やがて世界の終わりに君を撃つ【第二章連載中】

読了目安時間:5分

12.非日常の裏側

「バレるわアホーーーーッ!」  彼は叫んだ。肺活量の許す限りどこまでも叫んだ。ストレスフルな毎日の鬱憤を晴らすかのごとくシャウトした。 「頭おかしいのかなあいつ? バカなのかな? あーッ! もーッ! 腹立つゥー。なんでオレがあいつの面倒見ることになんの? ふざけてるでしょ。アッ。やっぱ殺そうそうしよう。オレが殺す。いいよねミズエ?」 「ミズエは先月に退職しましたが」 「えっ。マジ? そうだっけ。もったいないな」 「会長の無茶振りがすぎて首を吊りましたが……お忘れですかな」  彼は「会長」と呼ばれる立場にある。そう呼ばれるようになったのはつい三ヶ月前のこと。ただし、それ以前からも「会長」の仕事は彼がこなしていたから、「会長」の仕事には慣れたものである。 「思い出した」若き会長はこめかみを指でトントンと叩き、「ウチの製薬の研究所の冷蔵庫で首を吊った。なんであんなところにいたんだろうな。まあいっか。そんなことはいいんだよトクショー……は、ゲロ吐きながら辞表出したヤツか。……ん」  オールバックの髪を撫で付け、会長はようやく秘書の顔を確認した。柔和な顔をした還暦過ぎ。会長は咳払いをして窓の外へ向き直った。 「いるならいるって言ってよ。……親父は?」  夜の青い光に満たされた執務室。窓の反射越し、秘書はゆっくりと首を振った。 「あー。そう。死ぬならさっさと死んでくれたらいいのに」 「滅多なことを言うものではありませんよ。坊っちゃま」 「いや、坊っちゃまはやめてくんない。もう二十歳過ぎてんだけど」  秘書がくつくつと笑う。会長が会長でなかった頃。やれ天才だの神童だの誉めそやされていた頃からの付き合いだから、会長は秘書に苦言を呈することもない。会長にとって数少ない、気を許せる他人だ。かいちょうは決して表舞台では見せないむすくれ顔だが、地上四十七階のビルの窓の外からそれを見咎める者もいまい。 「オレって普通に優秀じゃん。うまれたときから」 「ええ、そうですねえ」 「……けっこう偉いじゃん。権力的に。あと強い」 「それはまあ、だいたいの我儘は通りますねえ」 「なのにさ」壁際に放置されたままのエフェクターボードをつま先で小突く。どうでもいいもののはずだ。けれど、大袈裟に蹴りつけることはできなかった。「ままならないよねえ。ホント、この世界は全ッ然、思い通りになってくれやしない。そりゃあね。畑違いなのはわかるよ。オレは主に経営者なわけでね? 現実性のあるものを相手にするのが仕事じゃんか。つまり、金です。オレの仕事はカネですよ。政治は金になる。戦争は金になる。だからさあ、俺、守銭奴の政治家とか戦争屋は好きなんだよね。宗教も好きだ。あれは金を巻き上げる最高のツールだ。だけど、神。奇跡。教義。世界滅亡(ハルマゲドン)。ガワの中身は嫌いだ。それは理不尽の正当化だ。諦めの極地です。反りが合わないんだよね。音楽性の違いっていうかさ。解散ですよ。オレはソロ活動したいわけでさ。それがどういうわけか十五年も付き合い続けてんの。神とか奇跡とか。新たな世界とか。知ったこっちゃねえよ。バカみてぇ。でも、マジでいるじゃん。そいつらさあ。神かは知らないけど。化物みたいなのがワラワラしてやがる。それが徒党組んで『世界滅ぼし隊』結成って狂気万歳みたいなことしちゃってさあ……」  コホン、と秘書が咳払いをひとつ。 「相当、お疲れですな。ご無理をされなくとも、ウチは安泰ですから。しばらく休まれてはいかがかな」 「安泰、ってそれ、本気で言ってる? ここ三年で敵対企業に仕掛けられた回数跳ね上がってるし、そのせいでオレはまだ……──伊織を、探せてない」 「弟君のことですかな」  会長は自分の下唇をつねって、わずかに血が滲んでいる。幼少のみぎりより、彼が苛立ったときの悪癖だった。 「それ。()()()()()()になってるからさ。オレがひとりで伊織を探さなくないといけないし。イカれた秘密結社と組んで化物探ししないといけないし。で、連中出し抜かないといけない。出し抜けると思うよ。〈連合〉は化物の所在を掴めないけど、オレにはもうわかってる。なのに……なのにさあ……」  窓の外は天地がひっくり返ったよう。眼下の都市はきらびやかな天空の輝き、頭上の夜空は地の底の静寂を湛えている。 「柊見捨てろって言ったじゃん……苗代沢先輩の善人パッパラパー……それに乗るあいつもあいつじゃん。オレもう嫌になっちゃったな。カジュアルに時間とか確率操作したりとか……オレは気が気じゃないんですよ。いつ暇人連合にかぎつけられるか」 「〈世界生命管理連合〉ですかな」 「……いちいち言い直さなくていいよ。数百年近く化物追いかけてる暇人なことには変わりないわけだし。〈狂気の暇人連合〉とかでよくない? ……ああ! まーた腹立ってきた! クソが! 時間を! 戻すな! 時間を! 継ぎ足すな! フォローしてんの! オレが! あーッ! 死んでほしい! 一刻も! 早く! 殺す!」  会長が荒れ狂っていると、秘書のポケットの中で携帯が振動した。コーリング。会長に構わず秘書は応答した。用件を聞いて渋い顔をする。会長は優秀だ。若干二十歳にしてグループ全体を率いることができている。しかし、子どもだ。万全の教育の下に育ったが、誰にも頼ることのできなかった彼は、生まれながらに完璧であることを求められた彼のその内面は、ひどく未成熟だ。  だから、秘書がこれを告げたらなお荒れるだろう。 「会長。報告が」  人格が切り替わったように落ち着き払った会長の目は黒く、深く、朔夜の闇を湛えてなお昏い。 「柊聖絵が誘拐されたようです」

