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臆病者、神に至らんとす!

読了目安時間:5分

006 不幸は密に降る

+++  辺境守の屋敷から少し離れた所に少女アーリアは住んでいた。  神都や王都と比べればこの街は小さいが、生まれてから一度も街を出たことのない子供たちにとって重要なことは周りに何があるかではなく、周りに誰がいるか、だろう。  ヒロにとってのそれは、負の意味で兄のガロやロンド、父ウーラスだ。  そしてアーリアにとっては、正の意味で、ヒロがそれだった。 「あの、今日もヒロはいないんですか?」  ヒロがいるはずの屋敷を、アーリアはここ数日毎日訪れている。 「ヒロ様は戻ってませんわ。そのうち戻るんじゃないかしら?」  メイドのイーナンディが無表情で昨日と殆ど同じことを告げると、アーリアは静々と屋敷を後にした。 「ヒロ、どこに行っちゃったの・・・?」  街外れにある巨木にスルスルと上り、ヒロと苦労して作り上げた秘密基地でうずくまるアーリア。   日々募っていく悲しみのやり場をどうすればいいのか、アーリアには分からなかった。 +++  アーリアにとってヒロとの出会いは思い出せるような特別なものではなく、けれどヒロとの日々は間違いなく特別だった。 「あ、臆病者が出た! ヒヨリがうつるぞ!」 「いっつも端っこばっかり歩いて! 弱っちいな!」  ヒロは兄二人が友達付き合いを通じて臆病者のレッテルを触れ回っていたせいで、まともな友達がいなかった。 「"災いの家" の子よ!」 「あー、近付くと穢れちゃうわ〜」  一方でアーリアもそんな言葉を投げ掛けられる日々を過ごしていて、やはり友達がいなかった。  子供たちはヒロ自身を知っているわけではないし、アーリアが "災いの家" と呼ばれる家に仕方なく住んでいる事情もよく知らない。  けれど子供は簡単に残酷になれるし、つまり必ず犠牲になる子供がいる。  街外れでお互い一人で過ごすことが多かったため、二人はいつしか仲良くなって、よく一緒に遊ぶようになった。  特に巨木は格好の遊び場で、幻惑の森側の外れということもあって他の子供たちは殆ど近付かなかった。 「あいつらいっつもあの木のとこにいるぜ。幻惑の森に近いってのに。」 「何か企んでるのかしら・・・。」  そんなふうに言われているとも知らずに。  一人ぼっち同士の二人は相性が良かった。  巨木だけでなく、川や丘へも行ったし、遠巻きにされながらも街の祭りを二人で楽しんだりもした。  けれどそんな穏やかな日常は、無邪気な悪意によって影を濃くすることになる。 +++ 「ねぇアーリア。あそこ、煙が出てるね。」  その日も二人で遊んでいると、巨木から街を眺めていたヒロが街の異変に気付いた。 「・・・どこ?」 「ほら、あの赤レンガの建物の向こう。」  見れば、確かに灰色の煙が上っている。そしてそれは・・・。 「あれ・・・?」  アーリアは胸騒ぎを覚えた。 「あれって・・・え・・・?」 「どうしたの、アーリア。」 「ヒロ、あれ私の家じゃないよね・・・?」 「え・・・?」  ・・・二人は木から降り、そして駆けた。  煙は近付くにつれて量が増えている。そして、次第に火柱さえも見え始める。 「そんな!私の家が・・・!」  火の周りでは消火隊が大声を掛け合い、せっせと立ち回っている。  ・・・野次馬の隙間から見えた火事の出処は、アーリアの家に他ならなかった。 「お母さん! お父さん・・・!」  いつもならこの時間は家にいない両親。しかし今日の休日に合わせて昨夜は遅くまで内職をしていたために、寝ていたかもしれないことをアーリアは思い出す。 「・・・ダメだよ!それだけはダメ!」  燃え盛る火の海に飛び込もうとするアーリアの手を掴んでヒロが止める。 「離して!」 「絶対に離さない!」  何だ何だ? と野次馬の視線が集まりきる前にヒロはアーリアを無理やり路地に連れ込み、強く抱きしめた。 「お母さんもお父さんも、家にいないかもしれないだろう? それに僕はアーリアがいないと、寂しいよ。」 「でも、でも・・・!」 「でも、ダメだよ! 絶対に行かせないから!」 「うぅ・・・うあっ。うわぁぁああああああ!!!!」  大して力は違わないはずなのに、妙にしっかりと抱きしめられているその温もりと、それからヒロの言葉にアーリアは動けなくなってしまった。  そしてパチパチと爆ぜる家の音や消火隊たちの喧騒に混ざって、大声でいつまでも泣いていた。  後日、焼け跡からは二人分の焼死体が見つかった。  火の出処は家の中ではなく、"災いの家" をなくしてしまえ、と遊び半分で子供たちが火をつけたことが明らかになった。  街の有力者の子供が多数関わっていたことや、元々 "災いの家" がよく思われていなかったこともあり、この一件は有耶無耶にされてしまう。  そして一人の孤児が生まれ、孤児は境遇を不憫に感じたという子供のいない家に引き取られた。 +++  ・・・不幸は連鎖した。  ショックのあまり寝付けない日々を送っていたアーリアは、引き取られた数日後の真夜中、里親ということになる二人の男女の恐ろしい会話を耳にする。 「ちょうどいい所でモノが手に入ったわね。」 「あぁ。それに悪くないどころか・・・上物だと思わないか?」  一体何のことだろう?  アーリアはそっと寝室の扉を薄く開けて、二人の会話に集中する。 「商人が来るのは明後日だったか?」 「そうだね。いい金になりそうだよ。」 「龍人向けだってんだから、どういうつもりかとは思うがな・・・。」  アーリアは恐怖で顔が引き攣り、起きていることがバレないようにゆっくりベッドに戻ると、声を殺して訳もわからず泣いた。  それから、たった一人の友達しか頼みの綱がないことを思って、更に泣いた。 「ヒロ・・・! うぅっ・・・・うあぁぁぁぁん!!」  翌日、巨木の下。  溢れ出す悲しみと一緒に吐き出すように、アーリアは里親の裏の顔と、猶予が一日しかないことをヒロに話した。 「そんな・・・。」  あまりにも酷なアーリアの境遇に愕然とするヒロ。  しかし幼心に、ヒロはただ一人の友達を助けることを決心し、約束を誓う。  似たような境遇の、どうしたって救われるべき少女の姿に、ヒロは自分の境遇を重ねていたのかもしれない。  ・・・そして二日後。  ヒロは初めて自覚的に、そしてこれ以上ないほどに明確に、他者を害したのである。  人身売買の商人と末端構成員が何者かによって殺され、彼らの素性を明かすメモが残された。  孤児は再び孤児となり、修道院に引き取られた。  +++  "災いの子" アーリアはいつまでも忘れない。  自他ともに認める臆病者のヒロという光が、彼女の行く末を照らしてくれたことを。 「ヒロ、私を置いて行っちゃうの・・・? きっと戻ってきてくれるよね・・・。」

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