです。

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