魔力適性ゼロの勇者候補生

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エピソード:13 / 58

第十三話 ファースト・コンタクト

  『第二次試験の内容は、以下の通りだ。候補生の諸君らには世界各地に点在している、はぐれ魔物及び魔物の群生地にて、魔物を退治してもらう。  はぐれ魔物とは、魔王軍に属さず、魔族との関わりを断ち、無作為に人間を殺している魔物のことだ。  人を喰らい、力を上げ、厄災は広がるばかりだ。それを少しでも減らす為、尽力して貰う。  採点方法は魔物を倒す事で生まれる“魔核”を集める事。より退治し、より純度の高い魔核を持ってきたものは応じてランキングポイントを贈呈しよう。  そして今回、ランキングを下から数えて十人の人間には──勇者の資格なしとみなし、退学して貰う。  では、また学園で会えることを楽しみにしている』  そんな通達があり、僕らは今、大陸の西側──アイアンドットの領内を抜け、ナイトメアダークサイド(以下ナイトメアに略称)の領地内にいた。  とは言っても、ここにいる人間は全員、ナイトメアの出身でないので、土地に詳しいものはいない。  暗澹(あんたん)とした森。  昼だと言うのに、曇天は陽の光を通さず、真っ暗だ。  風通しも悪く、ジメジメした森の中を五人で進む。 「ちょっとだけ、怖いですね。エイトくん」 「まだ魔物の気配はしないけど……数十体はいるらしい。気をつけて」  ティアは杖を持ち、身体を武者震いさせている。  怖いと口では言っているが表情は真剣そのもの。  僕が言うまでもなく、ティアは周囲の警戒を怠っていない。  それでも気休めの言葉にティアは笑って返してくれた。 「ったく。今回の目標(ターゲット)二段階目(セカンド・フェーズ)。んで? 鹿……みたいな魔物っていうけど、さすがに情報が少なくないか? 何十体もいたら鹿みたいな奴の一人や二人いるだろうに」 「二段魔(セカンド)はその一体しか確認されてないのよ。他が一段魔(ファースト)ばかりってんなら、判別がつくでしょ? その、オーラみたいなもんでさ」 「……随分と大雑把な判断だなぁ。でも強い魔力を持つ者は、それだけで他と気配が違うって言うしな。先生達みたいな玄人なら気配を隠すんだろうけど、二段魔(セカンド)くらいなら……ま、見分けつくか」  僕らの後ろではパックとセキナがそんな風にぼやいていた。  話の内容は真面目なものだが、そこにかける姿勢はどうにも世間話くらいの心持ちだ。  そもそもパックは前衛なのだから前に出て、警戒をするべきなのだが、どうにも緊張感に欠けている。  いや──前に出ない理由は明白か。 「………………」  僕らの先頭を歩く、赤髪の女。  結局、今日この日まで僕らと連携の練習をとることはなく、会うこともなく、ただ一匹狼を貫いたアヤメ・フレイムクラフト。  彼女の放つ“話しかけるなオーラ”は自然、彼女へ歩み寄ろうとする意思さえへし折ってしまう。  結果、先頭を歩く彼女に誰も近寄れないでいた。 「ちょっと、どうにかならない? あれ」 「そんなこと僕に言われても……」  パックが煙たがるように囁くが、僕にはどうしようもない。  彼女はフラムと違って、ある意味王族らしい。  フラムは傲慢で人を見下す、天性の地位主義者だが、  アヤメはどちらかというと、王族の名誉(プライド)を重じる圧倒的なノブレス・オブリージュ。  徹底して弱みを見せず、  他人とつるまず、  そしてただ己を鍛える事のみを優先とする。  アヤメ・フレイムクラフトの噂はよく聞いていた。  王宮剣術指南役を全て打ち負かし、特別メニューをこなしている。  複数の教師より優れた知能で間違いを指摘し、授業中に立ち去る。  AA級の冒険者教師との純粋な魔術勝負で勝った。  なんて、都市伝説めいた話は後を絶たない。  正直、自ら壁にぶつかりに行っているような自虐を見ている気がした。  