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  • 魔法剣士

    駿河防人

    ♡1,000pt 〇300pt 2021年2月25日 6時50分

    後輩クン再登場。なんか怪しげな世界的組織の名前出たり、製薬会社とかなんか色々あれやこれやと繋がっていたりするのか楽しみ。

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    駿河防人

    2021年2月25日 6時50分

    魔法剣士
  • うどん

    朱坂ノクチルカ

    2021年2月28日 2時26分

    やがせか、実はそこそこ大掛かりな筋書きになっていたりします。色々繋がっていくワクワク感を出していきたです・・・!

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    朱坂ノクチルカ

    2021年2月28日 2時26分

    うどん
  • 殻ひよこ

    tara

    ♡5,000pt 2020年12月29日 11時14分

    更新ありがとうございます! 無事に戻ってこられた二人はどうなったのか、会長とは何者なのか、ラブコメ展開はやってくるのか……続きがとても気になります! 指示通りに動ける苗代沢さんも只者じゃないなと思いました。

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    tara

    2020年12月29日 11時14分

    殻ひよこ
  • うどん

    朱坂ノクチルカ

    2020年12月29日 13時53分

    いつも応援ありがとうございます。ポイントがたくさん…! 新キャラっぽく出てきたアイツとか、なかなか日の目を見ないラブコメ展開とか、じれったい展開が続きますが、何卒… 苗代沢くんは優秀ですが、本当にツキが悪いです。かなしい。

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    朱坂ノクチルカ

    2020年12月29日 13時53分

    うどん
  • 土偶

    澄石アラン

    ♡1,000pt 2021年2月27日 23時18分

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    これは興味深い

    澄石アラン

    2021年2月27日 23時18分

    土偶
  • うどん

    朱坂ノクチルカ

    2021年2月28日 23時20分

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    ありがとうございます!

    朱坂ノクチルカ

    2021年2月28日 23時20分

    うどん
  • 化学部部長

    三日月桜華

    ♡1,000pt 2020年12月30日 1時08分

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    これは興味深い

    三日月桜華

    2020年12月30日 1時08分

    化学部部長
  • うどん

    朱坂ノクチルカ

    2020年12月30日 1時59分

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    ありがたき幸せ

    朱坂ノクチルカ

    2020年12月30日 1時59分

    うどん
  • ひよこ剣士

    夜明

    ♡1,000pt 2020年12月28日 23時17分

    関係性がどんどん複雑になっていって、ハラハラする…!何はともあれトーキョー駅脱出おめでとうございます!誘拐されたきよちゃん、どうなるんだ…

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    夜明

    2020年12月28日 23時17分

    ひよこ剣士
  • うどん

    朱坂ノクチルカ

    2020年12月29日 1時31分

    およみいただきありがとうございます! ごちゃごちゃしてきました。大変だ。色々と絡まってますが、ひとまず、苗代沢くんときよちゃんの行く末にご注目ください。思い出したようにラブなコメに走りますので…

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    朱坂ノクチルカ

    2020年12月29日 1時31分

    うどん

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