混沌のファンタジスタ 〜魔法のある世界で人々はサッカーの夢を見るか?〜

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 観客席。  開陽中の土屋健太と樋上烈は、この試合を観戦していた。 「1-1……どちらも互角ですかね」 「ああ。健太はどっちが勝つと思う?」  烈は、まるで自分の答えを確信しているかのように、健太に尋ねた。 「えーと、純粋な力量はロレースの方が上だし……でも新町だって俺らと引き分けたくらいだから……」 「俺は新町が勝つと思う」  健太が答えを探している間に、烈は強引に自分の答えを言ってしまった。 「……なんでですか?」  当然、健太の思考が一時中断してしまう。しかしそんな事などお構い無しに、烈は話を続けた。 「健太は、約束を絶対守る自信があるか?」 「え? えーと……絶対っていうのには少し語弊がありそうですけど、大体は守ります」  その返答を聞いて、烈はフッと笑みを浮かべた。その赤みがかった黒の瞳には昇の姿が映っている。 「そうか、なら君も新町が勝つと思うはずだ」 「え……?」  *  *  * 「ミーティングを始める」  ハーフタイムの最中、銀鏡監督は僕達を集めてミーティングを始めた。 「まず、前半の総評だ。最初は押されたものの、琉亜の活躍で先制点を奪うことができた」  ベンチに座っている佐倉先輩が、けっ、とふて腐れた。 「だが、途中でロレース中キャプテンの乙武選手が暴走を始め、同点に追い付かれてしまった。それについては、俺に言うことはない。誰も止められないのはベンチからでも分かった」  銀鏡監督の真剣な表情から、ベンチからでもあの脅威を感じ取れる乙武さんの暴走の酷さが分かる。 「それでだ。琉亜」 「はい」  唐突に呼ばれた琉亜にみんなの視線が集まる。 「お前、後半はディフェンスに下がれ。代わりに弖王(ておう)をミッドにあげる」 「はっ?」  琉亜の顔が一瞬にして曇った。 「いいな?」 「……はい」  しかしながらも、それを黙認した琉亜。何か腑に落ちる理由でもあるのだろうか。 「以上でミーティングは終わりだ。後半は何としてでも一点をもぎ取れ」 「はい!」  ミーティングが終わってからも、琉亜はずっと一人黙って何かを考えていた。MFの彼がDFに下げられた理由。この時は、僕には全く分からなかった。  同時刻、男子トイレで顔を洗っている一人の選手がいた。 「……俺が『弱い』だなんて言われるわけがない」  彼は蛇口を逆方向にひねった。顔から水が滴り落ち、緊迫した静寂を割る。 「……俺は、あの時とは違う。比べ物にならないほど強くなったはずなんだ」  彼の目が赤く光っていたのは、水が目にしみて充血したから、とかいう単純な理由ではなかった。  *  *  * 『さあ後半戦の時間が近づいてまいりました! 新町中はなんと先制点をあげた風祭選手をDFに下げるという意外な手を打ってきました。新しい作戦に期待です!  一方ロレース中は、またしても乙武選手の独壇場となるのでしょうか、それとも新しい手を打ってくるのか?』  ピピーーッ!! 『さあ、ロレース中のキックオフで後半戦スタート!!』  僕は乙武さんを警戒していたが、FW二人は意外な行動に出た。 『おっとこれは……ワンツーパス?』  なんと、乙武さんにボールを渡すことなく、二人で新町中に攻め込んだのだ。狩山ともう一人のFWが、ワンツーパスを上手く使って新町中のディフェンスを次々とかわしていく。 「『ハンティングシュート』!」  ゴール前でパスを受け取った狩山が『ハンティングシュート』を放った。しかしこれは『フレイムシールド』に止められた。 『狩山選手、2度目の『ハンティングシュート』を放ったが、ゴールネットを揺らすことが出来ない!』  奈々がパントキックで舞浜先輩にボールを渡そうとした。しかし、落下点を読んだ乙武さんも待ち構えている。  と、そこにロレース中のMFが走ってきた。 「どけっ!」  そのMFは、舞浜先輩と乙武さんをもろとも抑え込んでボールをトラップし、すぐさま狩山にパスを出した。 「『ハンティングシュート』!!」  またしても狩山が『ハンティングシュート』を放った。今度は少し遠い距離から打っていた。 「『フレイムシールド』!」  これもさっきと同様に、奈々の『フレイムシールド』であっけなく止められてしまった。 『狩山選手、焦っているのか、シュートの威力が不安定だ!』 「なんでだよ……!!」  その姿を見て、なんとなくロレース中の意図が理解できた。ロレース中は、なるべく乙武さんにボールを渡さずに逆転しようとしている。それをし続ければ、暴走もいつか止まるかもしれない、と。  しかし、その作戦は上手くはいかなかった。 「どけッ!!」 「うわっ!」  ロレースが3度目の攻撃を仕掛けようとしている途中、乙武さんは味方からボールを無理矢理奪い取ったのだ。赤き目を光らせ、そのまま一人でゴール前まで攻め込む。 「もう一度、ぶっ潰ス!! 『レクイエム』!!」  彼は2度目の『レクイエム』を放った。一度止められなかった奈々はそのシュートにビビったが、なんとか止めようとして右腕を構えた。  しかし。 「うおおおっ!!」  DFにまわっていた琉亜が、奈々の前に飛び込んできた。彼はその場で回転ジャンプし、右足を振り抜いた。 「『ランス・オブ・ウィンド』!!」  黒く禍々しいシュートが彼の右足に激突する。  なんと、『レクイエム』を『ランス・オブ・ウィンド』で蹴り返そうとしているのだ。 「ぐっ……ぐぉぉっ……!」  いくら琉亜でも、憤怒に塗れた乙武さんの全力と真正面からぶつかり合って勝てる相手ではない。シュートを食い止める右足には相当な負荷が掛かっているようだ。  だが、彼は退くことはなかった。 「うおりゃぁぁぁぁあっ!!」  突風が吹きすさび、『レクイエム』は蹴り返されて乙武さんの横顔を掠めた。  JFC新町地区大会1回戦第1試合  後半9分  新町中 1-1 私立ロレース学園

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