混沌のファンタジスタ 〜魔法のある世界で人々はサッカーの夢を見るか?〜

読了目安時間:4分

憤怒の鎮魂歌

 ドォゥン……ッ!!  立ち止まっている乙武さんから、強大なオーラの波が発せられた。 「うおっ!?」  ボールを奪った琉亜が前につんのめって倒れ込んだ。その衝撃波はグラウンド全体に広がり、僕のいるところまで強風が吹き荒れ、危うく飛ばされそうになる。 「何が起こってるんだ……?」  僕は足を踏ん張って風に耐えながら、衝撃の中心で何が起こっているのか目を凝らして確認する。そこにいたのは、  ……倒れた琉亜を見下ろしている乙武さんだった。 「許さなイ……このチーム……全員……!!」 「ぐぅ……っ」  乙武さんはうめく琉亜を放置して攻めようとする。止めにいかなければ! 「待て……」 「『オクターブステップ "|silent(サイレント)"』」 『 』ッ!! 「ぐぁっ!!」  いきなりの衝撃波。踏み込んだ、ただそれだけなのに。何も音がしなかったのに、『オクターブステップ』が発動したのだ。  2度目の衝撃波に耐えきれず足が離れた。僕は後ろに飛ばされながら、怒りに満ちている乙武さんの顔を、その目を、ハッキリ見た。  赤く染まっていた。  否、赤く輝いていたのだ。  僕は地面を何回もバウンドして転げ回った。すぐに起き上がろうとしたが身体がよろけて膝をついてしまった。平衡感覚が言うことを聞いてくれない。  あの時から練習を重ね、こちらも強くなっているので気絶せずに済んだ。だけど相手のパワーアップも伴い、全身に大ダメージを負っているようだ。 「悠人! ……ちくしょう、よくも悠人を!!」  やられてしまった僕を見て、雷が半ばヤケクソの反撃に出た。まずい、このままでは彼まで……! 「雷! やめろぉっ!!」 「『ボルテージタックル』!!」  僕の声は彼の魔法に掻き消された。雷が稲妻のごとく瞬間移動してボールを奪いにかかる。 「遅イ……!」  乙武さんはそのスピードを完全に見切っていた。雷が瞬間移動してきたところに先回りし、ボール越しに雷の鳩尾を蹴りつけた!  『メキッ』という全身の血が引くような残酷な音。その発信源は雷の身体だった。 「ゲハッ……!!」  雷は声を押し出されて、その場に力なく倒れ込んだ。 『これは(むご)い! 様相が一変した乙武選手、網走選手を蹴り飛ばした!! しかしこの大会は革新派ルール統一! ファウルにはなりません!! しかし、これは流石に……』  実況すら言葉を失いかけている。  一言で言って、強い。これが『革新派』のサッカー。あくまで戦闘。『保守派』の僕達とは考え方が違いすぎる。  開陽中とは全く形の異なる脅威だ。  しかし、負けるわけにはいかない。なんとしても、ここで乙武さんを止めなければいけない。  僕は力を振り絞ってなんとか立ち上がった。わき目も振らずに歩きながらドリブルをしている乙武さんを止めるため、僕は走り出し…… 「乙武先輩!」  そこに来たのは、狩山だった。なにやら心配そうな表情をしている。  なのに乙武さんは狩山の方を向いてくれない。どんどん前へ進んでいく。 「一旦止まって……僕にパスをください」 「…………」  またしても無視。 「……乙武先輩!!」 「うるせェッ!!」  乙武さんが狩山の方を向いて、赤い目を光らせた。耳を(つんざ)くような音と共に風が吹き荒れ、狩山は後方へ吹っ飛ばされた。 「うわぁっ!!」 『なんと乙武選手、味方の狩山選手まで容赦なく吹き飛ばした!!  なんとも傍若無人な単独プレイを続けている!』  狩山は芝生を転げ回った。しばらくして止まり、彼は地面に埋もれていた顔を弱々しく上げた。 「乙武……先輩……」  僕に彼が見えた光景がどんなものかは分からないけど、それがとても絶望に満ちているものであることは、彼の小さくなった瞳から分かった。  乙武さんは、一歩ずつ新町中ゴールへと近づいていく。その赤い目は敵も味方も寄せ付けなかった。  そして、ペナルティエリアに入ったところで、足を止めた。 『この試合、もはや乙武選手の独壇場となっている! ゴール前まで来たが、どんなシュート魔法を繰り出すのか!?』 「…………ぶっ潰してやル」  彼は足を大きく振り上げた。すると周りから五線譜を型どったオーラがボールに入っていき、ボールは黒色に染まっていく。 「『レクイエム』っ!!」  叫びと共に、強烈なシュートが放たれた。  そのシュートは五線譜の黒いオーラを放出しながら、新町中ゴールへと飛んでいく! 「『フレイムシールド』!!」  奈々はその姿に怖じ気付きながらも『フレイムシールド』を繰り出し、応戦する。  しかし、『レクイエム』がぶつかった瞬間、『フレイムシールド』は力なく消え去ってしまった。 「っ!?」  奈々が言葉を発する暇もなく、ボールは彼女の脇腹を掠めてゴールへと入ってしまった。  ピピーーッ!! 『ゴォォォル!! 乙武選手、なんと一人で新町中に同点をあげた!! 』 「なんだよ、あのシュート……」  遠くにいた僕でも、『レクイエム』に込められた禍々しい絶望を感じた。あれはとてつもなく恐ろしいシュートだった。 「まダ……まだ足りなイ……全部潰シテ……」  乙武さんはその悍ましい表情を変えることなく、一人ブツブツと喋っていた。  そして、  ピッ、ピーーーッ!! 『おおっとここで前半終了!! 新町中とロレース中、1-1の引き分けで後半戦に臨むこととなった!!』  乙武さんへの恐怖。脅威。絶望。  それぞれ思いを抱えたまま、前半が終わった。  JFC新町地区大会1回戦第1試合  前半終了  新町中 1-1 私立ロレース学園

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