野次馬に囲まれ模擬戦をしていたあの時も、執拗に挑戦者を求めていたその姿。  自分で高く硬い壁を用意して、生身で突進するような、そんな──自暴の挑戦に、僕の目には映っていたのだ。 「一キロ────五……いや、六ね」 「え?」  その時である。  今まで沈黙を守っていたアヤメがボソリと何か呟いたと思うと、足裏が発光。  正体は炎。  炎の噴出する勢いで加速し、先に行ってしまった。  彼女の通った後には綺麗に炎が尾を引いて、(わだち)を残している。 「突然どうしたのよ、あれ」 「どうやら、魔物の気配を察知したみたいだ。俺にも……若干だがわかる。数体の魔物が……かなり先にいるな」  パックは耳に手を当てて周囲の音を聞いているようだ。  彼は元々森に住んでいてその時に野生の動物を探す嗅覚や聴覚を養ったそうだ。  そんなパックより正確に捕捉し、先手を打ちに行ったアヤメ。  さすが六王族(セクター)と言わざるを得ない。  暫く索敵をしていたパックの顔が笑みに歪んだ。 「はは……すげえ勢いで倒してる。五体……いや、もう十体は倒したな」 「頼もしい限りね、本当に。でも早くしないと私達の取り分もなくなっちゃうわ。急ぎましょう」  取り分、という言い方は気になったが確かに早く僕らも戦闘に参加せねばまずい。  特に僕は現在ランキング最下位だ。  せめて、二段魔(セカンド)を倒す事に貢献でもしないと、僕はこのまま退学を食らってしまう。  それはごめんだ。 「そうだね。ここでこそ、やっと僕らの連携の練習が活かされてくる場面だ。頑張ろう!」 「はい!」「おう!」「ええ!」  三人それぞれ、元気に返事をする。  僕らの連携も一ヶ月までとは比べ物にならない程上達している。  それを示す時が来た。 「そっちよ!」 「ああ!」  接敵、からの戦闘。  アヤメが行った方向とは別方向へと探索を開始し、数体の魔物と戦闘が始まっていた。  多対一に向く僕と、前衛のパックによる肉弾戦。  それを光魔術ティアによる支援とセキナの弓による援護。  前衛二人、後衛二人の万全な体勢だ。  数体を順調に撃破し、最後に残った魔物。  蜘蛛型牛頭の一段魔(ファースト)。  八つの足から繰り出される嵐のような連撃に加え、三メートルの巨体が所構わず暴れる姿は(まさ)戦車(チャリオット)。  進路の妨害となる木々を難なく薙ぎ倒し、僕らの猛攻から逃亡しつつも、口から炎の球を吐いて応戦してくる。  非常に厄介な敵だった。 「くそっ! 虫のくせに手こずらせるんじゃねぇ!」  加速で牛蜘蛛に肉薄するパック。  切断せんと横一線に足四本に切りつけるが、太い骨は断ち切る事を許さない。  致命的な傷に牛蜘蛛は叫声を上げた。 「──僕だって!」  前進し、斬りつけるは牛蜘蛛の胴体。  しかし脂肪が厚いのか血はほとんど出なかった。  僕の存在に気付いた牛蜘蛛がなりふり構わず八本の腕を振り回す。  それでも──避ける事に関して僕の右に出る者はいない。  八本の腕が織りなす絶対防御の猛攻を潜り抜け、そのデカイ鼻にナイフを突き刺した。 「Giyaaaaaaaaa!!!!」  噴水のように噴き出す紫色の鮮血。  それを真正面から浴びつつ、僕はすぐに背後にジャンプした。  なぜなら漸く──後衛二人が追い付いたからだ。  視界の奥から飛んでくる火の矢が牛蜘蛛に命中。  ジジジッ、という音共に爆破して、牛蜘蛛を更に追い込んでいく。  脚を切られ、鼻を突かれ、突然の爆破に牛蜘蛛は身体をふらつかせる──そこに、 「────神の裁定(サンダー・ボルト)!」  闇を切り裂く閃光が撃ち込まれる。  真っ暗闇の曇天に落ちた一筋の雷は、見事牛蜘蛛を焼き尽くし、身体を崩壊へと導いた。  倒れる事なく、  立ったまま、  灰のように身体は散っていった。  魔物の証たる紫の結晶、“魔核”だけをその場に残して。 「やりました!」 「さすがティアの雷だ。凄い威力」 「へへへ……」  ティアの光魔術はかなり希少で強力な雷の魔術。  準備に時間はかかるものの、威力はピカイチだ。  