混沌のファンタジスタ 〜魔法のある世界で人々はサッカーの夢を見るか?〜

読了目安時間:4分

2章 人を信じるということ

初めての練習

 僕、雷、奈々さんの入部が決まったのは、昨日のことだった。今日から早速練習が始まる。 「よっ! 準備出来たか?」  今日はとても暑い日だった。帰りのホームルームが終わって部活に行く準備をしていると、雷が僕の机の前にやって来た。彼はもう準備を終わらせている。 「速いな」 「そりゃあ楽しみだからだよ! サッカー部に入れたんだぜ? ワクワクしているに決まってるだろ!」 「そりゃあワクワクするけど……すごいなお前」  そのワクワクが、雷の主な原動力となっている。しかも僕より激しい。いやはや、馬力がすごいな。 「悠人! 雷!」  そこに、奈々さん……いや、奈々が来た。僕達は同じ部活に入る仲間としてもうちょい仲良くしようということで、さん付けや敬語を無しにした。始めこそ奈々はひどく緊張していたけど、すぐに適応。たった一日でタメ口で話し合える仲になった。 「奈々。準備終わったんだね」 「うん! それでさ、昨日……」  奈々は嬉しそうに話しながら、バッグからキーパーグローブを取り出す。abidas(アビダス)のピッカピカの新品だ。 「じゃーん!」 「すげー! これ新品じゃん!」 「えへへ、お父さんに買ってもらったんだ。いいでしょー」  奈々さんはどや顔をしながらそのグローブをちらつかせている。そうこうしているうちに、こっちも準備が整った。 「お、終わったか。じゃあ行こうぜ」 「おう」  僕達三人は、走って教室を出た。  *  *  * 「こんにちわーっ!!」  挨拶をしながら部室のドアを開けると、日高先輩と砂川先輩がパンツ姿になっていた。おそらく着替えの最中だったのだろう。 「おっ、君達か。早速練習を始めるから、着替えて運動場を3周してこい。一応、近くに共用の女子更衣室があるから、奈々はそっちね」  日高先輩はユニフォームを着ながら言った。 「はい」 「じゃ、僕達は外で先にアップしておくから」  そう言って、日高先輩と砂川先輩は部室を出ていく。その後雷が少し恥ずかしそうにして奈々に耳打ちした。しかしこちらにも聞こえている。 「……そういえば奈々、アレ見て良かったのか? 俺と悠人は男だけど、お前女だろ」 「え?」  奈々はきょとんとしている。しばらく沈黙が続いたあと、それを割るように雷が言葉を続けた。 「……あー、耐性あるのね。じゃあいいや。着替えてくる」  雷が部室に入ったので、続いて僕も部室に入った。  *  *  * 「ねぇねぇ、ホノカちゃん」 「何?」  教室で本を読んでいるホノカに、一人の女友達が駆け寄ってきた。 「うちのクラスの雷太くん、サッカー部に入ったんだって!」  ホノカは視線を本から女友達に移した。 「へぇ、雷太くんが?」 「うん! かっこいいよね、サッカーをするイケメンって……あぁ~惚れちゃうなぁ~」  網走雷太は、その整った顔と綺麗な容姿で、クラス内の人気男子ランキングのトップに君臨していた。雷太本人や友達の悠人はそれに気付いてないようだが。 「雷太くん以外に、誰が入ってるの?」 「え? えーと、奈々ちゃんと、悠人くん……だっけ?」  その言葉を聞いて、ホノカの目付きが変わる。 「悠人くん!?」 「えっ、ちょ、どしたの急に!」 「……ああ、いや、なんでも」  様子の急変を女友達に指摘され、ホノカは落ち着きを取り戻した。 「……私、小学校が私立の女子校だったからさ。生まれて初めての男友達が悠人くんだったもんで、つい過剰に……あはは」 「へぇ……」  その理由にしてはあまりにも急変し過ぎたことに若干引いている友人をよそに、彼女は教室の窓からグラウンドの方を見ていた。  *  *  *  僕と雷はアップを終えていた。 「はぁ、はぁ……中学の運動場って広いんだな」 「うん」  僕は息切れしているのに、雷はまるで平気な顔をしている。相変わらず、スピードと体力はピカイチな親友だ。 「ゼェ……ゼェ……二人とも……速い……」 「ごくろうさん」  少し遅れて、奈々がアップを終えた。 「君達、アップ終わった?」  そこに日高先輩がやって来た。何人かの部員を連れてきている。砂川先輩以外は初対面みたいだ。 「はい」 「よし、部員も揃ったし、改めて自己紹介しよう。僕は日高(ひだか)(のぼる)。この部活のキャプテンを務めている。よろしく」  日高先輩に続いて、他の人達も自己紹介を始めていった。 「俺は砂川(すなかわ)修司(しゅうじ)だ。副キャプテンを務めているぜ。よろしくな」  昨日の入部試験で、『サンドハイディング』を使用した人だ。近くで見ると、やはり背が低い。 「僕の名前は舞浜(まいはま)東矢(とうや)。同じく副キャプテンだ。よろしくね」  舞浜先輩はスレンダーな体型だ。髪の毛は所々はねていて、少し伸ばしたミドルヘアーになっている。 「俺は岩嶋(いわしま)(りょう)だ。よろしくな」  岩嶋先輩は、この中で一番体格が大きい。坊主頭で、眉は太い。 「……蛇腹(じゃばら)弖王(ておう)」  蛇腹先輩は、ジト目でこちらを見てきた。髪は日高先輩よりボサボサで、目が少し隠れている。 「川中(かわなか)正真(しょうま)だ。多分覚えてるだろ。よろしく。本来はディフェンダーだけどな」  ……あっ、この人、キーパーやってた人だ。忘れていたけど、頭の赤い帽子が特徴的だったのはかすかに覚えている。 「佐倉(さくら)龍大(りゅうだい)です。よろしくお願いします」  こちらの礼儀正しい佐倉先輩は、ショートぱっつんで、眼鏡をかけている。頭の良さそうな人だ。 「以上、新町中サッカー部だ。これからよろしく」  全員の自己紹介が終わった。  ……あれ? 先輩達の数は7人。僕達を合わせても…… 「日高先輩、あと一人はどこにいるんですか?」  日高先輩の顔が一瞬ひきつった。はぁ、とため息をつき、日高先輩はゆっくり答えた。 「……いないよ。この部活はこれで全員だ」

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