魔力適性ゼロの勇者候補生

読了目安時間:6分

エピソード:49 / 58

第四十五話 入念な準備

「大丈夫っすか、クラールハイトさん」 「あ、ありがとう」  ゴーグルを額に移し手を差し伸べる、赤みがかった金髪の男。  僕はその手をしっかと掴み、立ち上がる。  彼は確か七十二訓練場にいた生き残りだ。  名前は確か── 「ぜ、ゼンズフト……くんか」 「あれ、覚えててくれたんすか。意外っすねぇ、俺の名前覚えにくいから、最初っから覚えててくれたの、クラールハイトさんが初めてっすよ」  何故彼がここに来てくれたのかは分からないし、どうして敬称なのかも判然としない。  しかしそれらよりも、彼が(またが)る乗り物に僕の興味は惹かれていた。  車輪が前後に取り付けられた、特徴的な二輪車。  何より目を引くのはその車の素材だ。  車輪から外殻から何から何まで魔物の骨で構成されている。  前輪を包む頭蓋の眼窩には魔水晶が詰め込まれ、よく見ると動力なのか車の中にも魔水晶が組み込まれている。  全体的に無骨なデザインは、何故か男の意欲を駆り立てる伊達な様相。  僕は密かにその二輪車に心を奪われていた。 「あー……聞いてます? 俺の話」 「あ、ご、ごめん……ちょっとぼーっとしてた」  頭が働かないのは純粋に、大司教に与えられた攻撃が完全に癒えていないからだが。  そこに、二輪車に見惚れていた事実も含まれている事は否めない。 「とりあえず、脱出しましょう。こんな場所じゃあ四方山話も出来やしない」  敵に囲まれているのに一切怯えを見せないゼンズフトは、再びゴーグルを装着した。  だが、 「っ!? なんと……傲慢な奴かっ!」  何故か地面に尻餅をつき、鼻血を垂らす白金の髪の男。  信徒に肩を貸して貰い、鼻を抑えながら激昂し、 「私を轢いた挙句、ここから逃亡するだとっ!」 「まぁ、そう易々と逃す訳ないのよねぇ」  妖艶な女と共に退路を完全に塞いだ。  数の差は絶望的だ。  二輪車が不意打ちの突入で開いた群衆の穴も、すぐさま塞がれてしまった。  コレでは逃げることなど到底不可能に思えるが── 「掴まってくださいっす」 「──え?」  ゼンズフトは僕を軽々と持ち上げて、自分の背後に乗せた。  初めての感触だ。  シートも骨なので硬いには硬いが、軟骨なのか想像より少しだけ柔い感想を覚える。  だが掴まってとは、どういうことだろう。  どこかに手すりのような物が無いかと探すが見当たらない。 「腰に手を回すんす」 「あぁ、腰ね腰」  ゼンズフトの言われるがままに腰に手を回すが、どうもこっぱずかしい格好だ。  少しだけ照れてしまう。 「マジでしっかり掴まっててくださいよ。一気に行きます」 「一気に……って一体どうやって……?」  手元でゼンズフトが何かを操作した瞬間、二輪車の胴体部分から骨の脚が飛び出して脇に着地。  それはまるでバッタの様な骨脚だった。  そこまで種明かしをされれば、さすがにその後の展開も予想がつく。 「どうにも皆、乗り物は地を走ると考えてるみたいっすが……残念、最近の車は──空も飛ぶ」 「ま、マズい! 抑えろ!」  魔水晶から発する爆音は、魔素と水晶の術式が反応して起きる現象か。  ドゥルンという爆音と共に二輪車が振動を開始する。  同時、飛びかかる信徒達。 「遅いっすよ」  だが彼らが二輪車を捕縛する事はなかった。  充分に力が蓄えられた骨脚は地を蹴り飛ばし、数十メートルの距離を跳躍する。 「──わぁぁぁぁぁぁっっ!? お、落ちる!?」 「まだまだ。こっから本気の逃げっす」  重力が一気に消失する感覚の後、徐々に重さが戻って来るのは落ちている証拠だ。  