ティアも六王族(セクター)の純血なのだと感じる瞬間である。 「にしてもコイツだけ手こずったな。二段魔(セカンド)に上がる、直前だったかもな」 「そうなると厄介だったわね。早めに倒せてよかった」  パックとセキナが言うように、一段魔(ファースト)だったからよかったものの、もし進化していたならば、新たな脅威として認定されてもおかしくないレベルの強さだった。  それは……恐らくこの森の、環境のせいだ。  小一時間程調査して判明したが、どうやらこの森ははぐれ魔物達の避難場所、という面が強い。  暮らしやすい環境、陽がささず、人が来ないこういう環境で彼らはずっと力をためているのだ。  そして成長しきったその時、人間を喰らいに町に出てくるのだろう。 「さてと、まだ二段魔(セカンド)も見つけてないし、ちゃっちゃっと魔核を集めて……」  そう言って、セキナが魔核を拾おうとしたその時だ。 「シッ! 静かに……」  口元に指を当てて、パックは皆の行動を静止する。  ジッと耳に手を当てて周囲の気配を探っている。  そして、次に彼が目を開いた時、その表情は酷く青ざめていた。 「何か……来るぞ」  パックの視線の先。  誰も口に出さずとも、ただ肌を刺すような気配に気付いて、その先を追った。  遠く、遠く。  やっと見えるか見えないかと言うほど遠くに、一匹の鹿が立っている。  ただの鹿ではなかった。  顔は鹿の頭蓋骨のみ。  雄々しい角は木の根のように天に向かって広がっている。  身体は灰色の毛に覆われて、棒のような四本足はどうバランスを取っているのか、ふらつく事なく立っている。  なんとも恐ろしい、存在だった。  それが、試験の目標(ターゲット)の魔物である事は、皆が皆、見た瞬間に理解した。  見ただけで人の恐怖を煽るような存在感は生まれて初めてだったからだ。  誰も口に出さない。  ただ、冷や汗をかき、一歩も動かず様子を見る。  だが、確実に二段魔(セカンド)もこちらを認識しているはずなのに、  まるで興味がないように反転して、森の奥へと消えていった。 「ぷはぁーーーー!! ハァ……ハァ……、あ、アレが二段魔(セカンド)……だって?」 「話と全然違いますね……」  思わず息を止めてしまった。  ティアも胸に手を押さえて息を荒くしている。  二段魔(セカンド)とはあくまで、一段魔(ファースト)の進化体であり、恐るに足る魔物ではないと授業で習った。  主に駆け出しの冒険者が、次のステップに進む為の強敵としては認定されはするものの、  AA級の冒険者などが駆り出される場合のほとんどが三段魔(サード)以降の魔物だ。  それを考えると二段魔(セカンド)は大した魔物ではないと言う認識が強かったのだが……。  見ただけで身体の震えが止まらなくなり動けなくなるなど……話と違う! 「まぁ、だからこそアレが僕らの目標(ターゲット)になったんだろうね……。少し休んだらあいつの討伐に……ってあれ?」 「どうしました、エイトくん?」 「いや……パック達が」  いつのまにかパックとセキナが居なくなっている。  周囲を見渡しても人影すら見当たらない。  ──と、 「一体どこに行──っ」  腹部に感じる強い痛み。  ゆっくりと、視線を下げていくとそこには僕の血に濡れた透明な何か(・・・・・)があった。 「──ぐっ……ふ」  喉から何かが逆流する。  何事と唇に手を当てればそれは真っ赤な僕の血だった。  何が起きている──?  一体何が僕を襲っている──? 「透明化出来る魔法使いが仲間にいるのに、油断しちゃあダメだろ?」 「そ……の声……は」 「悪く思うな。エイト」  声が聞こえると共に、透明な物体に色が塗られていく──いや、戻っていく(・・・・・)。  腹を貫通し顔を出す鋼の刃。  背中からそれを突き刺しているのは────清々しい程の青少年、パック・クルセイダーだった。

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