混沌のファンタジスタ 〜魔法のある世界で人々はサッカーの夢を見るか?〜

読了目安時間:4分

できれば点呼はしたくない

「全員って……10人?」  僕は目を丸くする。 「ああ、君たちを含めて10人しかいない。人数が足りないのは毎年一緒だ」  日高先輩はもう少し詳しく新町中サッカー部の現状を伝えてくれた気がしたが、僕にはほとんど聞こえていなかった。  嘘だろ10人って。新町中ってこんな弱小じゃなかったはずだ。だって転移前のあっちの世界では―――― 「JFC静岡県大会準決勝第2試合、新町中VS瀬乃山中! ついに後半が始まりました!」  小6の夏だっけな。僕は当時テレビ中継されていた全国大会の県予選を全試合リアルタイムで見ていた。  その中でも一番白熱したのが、準決勝第2試合の新町中VS瀬乃山中。後半の途中まで1-1の同点で、一進一退の攻防を繰り広げていた。  だけど後半24分。 「おっとここで新町中の一人がボールを持って飛び出した! 1年生の…………選手! 3人、4人抜いて……おおっと5人目!! そしてシュートが……決まったぁぁぁっ!! 新町中2点目のゴール!!」  あの時勝ち越し点をあげた1年生が、僕の心を強く打った。僕も新町中に入って、こんな選手みたいになりたいって思ったんだ。  確か、その選手の名前は―――― 「おい!」 「い゙っ!?」  雷に頭を叩かれた。同時に目の前がクリアになる。どうやらしばらくの間妄想に浸っていたみたいだ。 「お前、放心しすぎなんだよ! 口ずっと開いてたぞ」 「ご、ごめん」  どうやらお得意の妄想癖が発動していたのは珍しく雷にバレなかったようだ。あ、そうだ、一つ質問したいことが。 「あの、気になることがあって、去年の全国大会の結果ってどうだったんですか?」  その質問に、日高先輩が一瞬眉をひそめた。他の先輩達も少し気まずそうにしている。 「大会なんて、出てないぞ。去年も11人揃わなかったしな」  ……えっ? じゃあ、あの大会の新町中は、『こっちの世界』では存在しなくて、こっちは弱小校……まさか、2つの世界にここまでの変化があっただなんて。  そんな僕をよそに、日高先輩は話を続けた。 「だから、1年生を一人、サッカー部に勧誘してほしいんだ」 「勧誘……」  僕達三人は、お互いに顔を見合わせた。 「……誰かいる?」  僕が二人に意見を求める。両者とも険しい表情だ。 「うーん、私達のクラスにはいなさそうだけど」  奈々には心当たりは無いようだ。 「他のクラスと言っても、俺達全員6組だからなぁ……」  雷が苦笑しながら言った。つまり、今誘える人はいない。  僕は日高先輩に「いないです」と伝えた。すると日高先輩は顎に手を添えて、何かを考えているように見えたが、すぐにこちらを向いた。 「そうか……じゃあ、来週までに最低一人、集めてきてくれないかな?」  一週間……いけるんじゃないかな? 両隣の二人も納得いった様子。 「それじゃ、それまでに集めておきます」 「そっか、ありがと。一応この話は終わり。練習始めようか」  *  *  * 「疲れたぁぁぁ……」  空は既に夕焼けの色に染まっていた。さっき甲高い声を上げたカラスは、新町市営公園の木の上に止まっている。  今日は初練習だというのに、なかなかハードだったな。ずっとオフェンス練習でシュートばっか打ってたもんな。それに、たくさんの人が魔法を使ってきて、まだ『ハイドロブレイク』もうまく打てない僕は中々苦労した。  それに部活に入ってくれる人を探さなきゃ。奈々は心当たり無いって言ってたけど、もしかしたらいい人がいるかもしれない。うちのクラスでサッカーやってくれそうな人は……えーと…… 「あっ、悠人くん!」  最近よく聞く声に振り向くと、ホノカさんが立っていた。沈みつつある夕日が照らして、ホノカさんの顔は少し赤く染まっている。 「あれ、ホノカさん。帰り道こっちだっけ?」 「いや、今日は別の道を通ろうって考えてたら、ちょうど悠人くんの道と被ってたみたい。そうそう、悠人くん、サッカー部入ったんだっけ?」 「入ったけど……」 「カッコいい! 私さ、小さい頃からサッカー好きの親に育てられてきて、サッカーやってる人好きなんだ」  僕の顔も赤く染まった。逆光のはずなのに。いや、もしかしたらホノカさんより染まってるんじゃないかこれ。  あれ? でもサッカーに興味があるってことなのかな? もしかしたらマネージャーとかどうだろう? 「それじゃ、マネ……」 「あ、明日サッカー部見に行ってもいい? 結構興味があるんだ」 「えっ、いいけど」  まさかのホノカさんに先手を突かれた。もしかしたらマネージャーに興味が……? 「ありがとう! じゃあ、明日の放課後、運動場に行くね! それじゃあバイバイ!」  ホノカさんは手を振ったあと、僕を追い越して先に行ってしまった。僕は振り返そうとしたが間に合わなかった。 「マネージャー……か」  ホノカさんがマネージャーになったら、どうなるんだろう? 練習で汗をかいた僕に、彼女がタオルを渡すシーンが目に浮かぶ。  ……いけない、ニヤついてしまった。    *  *  * 「そっちはどうだい? 今年こそは11人集められそう?」  悠人達がいなくなった直後の市営公園で、二人の少年がサッカーボール片手に談笑していた。 「あと一人、ってとこかな」  メガネの少年、日高昇は自分の身体の前でボールをクルクル回しながら答えた。 「なるほどねぇ。じゃあさ……」  もう一人の少年は少し考え込んだ後、彼にこう言った。 「11人集まったらさ、俺達と試合しようよ」

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  • エリナ(QB)

    透明ちゃん

    ♡300pt 2020年4月25日 9時56分

    キャプテン他力本願すぎぃぃぃぃ(´・ω・`)

    ※ 注意!このコメントには
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    透明ちゃん

    2020年4月25日 9時56分

    エリナ(QB)
  • 復讐乙女 ネメシス(デンドロ)

    POИY

    2020年4月25日 16時27分

    1年生を利用して1年生を獲得しようとした彼なりの作戦ですね。でもやっぱり自分で集めた方がいいんじゃないかなって思っちゃいます(笑)

    ※ 注意!この返信には
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    POИY

    2020年4月25日 16時27分

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