それでもゼンズフトは余裕な態度でハンドルを捻った。  骨脚はそのまま伸ばす様に地面と平行になると、薄い膜を張り瞬く間に羽へと変化した。  魔水晶(どうりょく)が生み出すエネルギーは後部の排出口から炎を噴出し、推進力に。  つまり今、僕等は空を飛んでいた。 「す、凄いけど速いぃぃぃぃぃぃ」 「なるべく背中にくっついてくださいっす。離れると吹っ飛ばされますよ」 「ヒィィィィィィィッッッッッ!」  最初から最後まで、全てゼンズフトの手のひらの上で踊る様に動かされた僕。  空を駆ける機馬は何処へと向かうのか。  それはゼンズフトのみぞ知る事なのだろう。  結局僕は、何も分からず襲われて、何も分からず助けられた哀れなお姫様。  あぁ──お姫様と言えば、ティアとの約束を守れなかった。  彼女は騒動に巻き込まれていないだろうか。  それだけが、僕の心残り。  天空から抜け出した信徒集まる包囲網を眺め、そんな事を考える。  後で連絡を必ず送らねば。  ---  エイトが信徒の包囲網を抜け出した直後の話── 「何故だ、我らが教祖よ! 何故“神の鎖”をお使いになられなんだ!」  白髪白眼のヴァリッドに膝をついて、白金の髪の男は必死に直訴していた。 「慎めェい。貴様がここにいるからであろうがァ」  その訴えに、しかしヴァリッドは眉を(ひそ)め戒めた。 「わ……私が?」 「貴様……何故学園で我が自由に動けると思っている? 貴様の影武者としての役割が、果たされているからであろうがァ」  ヴァリッドの言葉に白金はハッとする。  自身の過ちに気付き、唇を噛む白金に追い討ちをかける様に、妖艶な女が口を開いた。 「さすがにぃ、私も神の鎖まで出されちゃったら幻術で誤魔化せないわぁん」 「メアルタハ……すまない。私が負担を掛けているというのに」 「仕方ないわよぉ、貴方の任務の為だからぁ、貴方の為ではないわぁん」 「そうだな……」  メアルタハの冷たい姿勢にそれでも尚白金は小さく頷いた。  彼らにとって教祖の目的遂行こそ絶対であり至福。  それ以外の行動意欲などありはしないのだ。 「現在進行形で見張りが監視を続けている。ならば私は一旦、学園へと戻ろう」 「その方がいいわねぇ……今も何とか教徒で囲って、更に幻術で誤魔化してるけどぉ、さすがに勘付かれちゃうかもぉ?」 「あぁ。では申し訳ない、教祖よ。先にお暇させていただく」  教祖ヴァリッドは頷きはしなかった。  しかし、沈黙を肯定と受け取った白金は一礼し、そのまま町の喧騒へと溶け込んでいった。  彼の帰途を見届けて、メアルタハはゆっくりヴァリッドに問いを出す。 「でも教祖様ぁ? あの子はどうするのぉ? 学園じゃあ、滅多に会えないのよぉ?」 「ふむゥ、捜索して見つからぬということは、それに付随する理由があるということだ。であればァ、我らが成すべきは現問題への対処ではなく、三次試験への準備であろうてェ」 「なるほどぉ……それじゃあ早速行動開始としましょうかぁ」  メアルタハはパンパン、と手を鳴らす。  それを合図にして教徒の群衆は、クモの子を散らす様に解散していった。  メアルタハもヴァリッドに一礼してから、町の人混みに消えていく。  しかしヴァリッドだけは、天へと逃げ(おお)せたエイトの影を追っていた。 「エイト・クラールハイトォ……、貴様は必ず我の手で、制裁を下す。我らが天使の名においてェ……必ずだァ……!!」  その手に握る分厚い教本が歪む程、力を入れる。  もう豆粒ほどのエイト達の影を、目視出来なくなるまでその目に焼き付けて。

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