混沌のファンタジスタ 〜魔法のある世界で人々はサッカーの夢を見るか?〜

読了目安時間:4分

責任

「ぐ……っ」  突然、後ろの方から琉亜のうめき声が聞こえた。思わず振り返ると、身体の5、6箇所に刺し傷を負った琉亜が倒れている。 「る、琉亜!? 大丈夫!?」  急いで琉亜へかけ寄ると、それらの傷がハッキリと見えてくる。右肩や左脇腹の服は破けて穴が開いているが、ペールオレンジ色の肌が見えることはない。  その部分は赤黒い液体で満たされ、中身は泡立て機でかき混ぜられたようにぐちゃぐちゃになっている。 「琉亜!」 「大丈夫か?」  僕や雷以外のメンバーもぞろぞろと集まってきた。みんな勝利の感傷に浸っている暇などない。 「い、いいんだ。これくらい20分あれば治る……」  この前の対抗戦での日高先輩の全身火傷は4分で治った。この世界の異常な治癒力を持ってしてでもそれだけかかるとは…… 「とりあえずベンチで休んどけ!」  岩嶋先輩と川中先輩が琉亜の手足を掴んで持ち上げ、急いでベンチへ運んでいく。彼はそこで仰向けになった。  その姿を見ていて、僕は何か突っかかることがあった。 「……ねぇ」 「……何?」 「ちょっと思ったんだけど、琉亜ってさ、どうして自分を犠牲にしてまで突っ張ることができるのかなって」 「え?」  僕の質問を聞いて、琉亜がうっすらと目を開けた。 「ええと、前半も危険を(かえり)みないプレーで先制点取ってたけど、特に後半ディフェンスに下がってからは自分が傷ついても全部平気なように守ってたし」  琉亜はじっとこちらを見ているが、何かを考えているようだった。少し間が空いて、琉亜は答えを返した。 「……全部、俺の責任だったからだよ」 「へ?」 「前半で一点取り返されたのも、俺が相手を怒らせてしまったからだ。だから俺はその責任をとった。それだけだ」  その言葉は、なんとも言えない感じに僕の心に刺さっていた。  別に責めたい訳じゃない。彼は正論を言っているから。  でも、当たってるのに間違ってるような気がするんだ。 「……それは少し違うよ」  そこに日高先輩が割って入った。どうやら考えていることは僕と同じだったらしい。 「えっ……?」 「お前はサッカーが何なのか分かっていない。サッカーはな、見ての通り"チーム戦"だ。  チームで戦い、チームで喜び、チームでお互いの欠点をカバーしあう。もちろん、お前が言っている責任もチーム全体で負うものなんだ」  日高先輩のその目は、琉亜に刺さるように語りかけていた。琉亜はそれに応えるように日高先輩を見つめ返している。 「あれほど責任って言ってるけどな、あれはお前がミスったんじゃない。ミスったのは新町中(・・・・・・・・・)だ」 「……!」  琉亜は何かに気付いたようだった。 「でも、後半ディフェンスに下げられたのは……」 「あれは蛇腹の試験運用だ」  そこにさらに銀鏡監督が割って入ってきた。 「蛇腹は『蛇神の瞳(サーパントアイズ)』というドリブル魔法を使える。それが攻めに上手く運用できないかと思って、試験的にポジションを変更したんだ」 「……」  ずっと背負っていた何かが剥がれ落ちたように、琉亜の表情が頓狂な面になっていく。 「……なぁんだ、そういうことだったのか」  彼はすっかり安堵していたようにセリフを吐いた。それを聞いて、銀鏡監督はみんなに注意を促した。 「とにかく、まずは1回戦突破おめでとう。午後には2回戦もやるから、準備しておいとけ」 「はい!!」  みんなの返事に合わせる中、僕は考え事をしていた。  この試合を通して、琉亜が責任強い人間だということは分かった。だけどあそこまで切羽詰まった態度を取られるとなんだか……  過去になにかあってもおかしくないよな? 「……本当に新町中が勝っちゃいましたね」 「だろ? 俺の予想は大体当たるんだ」 「すごいですキャプテン!」 「お、そろそろ開陽中の試合だ。準備するぞ」 「は、はい!」  *  *  *  午前中で、1回戦は全て終わった。  第1試合、僕達新町中と強敵ロレース中の対戦。途中乙武さんの暴走もあったけれど、それでもなんとか2-1で勝利した。  第2試合、間宮(まみや)中が一進一退のシーソーゲームを3-2で突破。  第3試合、田頼中がその鉄壁のディフェンスで相手に一点も許さず3-0で突破。  第4試合、桜田(さくらだ)中が1-0で勝利。  第5試合、外我(ほかわれ)中が5-1という大きな差をつけて勝利。  第6試合、長屋(ながや)中が2-1で勝利。  第7試合、李花山(りかやま)中が4-2で勝利。  そして第8試合、開陽中がなんと10-0という圧倒的大差をつけて余裕の初戦突破を果たした。 「次は間宮中か……」  僕と雷は、蛍光ペンでこれまでの結果が引いてあるトーナメント表を見ていた。 「間宮中って、ロレース中より強かったっけ?」 「いや、確か攻撃面はそんなに強くなかったはず」  雷がそう答えながら、横からトーナメント表の『間宮中』を指差した。 「でも守りは結構固いことで知られているな。田頼中ほどではないけど、そう沢山点をとれる相手じゃない」  そう言いながら、彼は『間宮中』のところを指でトントンと軽く叩いた。 「ま、とにかく頑張ろうってことよ」 「そうだな」 「おーい、昼飯の時間だぞ!!」  後ろの方から日高先輩の声が聞こえた。近くに掛けてあった時計を見ると、短針は12を指している。とその時、僕と雷の腹の虫が同時に鳴いた。 「……ハハッ、それじゃ行くか」 「おう!」  その音に(そそのか)され、僕と雷は一斉に走り出した。

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